第14話 あうと

茜が驚いた様子で固まる。


俺は、ぽつぽつと語る。


「ゲームにフルダイブして、視覚どころか、触覚、嗅覚、聴覚・・・色々とリアルだったのは、次世代技術って事で自分を誤魔化してた」


頑張って誤魔化していた。


「指輪やグラスとの接続が有線じゃなかったり、機器認証が無かったのも、まあ、無理に納得しようとしていた」


「せ・・・先輩・・・?」


「そもそも・・・気にしてなかったが・・・このゲーム機さ・・・よな?」


「・・・えと・・・ごめん・・・私、難しい事は分からない・・・から、さ」


電源が繋がってない、は難しくない。

そもそも、ネットに繋がっているのかどうかも怪しい。


「そもそもおかしいんだよ。俺、地元では、ネットでも、雑誌でも、情報を大量に仕入れていたのに・・・フルダイブできるとか・・・現行の技術では説明できないとか・・・そんな話、一切聞いた事が無かった・・・正確には、ネットの噂で、オーバーテクノロジーとだけ記載があった程度だ」


「・・・それは、たまたまじゃ・・・?」


たまたまで綺麗に情報をスルーしてたまるか。

最新鋭機器って言われてる、10万円以上するHMDとか買って、楽しんでたんだぞ・・・?


「極めつけは・・・なんだよ、コマンドワード、とかで、物体が消えるって・・・科学的に説明できる訳無いじゃないか」


「いや、実際に昔からできてるよ・・・?」


そう。


「恐らく、おかしいと思わない様に、なってしまっているんだ。これはきっと・・・魔法とか、その類いなんだ」


「先輩・・・魔法って・・・そんな非現実的な」


「物体が消えたり現われたりする方が非現実的だよ!これが仮想世界ならまだしも、此処は現実だぞ?!」


俺は叫ぶ。

俺は、確かにDDSに憧れていた。

確かに、最高の体験ができた。


でもこれは・・・違う。

これは・・・現実にあって良い現象ではない。


「俺は・・・俺は、気付いてるぞ!俺は・・・認識できているぞ!これは・・・異常だ!」


俺は天を仰ぎ、叫ぶ。


「せん・・・先輩!」


茜が心配そうに、俺を揺する。

恐らく、茜はこれに気付けない。

長く此処に住んでしまっているから。

これを当たり前と思ってしまっているから。

だから──


むに


「先輩、落ち着いて・・・とりあえず・・・おっぱい揉みますか?」


えっと・・・


うん・・・


「う・・・あ・・・せ、先輩、待・・・待って・・・やぁっ」


どん


茜に強い力で突き飛ばされる。

はっ


「せ、先輩、ごめんなさい」


真っ赤になった茜が、俺に覆い被さっている。


「・・・こ、こっちこそ、すまん」


つい。


「あの・・・先輩、大丈夫・・・ですか?」


「・・・そ、そうだな」


よくよく考えれば・・・些細な事だった。

俺は、DDSの為に此処に来たんだ。

そして、DDSは想像通り、いや、想像以上に素晴らしいものだった。


俺は・・・


「すまない。取り乱した。そうだよな・・・俺は、DDSをできるんだ・・・」


そして、


「すまん、茜、心配かけたな。もう大丈夫だ」


「先輩・・・ごめん、私、頭悪いからさ・・・先輩が言ってる事分からなくて・・・」


「悪いのは俺だ。そう・・・」


そう。


「茜、これからもよろしくな・・・良い彼氏になれるよう頑張るよ」


「あの・・・私も・・・良い彼女に・・・頑張ります」


外が暗い。

帰らないと・・・叔母さんが、叔父さんが心配するな。


「茜、明日もまた、学校で、よろしくな」


「はい!」


俺は、サングラスを手に取ると、


「収納」


指輪とサングラスが消える。


「じゃあ、おやすみ、茜」


「はい、おやすみです」


可愛い彼女と別れ、帰宅の途についた。

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