◇第二十四話◇
予定されていた健康診断当日。そして更に注意喚起までされていた献血。稜は難なくこなし、蓮は少しばかり嫌そうだったが、何とか無事に終えることが出来た。
二人揃って別教室で待機していると、献血室から何人かの悲鳴らしきものが聞こえてくる。
「この学校、注射嫌いな奴多過ぎだろ。俺も嫌いだけど」
まるで極道同士の乱闘が行われているようだ。確かに血は出されているが、そんな子どもに見せられないような世界が広がっているわけでも無いはずなのだが。
一通り終わった二人は、最後に身長などの結果を記載するための健康診断用の用紙を提出し、暇を持て余した。
「帰っても無駄だし、かと言って今日は仮入部やってねぇしなー」
特にすることも無く、仕方なしに学校から出る二人。他に帰って行く生徒の中に知っている顔があり、蓮はその人物の元へ掛けて行く。
言わずもがな、その二人は春と薫だ。
「よー、お二人さん!今帰り?」
「お、朝霧か。まぁ、やる事も無いしな」
「ですよねー、分かる分かる」
四人だけではなく、別の生徒たちもほとんどが予定も何も無く、遊びに行く約束をしていた。
「なぁなぁ稜、俺たちも──」
「行かない」
「即答かよ」
拒否されるのは分かってはいたものの、やはり何処かには行きたい。別に何処でも良いのだ。カラオケでもファミレスでもゲーセンでも特に拘りは無い。
一人で何処かに行くのもそれはそれで良いかもしれないが、一人があまり好きではない蓮にとっては寂しいものだった。
「ファミレスなら丁度行く予定だったし、一緒に行くか?」
そう提案したのは薫だった。普通女子高生というものは異性と二人きりで何処かに出掛けることに多少の不満が湧くものだが、彼女にはそれが無かった。勿論、蓮も同様のことが言える。
変なところ気の合う二人だった。蓮は「行く行く!」と二つ返事でオッケーし、勝手に消えてしまった。
「えー……。相変わらず勝手だなー」
何故か取り残された二人。ほとんど接点の無いこの二人が仲良くお喋り、なんて出来るはずもなく。そもそも春は蓮ともあまり関わりが無い。フレンドリーとは程遠い二人が揃えば、会話が上手く続くはずもない。それでも気を使ってか、春は恐る恐る話しかける。
「えーっと……。雨夜くん?だよね。趣味とかってあるの?」
超初級の質問を投げかける。が、稜はいつも通り黙りを決めた。薫、奏、蓮の三人ならば気にせず話しかけるのだろうが、春は至ってまともな人間だ。会話のキャッチボールが出来ない相手と話題など続きはしない。その上他の話題など振れもしない。
頑張って何かを話そうとするが、そもそも今流行りのファッションなどが男女の間で盛り上がれるわけもない。春自体がそういうことに対して疎いことも含め、二人には全く合わない会話だ。
春を無視して勝手に歩き出した稜の後を着いて行く。特に意味は無い。寧ろ一人になった方が楽なはずなのだが、春は反射的に着いて行ってしまった。
「入りたい部活は?好きな食べ物とかは?」
何を聞いても答えてさえくれない。そんな苦痛を自ら選んだ春も変わり者だ。
自分の声が聞こえてるのか段々不安になってきた春。「あの、」と声をかけた時、稜の足が止まった。つられ、春の足も止まる。
「雨夜くん?」
「……疲れねぇか、それ」
「え、何が?」
やっと口を開いてくれたかと思えば、理解不能の内容だった。一体なんのことか分からない春は首を傾げる。一方、つい口をついて出て来てしまった言葉に戸惑い、口元を抑える稜。
教師を除き、関わりのほとんど無い人間と言葉を交わすことは初めてだった。反射的に言葉を発してしまった原因は何となく自覚していた。理由は言葉に詰まりながらも、春は懸命に会話の内容を探していたからだ。
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