天宮聖羅Ⅶ 友達

天宮聖羅Ⅶ-1

「何かあったら連絡してねと言ったわよね」


 天宮が叱りつける。


「ごめんなさい」


 なぎさがしゅんと肩をすくめた。


「まあ、でも大事に至らなくてよかったわ」


 そう安堵すると、打って変わったように、なぎさが目をくりくりさせた。


「ホントに調子がいいんだから」


 なぎさからの一報を受け、天宮たちが駆けつけたことで、研究所の入り口には全員が揃っていた。着いて早々に現状の確認と、情報の交換を行った。もちろん、相談なく勝手な行動したことに対してはきつくお灸をすえたつもりだったが、さきほどのなぎさの態度からそんなに効果はないようだった。


 その後、一丸となって研究所内の建物内を探索してみたが、なぎさどころか人ひとりいるような気配もなかったので、これ以上は意味がないと切り上げることにした。


 結局、病院でも研究所でもたいした成果をあげることはできなかった。だが、疑問に思われていたことがはっきりと確信となったことだけは唯一の報酬だった。この黒い煙の濃度によって、化け物はその姿をより確かなものへと変貌させること。それに伴い力が増幅すること。またその化け物を退治すれば、煙の濃度は薄まるということ。


 いま思えば学校で力を得たときに、そこらじゅうにいた化け物を倒したことで、初日の進行が遅くなったのだろう。


 当初の仮説が正しかったことだけでも、進展があったのは嬉しかった。


 だが、肝心の高校生のなぎさと、桐山という男の足取りについては、あいかわらず何の手掛かりも得られていない。


「あの……」


 これからどうするべきか考えあぐねていると、秀一が話しかけてきた。


「天宮先生、刑事さんと知り合いなら、月島さんや桐山について何か情報がないか、聞いてみることは可能でしょうか?」


 盲点だった。


 たしかに、警官の橘ならなんらかの知らせが来ていてもおかしくはない。天宮はすぐに橘の携帯に電話をかけた。運よく1回で着信音が止まった。


「もしもし、橘さん」


「おう、天宮か。どうした?」


 ろくに休めていないのだろう、その声はかすれていて、疲弊しきっているのがありありと感じられた。


「ごめんなさい、橘さん。忙しいのはわかっているけど、どうしても教えてほしいことがあって……」


「教えてほしいこと? おい、お前いまどこにいる? まだ逃げてないのか? いまこの町がどうなってるか、知らないわけじゃないだろう!」


 怒気の混じった力強い口調で橘が戒める。


「お願い、とても重要なことなの。それがこの一連の事件の鍵になるかもしれないの」


 橘はしばらく黙っていたが、堪忍したかのように、

「なんだ?」とぶっきらぼうに尋ねた。


「ほんの数日前に月島なぎさという高校生が行方不明になったの。そのことについてなにか警察に情報が届いていない?」


「月島……なぎさ」


 橘はその名前を反芻し、頭の中で検索し始めた。


「行方不明者の捜索は担当じゃないんだ。だが、署に行けば何らかの糸口があるかもしれん」


「あと、桐山っていう苗字の30代くらいの男性についても調べてほしいの」


「桐山? 下の名前は? それだけか」


「芽実ちゃんという小さな子供がいるはずだわ」


「それだけだとかなり厳しいな。まあ、いまちょうど署に向かっているところだ。何かわかったら連絡する」


 橘はそれだけ言って、一方的に電話を切った。


「警察署で調べてくれるらしいわ」


 天宮は電話の内容を簡潔に説明した。


 これでももし何の情報も得られなかったら、完全に八方塞がりだ。


 いや、手掛かりがないというわけではない。天宮はあの廃校となった小学校を思い起こしていた。あの場所の奥に洞窟のような場所があると橘は言っていた。さらにそこからこの黒い煙が発生したのではないかとも話していた。最初に力を手に入れたのも、そこから近い小学校だ。みんなの話では研究所内はまるで別世界で、携帯もつながらなかったらしい。あの小学校も携帯が使えなかった。あそこには何かあるような気がしてならない。橘からの結果次第だが、もう一度行ってみる価値はあるだろう。


「とりあえず下手に動いても仕方がないし、ここもまたいつ危険になるとは限らないわ。橘さんの連絡が来るまで、私の家ですこし休憩しましょう」


 そう言うと天宮は自宅に戻るべく、車に乗り込んだ。

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