杉野颯太Ⅲ-3

「颯太、秀一!」


 すぐ近くで声が聞こえた。見ると、優花と天宮たちがこちらに走ってきている。


「なんだよ」


「なんだよじゃないでしょ! やたらトイレが長いから、てっきりあの化け物に襲われたのかと思って、慌てて探したんだよ!」


「2人もだいじょうぶなの?」


「すいません……大丈夫です」


「平気だよ、ただすこしぼうっとしてただけだ」


「ぼうっとって……状況わかってる?」


「わかってるよ。それよりもそっちはどうだったんだ? ここに来るまでになぎさを見かけはしたのか?」


 優花の表情が曇る。


「まだそんな探したわけじゃないけど……」


「とてもじゃないけど、人がいそうな雰囲気はないわね」


 校舎は物音ひとつ立てずに、まるで巨大な墓石のように鎮座していて、生命などまるで感じさせなかった。


「優花、俺はここになぎさはいないと思う」


「えっ」


「それに昨日ここにいたのは小学校姿のなぎさだろ?」


「そうだけど……」


「たしかに、ここに月島さんがいる確証は何もないね……」


「秀一の言うとおりだ。こんな人気のないところに、わざわざ来る理由なんてない。もし誘拐か何かされてここに連れてこられたとしても、さっきの化け物に——」


「そんなわけないよ!」


 優花が即座に否定する。


「なぎさは無事だよ、絶対に無事だよ!」


 両肘を地面につき、優花は泣き崩れてしまった。


 颯太と秀一は顔を見合わせ、深くため息を吐いた。


 天宮はかがみこみ、優花の名前を呼びながら肩に手をかけたが、それ以上どう声をかけていいかわからず、じっと様子を見守るしかなかった。しばらく背中をさすっていたが、ふと彼女は何かに気づいたのか、顔を上げてあたりを確かめるように首を振った。


「そういえば神那くんは?」


「さっき校舎のほうへ向かって行きましたけど……」


「ちょっと楠原くん、なんですぐ言わないの!」


「いや、あの、その……」


「いくら彼でも1人は危険だわ。追いかけましょう!」


 慌てふためく天宮をよそに、颯太は冷静に優花の手を取った。


「優花、行くぞ。神那を探さないと。なぎさももしかしたら見つかるかもしれない」


 優花はくずつく瞳を指でぬぐい、無言のまま立ち上がった。


「どうする? 教室1つ1つ探していくのか?」


「考えている間も時間は過ぎていくわ。とりあえず校舎の中に入りましょう」


 一同はうなずき、1階から順に回ることにした。 


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