幕間:追いかける
めぐりめぐり、巨大なスライムを新たな宿主としていた寄生者は、あの毛なしザルとの再会を果たした。
彼とはこれまでの宿主とともに、幾度となく牙を交えてきた。オオカミの中で、巨躯のサルの中で、あるいはあの日目にした白毛の中で、彼と宿主との命をかけた争いを見守り続けてきた。会うたびに強くなっていく彼の戦いは、終わらない冒険小説を読むかのように幾度となく寄生者の感情を高ぶらせてきた。
他のどんな生き物も、彼のようなキラキラとした美しさを備えてはいなかった。宿主の牙が彼の血を散らすたび、あるいは彼の刃が宿主を斬り裂くたび、寄生者の世界は眩いほどに光煌めいたものだった。
だが――。
(私に勝つことはできないだろう)
スライムの中で、寄生者は言葉にならない思考でそう確信していた。
今回の宿主はこれまでのどのような生き物も比較にならない強大さを誇っていた。一年余りに及ぶ仮宿生活で幾度となく外敵が訪れたが、脅かされたことなど一度たりともなかった。
(――彼もそうなるのかな?)
多くの外敵と同様に、この宿主の体液に溶かされ、吸収される。
そんな未来を描くほかなかった。これに勝てる者など、寄生者の発展途上な思考力では想像することも難しかった。
感情として、とても残念なことのように思えた。その逆に、あの美しい彼を(宿主のものとしても)この身の糧にできることに愉悦を覚えずにはいられなかった。
せめて、その最期の姿を見届ける。美しくもがき散る様を記憶に焼きつける。
寄生者にできることはそのくらいだけ、そう思った。
だが――。
初めて見る光景だった。彼は背中から腕を生やし、光る武具を手に果敢に攻め込んできた。
宿主の触手に吹き飛ばされようと、溶解液をその身に浴びようと、怯むことなく光る刃で切り開いていった。
(なんて、なんて――)
彼の剥き出しの殺意に、放たれる咆哮に、閃光のように瞬く勇気に、ぶつけられる魂の一撃に。
寄生者はたとえようもないほどの感動を覚えずにいられなかった。
(彼は強くなった――この宿主を滅ぼすほどに)
やがてその刃が急所にまで到達し、宿主のすべての知覚はぶつりと途切れた。寄生者は再び無音無光の闇に閉じ込められた。
だが――光はすでにその真っ暗なまぶたの裏に焼きつけられていた。
また彼と会いたい、強くそう思った。
彼はどこへ行くのだろう。こことは違う場所へ行ってしまうような予感があった。
(――追いかけよう)
彼のにおいを。姿を。足跡を。
すべてをたどり、そのあとを追う。彼をさがし出す。
今では、下等な宿主であれば、その意識へ介入する能力を持っている。
たとえあと何度死のうとも、絶対に彼にたどり着く。
――寄生者に初めて芽生えた明確な願望であり、夢であり、意思だった。
今度こそ彼を殺すのか。それともまた彼に殺されるのか。
どうなるにせよ、次は自分自身で彼と直接触れ合う。
そのときが待ち遠しくて、闇の中でも寄生者の心は躍るようだった。
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