紙とペンとサバイバル

@yassy

第1話

この無人島に漂着してから二日が経つ。

取材のために乗っていた漁船が嵐で転覆し、必死で泳ぎ着いたのがこの島だ。

周囲数百m程度の小さい島で、残念ながら食料になるものや飲料水は見当たらなかった。

あるのは枯れ木と雑草ぐらいだ。

運良く昨日の夕方にスコールが降ったためそれを必死に手ですくって飲むことが出来たが漂流してから口にしたものはそれだけだ。

このままでは遅かれ早かれ餓死することになるだろう。

いや、その前に脱水症であの世行きかもしれない。

なんとかしてこの島から脱出する方法はないものか。


持ち物は常に肌身離さず持っていた紙とペンだけだ。

あとは泳いでいる間にみな何処かへ流れてしまったようだ。

この万年筆は俺が新聞記者になったときに親父がお祝いに買ってくれたものだ。

親父と同じ職業に就いたことをすごく喜んでくれたっけ…

こんなところで死んでしまったら、親父は悲しむだろうな…

照りつける太陽の熱でボーッとする頭で縁起でも無いことを考えていた。


ふとその時、水平線ギリギリのところに何かが見えた。

その何かは非常にゆっくりと水平線上を右から左へと移動している。

船だ!

なんとかして俺がここにいることを知らせなければ!

「おーい!おーい!」

俺は必死に叫んだ。

飛び上がりながら手を振り続けた。

だが、船は何も気づいていないように水平線上を右から左へと移動しているだけだ。

このままではいずれ視界から消えてしまう。


そうだ、火をおこして煙で伝えれば良いんだ!

俺は近くに落ちていた枯れ木を手に取った。

いつかテレビで見たように枯れ木同士をこすりつけて火をおこそうと試みる。

しかし、枯れ木は強度が足りず、こすりつけようとしてもすぐに砕けてしまう。

そうしている間にも、船は左へ左へと無情に進んでいく。

万事休すか…

親父、ゴメンな…


諦めかけたその時、頭の中にアイデアが浮かんだ!

俺はポケットから紙を取り出した。

紙はこの二日間ですっかり乾いていた。

俺は親父からもらった万年筆のキャップを開けて、恐る恐る紙に線を引いてみた。

問題ない。

海水に濡れたはずだが、万年筆はその機能を失っていなかった。


俺は必死に紙を黒く塗りつぶしていった。

十分な面積を塗りつぶしたところで、万年筆は全てのインクを使い切ったようだ。

「確か、海水は表面張力が高いはずだ」

俺は独り言を言いながら、万年筆の先を海水に浸した。

ゆっくり引き上げると万年筆の先にきれいな水滴が出来ていた。

「よしっ!」

俺は太陽の位置を確認し、万年筆の先に出来た水滴を通過した光が紙に当たるよう試みた。

黒い紙の上で太陽光線が最も明るくなるよう位置を一生懸命微調整した。

しばらくすると黒い紙から煙が上り始めた。

この二日間、恨みにしか思わなかった太陽の光を今ほどありがたく感じたことは無かった。

みるみるうちに煙の量は増えていき、ついに紙が炎を灯した。

急いで周囲の枯れ木を集めて火をさらに大きくしていった。

炎はメラメラと音を立てながら枯れ木を燃やしていった。

夢中だった。

もっと大きく、もっと強く!


祈りを込めて見つめると水平線を漂っていた船がこちらに向かってきていた。

助かった…

親父、ありがとう…


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