第2話 うずくまる男

 まだ初夏とはいえ、若い学生の熱気で2人を取り巻く空気はムンムンしていた。特に司は身長が低いので熱気を全身に受けヨロヨロしていた。みかねたあるとが近道をしよう、と路地裏へ司を引っ張り込んだ。


「っぷはぁ!! ありえねぇ!! 何あの熱気!」

「あの程度でへこたれてたら、夏はもっとつらくなるよ?」


 路地裏の冷たい空気を吸いながら、司は長身のあるとを妬ましそうに見上げた。


「どうせ俺はチビですよ! あーあ、あるとぐらいとまでは言わないから俺も身長伸びてほしいなー!」

「ははは……まだ僕達16歳だから伸びるよ……たぶん」


 言葉尻で目をそらしたあるとの視界に白い大きな石のようなものが入る。何だろうと目をこらすと、それは人がうずくまった姿だった。


「大変だ、司。人が倒れてる」

「え……マヂ?」


 いうやいなや、あるとは走って行ってしまった。慌てて司も後に続く。


「大丈夫ですか? しっかりしてください!」

「おい、ヤバいんじゃねぇの? 救急車呼ぶ?」


 司がスマフォを取り出すと、うずくまっていた人が司の足を物凄い力で掴んだ。


「うわぁ!? な、何!?」

「だ、大丈夫ですから……救急車やめてください……」

「わ、わかったから手を離せよ! 痛いし……何なのこの人……」


 ヨロヨロと起き上がった人は、ぶ厚い丸眼鏡をかけ、金髪のボサボサの髪を肩のところで束ねている男だった。薄汚い白衣を着ているが、変な臭いがするわけでもなく、不潔感もない。


「外人……?」

「大丈夫ですか? よかったらこれ飲んでください」

「あ、ありがとう」


 見知らぬ倒れていた男に水筒のコップを渡すあるとを見て、司は俺にはできないと感心していた。

 喉を鳴らしながらお茶を飲み終わった男はコップを返し、あるとの手をぐっと握った。


「オー! アリガトゴザイマース!! ニッポンジンシンセツネー!」

「あんたさっきちゃんと日本語喋ってたじゃねぇか。足掴んだの忘れたとは言わせねぇぞ」

「……あの、大丈夫なようなら僕達急いでるんで」

「……! ま、まってください!!」


 男は慌てた様子であるとの手を両手で握る。


「親切な少年、私の名はガナルカタル秋月。しがない科学者です。あなたの親切心にお礼がいいたい、受け取ってください」

「これは……」

「ボイスレコーダー?」


秋月はあるとにそれを握らせると立ち上がった。


「それは[たとえば~だったなら]と~の部分に願望を当てはめて録音すると願いが叶うという私の発明品。本物ですよ、ただし代償がいりますが」

「「はぁ?」」


 何を言っているのだろうか。そんな魔法の代物を信じろとでも言うのだろうか?


「信じる信じないも、使う使わないもあなた次第です。たとえば君を大事にしてくださいね。君にはこれをあげましょう、使うことがなければいいですね」


 にこりと笑って秋月は司に名刺を渡し、立ち去った。


「俺には名刺かよ……ってあるとヤバい! 遅刻する!!」

「あ、あぁ」


 2人は取りあえず受け取ったものをズボンのポケットに突っ込み、学校へと走り出した。


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