雨降る街は死ねない街

日傘 つかさ

雨の街と約束 編

第0話 約束


「おいクソガキ、頼みがあるんだ。」


獣の頭部を被る者が言った。

いつもそう呼ばれる少年が振り返る。


木々が生い茂る森。山の奥で、2人は対峙した。


「それが物を頼む態度かよ...」


少年は言葉を濁したが、獣の頭の者は気にも止めず続けた。


「会いたい人間ひとがいるんだ。会いに行きたい。雨の町にいるらしいんだ。一目見るだけでいい。それだけでいいから。」

「…」


頭を下げて、赦しを乞う。

獣の垂れ下がった耳が、ぶら下がる。


滅多にしないような行動に、少年は驚いて詰め寄った。

裸足のまま、入り組んだ木の根を踏み分け、彼に近寄る。


垂れた頭を下から覗き、少年は口を開いた。


「いいよ。その代わり僕の願いも聞いて。」

「お前の?」


謙遜の色もなく顔を上げる。

それに不満そうにため息を吐いて立ち上がり、一歩下がる。


「雨の街でしか、できないことなんだ。」




深い深い森の奥。高い高い山の頂。

大樹が根を張った大きな森。


そこには、獣の神が住まうという。


確立した国と社会が成り立ったこの世界。

それでも神話が身近に迫った世界。


ここで、新たな物語が紡がれる。

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