四章 2 『青は照らされ煌めく』

 四章 2 『青は照らされ煌めく』




 その日は朝の六時半に目を覚まして一日を始める。

 いつものようにトイレ、歯磨きを済ませ再度荷物の確認をしておく。向こうまで行って忘れたでは済まされない。

 朝ごはんは途中で買うことになっているのでまだ食べずに着替えを済ませ玄関へ。

 時期的にもこの時間の外は充分明るい。外には既に晴香と華絵ちゃんが待っていた。


「おはよう」


「おはよう咲都くん!」


 晴香は少し眠そうな感じで。華絵ちゃんは相変わらず元気に。


「おはようお二人さん」


 服装は二人とも合わせたのかワンピース。晴香は水色の、華絵ちゃんは薄いピンクのワンピースで実に涼しげだ。そしてお揃いの麦わら帽子。昨日買ったのだろうか? 二人とも実に可愛い。

 今日はこの二人に瞳姉というメンツ。ここまで美女が揃えばラッキーと言う気持ちもあるが少しだけ気後れする。


「この時間なのに暑いね!」


「だな〜。嫌になってくるよ」


 華絵ちゃんの言うようにそれなりに暑い。時間は早いが時期が時期、まさに夏真っ盛りと言っても過言ではない。

 セミも悪いがうるさいぐらいに鳴いている。……セミって美味しいらしいけど本当だろうか? 少し気になった。


 時刻は六時五十七分。瞳姉が来るまで三人でたわいもない話をしていると


 ーードゥォルルゥゥン


 少し先で聞こえるエンジンの起動音。


「あっ、瞳姉もう来るな」


「え? 咲都くんどうして分かるの?」


「あぁ、今の車のエンジンかける音が瞳姉の車と一緒だからかな。あと距離的に」


 瞳姉が住んでいる場所はオレたちの家からそう遠くない。なのでよく分かる。

 そして聞き慣れた排気音が近づいて来る。


「おはようみんな。華絵ちゃん手荷物以外はトランクに入れてね」


「はい!」


 瞳姉の愛車はスバルのインプレッサ。俗にgc8と呼ばれる型式のうちの一つを乗っている。

 色はソニックブルーマイカ。まあ大まかに言うとメタリックブルー。ホイールの金色と車体の所々にある六連星がイカすな素晴らしい車だ。

 水平対向エンジンから繰り出される独特の排気音、ボクサーサウンド。ドコドコと体の芯に響くような低い排気音が最高にカッコいい!

 なんでこんなに語るかって? そりゃもちろんこの車に惚れた人間の一人だから。そして将来乗りたい車でもある。


「相変わらずカッコいい車だな。見るたびに免許が早く欲しくなるよ」


「咲都は私の車ほんとお気に入りね。まあ確かに私のgc8は最高にクールだけどね。それよりもほら、乗った乗った」


 朝の日差しに照らされた車体がキラキラと輝く。

 この音と車体を見ているだけで飯が食える気がする。いや、食えるなこれは。


 車に乗り込み目的地のーーそう! 海へ!


 晴香と華絵ちゃんは後部座席。オレは助手席に座り車内でもボクサーサウンドを楽しみながら気分は高まっていく。

 三人の水着姿が見られると思うとそれだけで……ヤバイことになりそうだ。


「てか晴香は珍しく少し眠そうね。どうしてなの?」


 瞳姉が言うのも分かる。晴香が眠そうにしていることは滅多にない。


「お弁当作るのに張り切って早起きし過ぎちゃった」


 何を隠そう今日のお昼ご飯のお弁当は瞳姉と晴香の担当になっている。華絵ちゃんも晴香の方を手伝っていたらしい。

 そしてオレは早起きして作るのが嫌だったので弁当は三人に任せみんなの飲み物を買う係を買って出た。


「なるほどね。二人の作ったお弁当が楽しみね。ね、咲都」


「そりゃ楽しみだな。もちろん瞳姉のも」


 楽しみはお昼にとっておき朝ごはんを買いにコンビニへ。


「はーい、三人とも好きな飲み物オレのカゴに入れてね〜」


 重たい。買い物が終わった頃にはオレは何故か飲み物持つが仮にも勝手に就任させられていた。

 車の中で朝ごはんを食べ再出発。


 高速道路に乗ってからしばらく、車にかかっている音楽を聴きながら景色を眺めているとーー


「後ろえらく静かね。寝てるの?」


 瞳姉が運転しながらポツリと一言。

 確かに静かだなと思い後ろを振り返ると


「マジで寝てますわ。晴香も華絵ちゃんも」


 そこには二人が互いに寄り添うような体勢で寝ていた。晴香の寝ている顔なんていつ振りに見ただろうか。

 寝顔もまた天使みたいですねお二人さん。最高の瞬間を拝ませて貰った。

 しかし見るだけで終わらせるのは勿体ない。オレはおもむろに携帯電話を取り出し


 カシャッ!


 一枚記念に撮らせて頂いた。

 最低、と思ったそこの女性方、何も言い返せませんごめんなさい。

 しかし隣の運転中の女性は


「……黙っておいてあげるから一枚送っておいてね」


「ラジャー」


 完璧に同罪。共犯もいいとこだ。


 そして高速道路に乗り数時間、見えてきたのは


「華絵ちゃん、起きて外見てみ」


「ん……外? ……わぁ! 海!!」


 暑い日差しに照らされ青く深く煌めく海がそこには広がっていた。


「……どうしたの華絵」


「あ、ごめん晴香ちゃん。大きい声で起こしちゃったね。でも見て! 海!」


 そういえば華絵ちゃんは海行ったこと無いって言ってたっけ。

 直に見るのも初めてなのか寝起きとは思えないほどテンションが明らかに上がっている。


「あぁ、キラキラしてて綺麗ね。後でみんなで写真撮ろうか」


「うん!」


 それから数分、お目当ての砂浜に到着し荷物を運ぶ。

 ここは広い海水浴場ではなくどちらかと言うと穴場的な場所だ。時期の割に人もあまりいないしゆったり出来る。


「さてさて、荷物も一通り運び終えたし三人とも着替えて来いよ」


「うん。でも咲都着替えは?」


 オレは天才だからな。その辺の準備も済ませてある。家を出る前にな!


「下に着てるこの短パン、実は水着なんですねぇ。と、言うわけで上脱いで準備体操して……一足先に行ってきま!」


 す、を言わずに飛び出すように走る。


「え⁉︎ それ水着だったの!」


「え? 晴香気づいてなかったの?」


「すご〜い! 咲都くん頭良いね!」


 そんな声を後ろにオレは海へと走りそして背中からダイブ!

 冷たい海の水がオレの体を包み日で火照っていた体を冷ます。独特の塩の匂い。プールとは違うこの感じ。最高に気持ちいい。

 ちなみに泳ぎはスイミングスクールに通っていたのでどうって事ない。


「あぁ〜気持ちいいですなぁ〜」


 今日は海の中を見るために水中ゴーグルも持参しておいた。用意周到とはこの事?

 透明に澄んだ水の中には少し遠くに数匹の魚達が悠々と泳いでいる。

 海の中に差し込む日差しで鱗がキラキラと反射し七色にも見える。

 実に、実に綺麗だ。これだけでも来た甲斐が少しはある。

 しばらくその魚を遠目で観察して辺りを見回す。

 ーーと、オレの目の前には最高の美脚が現れていた。

 いきなりのラッキー生足にビックリしその勢いで立ち上がりそこには


「ーー何してるの咲都?」


 晴香が浮き輪片手に仁王立ちしていた。そして後ろから華絵ちゃんと瞳姉が。

 そこには水着姿の美女三人が揃っていた。

 オレの目が正しければ今まで生きてきた中でも最高の光景ではなかろうか。

 晴香は髪や服と同じく水色、華絵ちゃんも服と同じく薄いピンクの水着だ。二人ともホルターネックという種類のビキニだろう。なぜか知っているオレ。

 そして瞳姉はパレオとかいうタイプのやつだろうか。水着は黒、下のスカートの様なものは白色だった。相変わらずクールビューティー。

 この三人の水着の上にパーカーがあればオレの完璧な理想図だ。

 しかしデザインより目を引くのはやはり三人の言ってしまえば下着とそう変わらない格好で


「海の中を観察してましてぇ……」


「どうしたのそんなにマジマジ見て?ー


 完璧に年頃のオレにはエッチく映ってしまう。


「い、いや別に。三人ともよくお似合いで」


 後ろを向き目を瞑る。抑えろオレ。平常心平常心……ふぅぅぅ。

 目を開け振り返るとそこにはーー


「……ほんとよくお似合いで」


 やはり最高の景色が広がっている。

 鉄矢に宇多くん、そしてその他諸々の男子よ、絶景ですよこれは。


「ありがと。可愛いでしょ?」


「ありがとう咲都くん! 昨日二人で選んだ甲斐があったね!」


「マジで可愛いな。オレじゃなかったらぶっ倒れるぞ」


「とか言って咲都も割と倒れそうだったりして」


「んなわけ……ないですよ」


「何故に敬語?」


 なんとか倒れそうではないが直視は厳しいかもしれない。それが敬語という形で現れてしまったのか。


「さて、じゃあせっかく来たんだから海を満喫しますか!」




 ーーして時は過ぎお昼になった。

 待ちに待ったお昼ご飯の時間である。

 今回は瞳姉がおかずを、晴香と華絵ちゃんがおにぎりを作ってきたらしい。


「さてさて、ご開帳〜」


 まずは瞳姉の方から。

 二段構造のお重の様な弁当箱の中、一段目には卵焼きにウインナー、唐揚げとエビフライが入っている。二段目には茹でたブロッコリーに枝豆、ポテトサラダが。


「美味そうだな〜。見てるだけでよだれが……。で、晴香と華絵ちゃんの方は」


 開けるとそこにはおにぎりが敷き詰められていた。

 しっとりとした海苔に巻かれた艶めく白米。それだけで食欲をそそる。


「この列が梅干し、鮭、昆布の佃煮にクリームチーズ入れたやつ、でこれが……」


 最後に晴香が指をさした列にあったのはラップで巻いてある少し茶色く色のついたおにぎりだった。


「お、これってもしかして」


「そう、咲都の好きなチャーハンおにぎりよ。瞳姉から前に教えてもらったから今日作ってみたの」


 瞳姉の作るチャーハンおにぎりはオレの好物の一つでもあった。どうやらそれを覚えていた晴香は今回作ってきてくれたらしい。


「それは嬉しいな。さっそく最初に一つ食べよ。それはそうと瞳姉、お願いしますー


「はいよ。じゃあ皆さん、手と手を合わせて」


「「「「いただきます!」」」」


 始まったお昼ご飯の時間。

 オレは宣言通り晴香の作ってくれたチャーハンおにぎりを最初にいただく。

 まずは一口。


「……味はどう?」


「……うん! 瞳姉の作ってくれるチャーハンおにぎりと同じだよ! 味付けも完璧だしラップで包まないと崩れるぐらいのパラパラ感といい。最高に美味い!」


「うん! これは美味しいね。晴香私の味を完璧に盗むなんてやるわね」


「良かったね晴香ちゃん!」


 瞳姉のお墨付きも出たのでこのおにぎりは完璧ということだ。晴香が小さくガッツポーズをしているのをオレは見逃さなかった。


「他のも美味いな」


「鮭と梅は私が握りました!」


 二人の女子高生が握ってくれたおにぎりはどれも美味しい。変な意味ではなく。

 瞳姉の作って来てくれたおかずも当たり前のごとく美味しい。

 特に唐揚げなんて絶品だ。下味がちゃんと付いており生姜が良く効いている。


 綺麗に弁当箱を空にして昼食の時間は終わりになる。


「さて、手を合わせて」


「「「「ご馳走さまでした!」」」」


「あ〜食った食った。最高の昼飯だったな」


 麦茶を一飲みして喉を潤す。


「さてさて、少しゆっくりしたらもう一潜りしますか」


 目の前の海の深い青は真昼の日差しを浴びてキラキラと煌めく。

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