三章 3 『梅雨の魔法練習ーーお約束』

 三章 3 『梅雨の魔法練習ーーお約束』




「じゃあやりますか!」


 気合いは一応充分ある。濡れてもいいように着替えももちろん準備してきている。てか絶対濡れるだろうし。


「まず何からすればいい?」


「ん〜そうねぇ……晴香よろしく」


「えっ私⁉︎」


「だって私魔法教えるの下手だしね……晴香も私が魔法の教え方下手なの知ってるでしょ?」


「まあ確かにほとんどイーアさんに習ったけど……しょうがないか。分かったわ。咲都、とりあえず今の精一杯の魔法を一発、正面に向けて飛ばしてみて」


 よっしゃきました。任せておけ。


「でもいいのか? 正面だったら危ないんじゃ……」


「この擬似空間の中だし大丈夫よ。現世と空間の間でどんな魔法でも消えるわ。この空間は私の家の周りに一定範囲しかないし」


 な〜るほど。そういう事なら遠慮なくぶっ放してやろう。

 見ておけよ晴香に瞳姉。それにイーアさんも。


 傘を放し体全体に雨を浴びて手に水魔法を集中させる。

 出来るだけ大きく保つ。出来るだけ大きく……だいたい1メートル四方の大きさだろうか。そしてそれを今度は圧縮するイメージで……小さくなっていく水の塊が虹色に光を放ち出す。よし、そのまま……


『アクアブレット』!


 ッシュッ!!


 オレが放った魔法は野球ボールぐらいのサイズになり手から離れて数十メートル先の何かに当たって弾け散る。

 山の家の時よりはかなり大きな魔法が出来たんじゃないだろうか。威力も申し分ないんじゃなかろうか? どうだったよ御三方……チラッと、


「ん〜、山の家の時よりはいいけど魔法を溜めるのも放てる状態まで持っていくのも遅いわね」


「確かにもう少し早く出来れば良いかもしれないわね。でも咲都くん魔法使い始めて一ヶ月経ってないんでしょ? なら上出来じゃない?」


「いや、まだまだね。瞳お姉さんは厳しいから三十点をあげるわ」


 わーお、思ったよりダメ出しの嵐でした……。

 てかそう言われてもまだよく感覚を掴めていないから探り探りなんだよな。

 もう少し早く、ね……。

 もう一度手のひらの上に水魔法を集中させて……


『アクアブレット』!


 シュッ!


 少しは早く出来たんじゃないか?


「あれ? さっきより全然早いじゃない」


「お、やるねぇ咲都くん。今この瞬間でかなりの時短に成功するなんて凄いわね」


「え? 今のって数秒〜数十秒くらいの時短なのに凄いの?」


「そうよ。魔法の構築スピードは数秒でもそう簡単に短縮出来るわけじゃないの。だから今の数秒でもそれなりに凄い事なのよ。咲都のくせにやるわね」


 魔法は数秒の時間短縮がそれなりに凄い事なのか。

 確かにちょっと魔力を使った感? 的なものが感覚的にはあるが。

 てか晴香さん、最後の咲都のくせには余計ですよ。


「そうか。やっぱりオレ魔法の才能あるんじゃね?」


「私から見たらそれなりにあるように見えるけど……瞳的にはどうなの?」


「まあある方なんじゃないの? でもまだまだ改良の余地があるわね。さっきの魔法も四十点ってところかしら」


 それでも四十点ですか。


「イーアさんは優しいですね。それに比べて瞳姉は……もう少し褒めてくれても」


「そう言われてもね。まああくまで私的にはだから普通に見たら凄いと思うわよ」


 そういや瞳姉の魔法……だったのかはよくわからないが、は最初の、シリウスとか言われていた人狼との戦闘の時にしか見てない。

 しかもあの時も見ていたとはいえ腕は吹っ飛んでたし衝撃で体はぶつけるしで正直なところあまりよく覚えていない。

 あの時の記憶で一番鮮明なのは腕が無くなった事と晴香の太ももの感触だ。


「確かに瞳姉からしたらそれぐらいの評価かもね。咲都は知らないと思うけど瞳姉は魔法の、特に爆破魔法に関しては天才的だから」


 おっとここに魔法の天才とかいうのがいましたよ。

 どうしてオレ凄い! 咲都凄い展開には発展しないんだよ。やはりアニメや漫画でよくある主人公補正はオレには入っていないようだ。

 いや、そもそもオレが主人公って事がありえないか。二次元が羨ましい。


「そんなに天才なら瞳姉の魔法何か一つ見せてくれよ。今後の参考にでも……なるかわからないけどする為にさ」


「いいけど。ん〜じゃどうしようかな。晴香何かリクエストある?」


「えっ⁉︎ 私瞳姉の使える魔法のレパートリーそんなに知らないんだけど……イーアさんに教えてもらってたから」


 そういや晴香はイーアさんに魔法を教えてもらっていたらしい。瞳姉ではいけない理由でもあったのだろうか。


「じゃあ私からリクエストで。瞳の得意な『居合拳』に爆破魔法を乗せたやつを一つお願いするわ。咲都くんにも少しは分かりやすいように標的に水魔法の塊を私が作るわね」


「分かったわ。じゃ、咲都と晴香は一応離れててね」


 そう瞳姉が言うとパンツスーツのポケットに手を突っ込み少し離れた所に立つ。

 そしてイーアさんが片手を斜め上空に掲げて水の塊を宙に浮かべる。

 おぉすげぇ。大きさにして中型トラックぐらいの水の塊を作り出しそれを宙空に浮かべ維持している。

 一応水魔法が使えるから少しはわかる。イーアさんもかなり凄い魔法の使い手ではないのかと。


「今日は雨だから少しは大き目に出来たかな。じゃあ瞳いくわよ」


 雨でもオレは1メートルあるかないかぐらいの水魔法の塊しか作れなかったんだが。

 イーアさんがそう言うと同時に水の塊を上空に上げていく。そしてある程度みんなから塊が離れた所で


「じゃあ咲都、この可憐で素敵な瞳お姉さんの得意魔法をよ〜く見ておくのよ。イーアの擬似空間の中だし少し本気でやっちゃお」


 瞳姉はそう言うとポケットに手を入れたまま目を瞑り脱力をしているように見える。

 魔法を使うのにどうして魔法を何処にも集中させることなくただ立っているのだろうか。

 普通魔法を集中させる為に力を入れるんじゃ……。

 そう思った瞬間ーー


「よっ」


 その一言が発せられたと同時に少し右のポケットの辺りが光る。それとほぼ同時に爆音が鳴りイーアさんが浮かべていた水の塊が爆発、四散する。

 そしてほんの一瞬遅れて爆風が押し寄せる。

 シリウスの時のように爆風で吹っ飛ばされたりはしなかったが二本の足で体を支えるのにかなり力が入る。

 中型トラックほどの大きさの水の塊が一瞬にして無数の水滴へと成り果てた。

 瞳姉はと言うと右手を外に出している以外は特に変わった様子もなくさっきと同じ位置に立っているだけだった。

 ーーそして瞳姉の行動によって解放された水は一気にオレたちに降り注ぐ。



「っと。こんな感じかしら。どうよ咲都?」


「……いや、凄いのはもちろん分かるんだけど一瞬過ぎて何が何んだか正直よく分からなかった。説明してもらってもいいですか? あとビチョビチョですわ。予想はしてたけど」


 瞳姉とイーアさんはまたしても何故か濡れていないがオレと晴香は四散した水をかぶってずぶ濡れになっていた。

 晴香は分かっていたのか甘んじてビチョビチョを受け入れているようだ。


「そうね……簡単に言うとポケットからパンチを魔法と一緒にバーンってだしてイーアが作った塊にぶつけたって感じかしら。わかる?」


 いやまったくわからん。

 説明下手かよ。晴香が魔法を瞳姉に教わらずイーアさんに教わった理由が少し垣間見えた気が。

 晴香に視線を向ける。


「……えっとね、瞳姉は右手を刀に、ポケットを鞘に見立てて居合を右手の拳でやったの。その『居合拳』の速度に爆破魔法を乗せて水の塊にぶつけたってところかな。分かった?」


 へーなるほどね。バケモノですか瞳姉は。

 爆破魔法の威力もかなり凄かったが右手を刀に、ポケットを鞘に見立てて、ね。魔法どうこう以前にやってる事ヤバすぎるだろ。

 瞳姉が右手をヒラヒラ振ってこちらにアピールしてくる。

 居合剣じゃなくて居合拳ね。なるほど。

 ここでふと思いだした事が一つ。剣道をやってる鉄矢に聞いた事があるが居合は確か脱力の後の一瞬に力を入れて抜刀を行う……なんて事を言っていたような。

 総じて常人の出来る事じゃなかった。


「て事は抜刀……じゃないか。抜拳の瞬間の一瞬に魔法を構築してたってことかよ」


「そういうことね。右手を抜く一瞬の間に爆破魔法を構築してそのまま勢いに乗せて撃ったの。私の凄さが分かったかな?」


 今さっき分かった事だが魔法構築の時間短縮は数秒でもかなり凄いと言われた。

 という事はだ。瞳姉はその魔法構築をほんの一瞬でしたという事だ。確かにそれは天才の領域だな。


「そういや晴香も魔法を打つ時にあの二丁拳銃から一瞬で放っていたような。オレの周りは天才しかいないのか……」


「私はそんな瞳姉みたいな凄技出来ないわよ。私の場合はすぐに魔法が放てるようにあの銃のマガジンの中にあらかじめ魔法を装填しているの。で戦闘中は撃ちながら予備のマガジンに魔法を装填しつつ戦うってわけ」


 ははぁ〜なるほどなるほど。銃を魔法の媒体にね。そういう方法もあるわけか。

 てことはさ


「て事はオレのサバゲー用の銃でも似たような事が出来るのか?」


「それは無理ね。晴香ちゃんのは私イーアが作った特別製の逸品なの。そう簡単には作れない物なのよ」


 無理かー。確かに銃の形はゲームなどによく出てくるFN5-7に似ていたけど所々違っていたような。


「厚かましいですがそれってオレにも作ってもらえたりします?」


「ん〜、今は魔法を蓄積できる激レアアイテムがないから無理かな。ごめんね咲都くん」


 それならしょうがないか。

 おっと晴香が何か言いたそうな顔をしている。


「被るしやめてよ。それにいざ作ってもらうとなったらとんでもない条件出されるわよ」


 そんな理由かよ。

 てかとんでもない条件って何だよ……あれ、イーアさんがとんでもなくニヤニヤしてる。おっとあれは何かを企んでいるヤバイ顔だ。やっぱり作ってもらうのはやめとこう。


 ーーふと晴香に目をやると……またしても下着が透けていた。透けて見えてますよ晴香さん! まあこちらも予想通りではある。

 が、いかん。このままではオレはニヤニヤしてしまう。

 しかしこの透け感は朝とは違いずぶ濡れなので中々……いやかなりの透け透け具合で……このまま黙っておこう。

 オレは魔法の事を忘れひとときの幸せ、ラッキースケベをチラチラ見つつニヤニヤを抑えるのに必死になっていた。


 お天気お姉さんへ。少し忘れがちな事を思い出してやってみるといい事ありましたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る