二章 5 『バイトゥ! 正体は……』

 二章 5 『バイトゥ! 正体は……』




 急いで家に帰ったオレは昼ごはんをカップラーメンですましバイトへ直行。

 バイト先に着いた時刻は十時五十五分。五分前になんとか着いた。


「おはようございまーす」


「はいおはようさん」


 事務所に入り店長に挨拶をして更衣室へ。

 急いで着替えてタイムカードを切る。

 オレのバイト先は地元の小さなスーパーだ。バイトの内容はスーパー内のレジ担当。

 着替えを済ませレジまで急ぎ足で向かう。


「おはようございます。少し遅くなってすいません」


「おはよう虹夜くん。まだ十一時じゃないし遅れてないよ。じゃあ私上がるからその間よろしく」


「了解です」


 このスーパーにはレジが三台あり一番、二番レジにはすでに人がいる。オレは三番レジへ。一番レジのおばさん、田島さんが十一時で上がられるので急いで三番レジを稼動させる。


「おはよう! 今日はええ天気やな〜。綺麗なお姉さん来てくれへんかなぁ」


 二番レジに入っているのは新谷さん。この人は学校は違うが二つ上の高校三年、先輩だ。

 なかなか気があう人でバイトを始めてまだ日が浅いオレによくしてくれている。


「おはようございます。最後の一言には激しく同意します!」


「やんなぁ! 咲都はやっぱ分かっとるわ〜」


 オレが思っていたことと全く同じ事を考えている新谷さんとは本当に嗜好があっている。しかもとても話が面白い人だ。


「よいしょっと。じゃあ新谷くん、虹夜くん後はよろしく。お先に失礼します」


「「お疲れ様です」」


「あんまりお客さんがいる時に女の子の話しちゃダメよ? いない時にしなさいね」


「「はーい」」


 さすがにオレも新谷さんもお客さんがいる時に変な話はしないですよ。

 大概暇なんでよく喋ってはいるが、仕事はちゃんとしている。

 時刻は十一時過ぎ。ここからお昼ごはんを買う人が増えるので少し忙しくなるが二時間後の一時を過ぎれば大体暇になる。そこまでの辛抱だ。




 ーー時刻は一時十数分過ぎ。客足はだんだん遠のき暇になっていた。昼が過ぎた途端に暇になる。

 特に今日はお客さんが少ない。店内にオレら従業員以外人がいない。


「ん〜そろそろ暇になってきたな……咲都、なんかお題」


 新谷さんは暇になるといつもオレにお題やネタの提供を求めてくる。まあ嫌ではないしいいのだが毎回となると考えなくてはならない。


「たまには自分で考えてくださいよー。理想の女性とかでどうですか?」


「それで」


 なんだかんだで考えるオレ。

 食い気味に返答してくる新谷さん。単純だがお題は決まった。

 新谷さんとは嗜好が似ているので話もそれなりに盛り上がるだろう。


「外見か性格的な方かどっちにします?」


「う〜ん……今回は外見にしよか」


 新谷さんが外見を選んだので今回はそういう事で話は進む。

 まず見た目といっても色々ある。身長や体型、髪型に服装などなど。

 ここは話を長引かせさらに仲良くさせてもらうために初歩的なところから話を進めていくのがベストな選択だろう。

 いきなり切り込んだ話をしてもいいが相手が相手、新谷さんだ。こんなことをいうのもなんだが新谷さん相手だとエグい話にもなりかねない。

 もちろんソッチの意味でだ。一応バイト中なのでそれは避けたい。


「じゃあまず身長とかどうです? てか新谷さんって身長いくつなんですか?」


「身長ねぇ……オレより高くても別にいいかな〜あんま気にしたことないな実際。もちろん小さくても大丈夫だし。ちなみにオレの身長は百八十チョッキ」


 二センチ負けた。身長に関しては同意見だが二センチ負けたのがなんか悔しい。この人なら何らかの形でこの二センチをバカにしてくるだろう。


「オレも同意見ですね。身長が自分よりも高い女性にも低い女性にもそれぞれに魅力があるというかなんというか……ちなみに身長は百七十八センチです」


「おぉ分かるね〜。実に素晴らしい意見だとも。まぁ身長はオレの方が二センチ高いわけだが……フッ」


 やはり小馬鹿にされたか。身長言わなければよかった。

 というかなんなんだその変な口調は。実に新谷さんっぽいキャラ作りだが。


「次は髪型とかでどうですか? オレは断然ショートカット派ですね。肩ぐらいの長さまでがいいです。色は問いませんね」


 そう、オレは結構ショートカットが好きだ。晴香がショートカットならどれだけ毎日の目の保養の足しになったか……まあその点では瞳姉がいるが。


「そうかそうか。いい感性を持ってるのぉ。ワシは黒髪がいいのぉ。してロングは嫌いなのかね咲都くんや」


 新谷さんのキャラが変わった。ほんと実に愉快な人だ。今度どっかに遊びに連れて行ってもらおう。鉄矢を紹介するのも悪くないな……話が合いそうだ。


「いや、ロングが嫌いって訳じゃないですね。綺麗な女性ならどんな髪型でも結局似合うと思うんで」


 ロングよりショートカットのほうが好きぐらいかな。ロングにも勿論魅力はあるし。


「次はそうっすね〜、服装なんかどうですか?」


「そうだなぁ……あっ、いらっしゃいませ!」


「いらっしゃいませ」


 ここ数十分来ていなかったお客さんが来た。

 さすがに新谷さんもオレもバイトモードになる。一旦会話は中断だ。




 ーー暇な時間にやってきたお客さんもジュースを一本買っていっただけだった。


「百八円になります……ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 ほんと忙しい時間と暇な時間の差がある店だ。まあバイトのオレからすれば忙しくても暇でも給料は変わらないので困ることはない。


「本当に暇な時間だなー。綺麗なお姉さんでも来ねぇかなー」


「さっきの話の続きでもしますか? それともお題変えます?」


「いや、さっきのままで続きだなここは。服装かぁ……季節にもよるけど今ならそろそろ短めのスカートとかも増えだすなぁ。生足見えてるのがいいなー」


「新谷さん生足派っすか? ニーソとかタイツとかじゃなくて?」


「生足に決まってんだろ! まさか咲都……生足反対派閥なのか?」


 ……ほんとこの人とは嗜好があうようだ!


「いえっ! 生足大好きです!」


「さすが咲都! オレが見込んだだけの事はある」


「まったくですよ。まさかこんなにも同じ意見になるなんて思いませんでしたよ」


 仲良くなりたいから合わせているとかではなく本当に意見が同じになっている。

 ある意味怖いような。


 ーーそんな感じで色々な話をしていると時間は過ぎていく。

 オレの今日のバイトの上がり時間は四時だ。

 あと二時間あるかないかぐらいの時間だろうか。話も次の話題に移りそうになった時、新谷さんが思いもよらない事を口走る。


「そういや咲都がテスト週間でバイト来れてない時に一回だけめちゃくちゃ美人なお姉さんが来たんだよなぁ」


 なに⁉︎ オレが来ていない時に限ってそんな羨ましいことが。……頼む、オレのいる時に来てくれと無力なオレには神様に願うことしか出来ない。まあ特に信じてはいないが。

 ……てかトイレに行きたくなってきた。


「ちょっとトイレに行ってきますわ。その間レジお願いします」


「おう。暇だし大丈夫だろ。けどあんま時間かけんなよ」


「……ただトイレで用足すだけですよ」


 ーーそしてトイレに行き用を済ませ戻る途中、新谷さんの張り切った「いらっしゃいませ」が聞こえた。

 何かいい事あったのかと思いながらレジに戻ると見事予想は的中。新谷さんが小声で、しかしハイテンションでオレに話かけてくる。


「おい咲都! 咲都がトイレ行ってる間についさっき言ってた美人お姉さんが来たぞ!」


 キタァァァァァァ!!!


 キタキタキタァ!

 戻ってくる時に見ていないという事はすれ違いか。まあスーパーだと最終レジに来ればどんな人かは見れる。

 頼むからオレのレジに来てくれとまたしても神に願う。

 そう、今このスーパーではオレと新谷さんのレジ、二台が稼動している。ここで正体不明の美人お姉さんが新谷さんのレジに行ってしまうとかなり悔しい。

 どうせなら自分のレジに来てくれた方が嬉しい。そしてテンションが上がる!


「咲都、お前もう一回トイレ行ってこい。その間にオレのレジでお姉さんをおもてなしするから」


「嫌っすよ。オレだって美人お姉さんの眼福に預かりたいっす」


 小声でしょうもない言い合いをしているとレジに足音が近づいてくる。

 店内にいるお客さんは正体不明の美人お姉さんただ一人のはず。

 今日はやはりいい天気だから美人な女性が来てくれたのか。頼むからオレのレジに来てくれと願う。

 カツカツと店内に響く靴の音。徐々に、確実にこちらへ近づき



 ーーそして現れた女性は……


「おっ、咲都! やっといたね。この前来た時はあんたテスト週間で居なかったしねぇ。私がバイト頑張ってるか見に来てあげたよ〜」


 瞳姉だった。


 ……確かに美人なお姉さんだがこんな結末だなんて。なんか悔しいな。


「なんだ瞳姉かよ……てかなんでオレがここでバイトしてるの知ってるんだよ……って晴香か」


「正解〜。てか『瞳姉かよ……』はないでしょうよ。美人なお姉さんが来てあげたんだからもっと喜びなさいよ〜」


 だから確かに美人だが自分で言うなよ。

 ただバイトしているオレを見にきたって訳じゃなさそうだ。何を企んでやがる……。

 しかも新谷さんが知り合いかよ! みたいな目でオレをガン見してきている。


「……千二百円になります。ありがとうございましたー」


「はいありがと。じゃあバイト頑張ってね……チュッ」


 やっぱり一ネタ仕込んでやがった。

 こんな所で投げキッスなんてしてくるなよ。新谷さんがもう言葉で表せない表情でオレを見てきている。

 ーーこうして正体不明の美人お姉さん、もとい瞳姉が帰っていった。


「咲都……お前あんな美人なお姉さんが知り合いなんて羨ましいなぁ。しかも投げキッスなんて……」




 そのあとオレがバイトを上がるまで新谷さんは何故かずっとテンションが低かった。

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