二章 3 『まるで鬼。色んな意味で』
二章 3 『まるで鬼。色んな意味で』
ーーまたしても周りの音が聞え、景色が止まり時間が感覚的に停止している。
「この感じは昨日の……」
しかし昨日とは違い少し冷静でいられる自分がいる。
なので分かったことが一つ、やはり普通の人間はこの空間では動けないらしい。昨日は周りに普通の人間がいなかったので分からなかったがオレの周りにいた他の生徒、道行く人が完全にその動作を停止している。
「触れることは出来るけどカチコチだな。ほんとに今まで動いてた人間か不思議なぐらいだな」
これはやはりスカートの中見放題なのでは⁉︎ っといかんいかん。邪な考えがよぎってしまった。今は多分それどころじゃない場面だ。
少し思案し今思う事はこの空間に居るということは何処かで昨日のような化け物がこちらの世界に来ているということ。昨日の人狼のようなバケモノに一人で出会ったら一貫の終わりだ。
その考えにたどり着いた途端に右腕を見事に持っていかれた、という事実が脳を支配し始め少しパニックになりかける。
昨日の出来事はやはりオレの脳にかなりのトラウマを植え付けたようだ。
「この状況が昨日の今日でかよ! てかどうしたら良いんだいったい……」
少し取り乱してしまった。いかんいかん冷静になれオレ。
この空間になっているということは少なくとも晴香は動けているはず。なので校内にいるはずの晴香を探して一人にならないようにするのが最善手だと結論付ける。
と、考えていると目の前の道を人影のようなものが座っているオレの頭の上を通り過ぎる。
動いているという事は異世界の関係者なのか? 衝動的に姿をしっかり見ることもなく声をかける。
「あの、すいません。この空間? で動いてるって事は異世界関係者ですよね? こんな状況ってどうした……ら……っ!」
喋りながらその人影に違和感を覚え目に映りその違和感は確信に変わる。明らかに人ではない見た目をしている。異世界から来た何かだった。
迂闊に声をかけるべきではなかったと遅い後悔が襲う。
よく見るとその人影はオレより一回り大きく体色は薄い赤、何かの獣の皮で作られたであろう服。何より目を惹くのは頭から生える日本の小さなツノ。そして右腕に掴まれている大きな棍棒のような塊。
何なのかと聞かれればそれは日本の伝説や昔話によく出てくる『鬼』の様な見た目をしていた。
そしてその鬼のような見た目の何かが口を開く。
「あ〜あ? オデなんでこんな所に居るんだ?」
昨日の人狼と同じく言葉は分かる。
そして今のところ襲ってくる気配も感じられない。ここはひとつ勇気を出して喋りかけるべきなのだろうか……。などと考えていると、
「んで周りに人間がいっぱい……美味そう」
その言葉を聞いて身を竦ませる。
さすがにこれはオレにとって昨日の人狼と同じ敵といっても過言ではないだろう。
何とか気づかれないようにこの場を離れることを第一に考える。そして行動へ。
「でもコイツら止まってるって事はまだ食えねぇのか……ん? オメェなんで動いてるんだ?」
しまった……あえて動かない方がよかったかもしれないとこれまた遅い後悔がやってくる。
「……何でと言われましても。自分でもまだよく分かってないんですよね〜。なんかハーフがどうとか言われたんですけど……」
ゆっくり後ろに動きながら距離を取る。
慎重に会話をしつつ何とか離れようと試みる。
「ハーフ? よくわかんねぇがオメェも……もしかして人間か?」
はたしてどう答えるべきなのか非常に悩む。しかし言葉を挟みすぐに襲ってこないあたり昨日とは状況が違う。それに今は晴香もいない。自分だけでどうにかしなければならない。
「……それってもしオレが人間だった場合は?」
「殺して食う。それ以外でも生き物なら食うけどなぁ」
どっちにしろじゃねぇか! アホなのかコイツは。聞く暇あったら食えよ……って何考えてんだオレは。この状況だと確実に食われるのはオレだろう。さっき止まってるのは食えないとか言ってやがったしな。
オレもアホだったようだ。
「で、人間なのか?」
ヤバい、ヨダレ垂らしてやがる。この絶対的に食われるであろう状況でオレに取れる行動はたった一つ。
全力ダッシュで逃げるっ!
「あ! 待てよ〜」
走り逃げるオレを追ってきやがる。しかも中々の速さだ。走る速さには自信があるのに。
「この状況で待てって言われて待つヤツがいるかボケ! 第一にオレが人間だったらどうだってんだよ!」
「オデの気分が上がるだろ? 人間は生き物の中でも美味いからなぁ……ジュルッ」
必死に走り叫んだオレに返ってきたのはそんな言葉だった。
お前の心の持ちようかよ……そんな事どうでもいいわ!
オレはあんなバケモノとの戦い方なんて一つも知らない。なので走って逃げて撒く。これが最善手……というか焦っている今の状態ではこれしか答えが見つからない。
「ハァハァ……ついてくんなよ!」
なにせ持久力がないオレはそろそろ疲れてきている。ほんと体力をつけなきゃダメだなとこんなところで実感する。
息も軽く切れてきている。
「オメェこそそろそろ大人しくオデに捕まれよ。美味しく食ってやるからよぉ〜」
誰が捕まるかボケ。自分の事を食いたいなんて言ってるヤツに捕まるバカがどこにいるんだよ。
クソッ……マジで体力がヤバい。日々ゴロゴロしていたのが仇になっている。
ーー気がつくと昨日と同じ寺の境内まで走って逃げて来ていた。
必死になっているうちにあの長い階段を登ってきていたようだ。そりゃ息も切れるわ。
オレのもっさい体力はそろそろ限界に近づいてきている。
クソ……先に晴香を探して合流すべきだったとマジの後悔が。
一人じゃなにも出来ないことがこれほどに足を引っ張った事なんて今までないことなので気分は最悪だ。
また腕を持っていかれるかも……いや、今度は足か? 最悪死ぬかもしれないなぁ。なんて思っているとますます気分が悪くなる。
このままじゃダメだ。なにも出来ないで腕や足を持っていかれるよりせめて一矢報いてやろう。もしかするとワンチャンあるかもしれない……いや、どうにかしてやる!
そしてオレは少し覚悟を決め、その場で膝に手をつき立ち止まった。
「ハァハァ……ハァ、ゴクッ。おい鬼みたいななりのクソ野郎! ここらでそろそろ終わりにしようぜ……」
「あ〜オデも疲れたしなぁ。やっと食わせてくれるのか」
「ちげーわボケが。ここでお前をぶちのめしてやるんだよ! オリャァァァァァァ!!!」
この先、体力のないオレには逃げるのは不可能。というか無謀な事だろうと自分なりに察し……
飛び蹴りを鬼の股間目掛けて華麗にぶちかます!!!
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