第12話
「よし!」
俺は大きな声を出す。
「?」
由香里は不思議そうな目でこっちを見てくる。
「落ち込んでてもしょうがないか!」
「いや、まだ落ち込んでてもいいと思うけどな」
「いや、終わったことは終わったことだ! 早く忘れたほうがいいかもしれないからな!」
由香里もこの調子に乗ってくれたのだろう。
「うわぁ、格好いい」
と棒読みで言ってきた。
そして顔を見合わせて笑う。
「へへ、そうだろ。格好いいだろ」
「そうやって口に出しちゃう所が格好良くない」
俺はこの日、幼馴染がいてくれて改めて良かったと思った。
「じゃ、俺帰るわ。今日はありがとうな」
「え、帰るの?」
「帰らないの?」
「?」
「?」
「泊まってくんじゃないの?」
「いや」
「家に帰っても何も出来ないでしょ? 海翔は」
あ、ああ。そうだった。
俺、今まで十何年か生きてきたのに、一回も家事をやったことがないのだ。
「そうだな」
「それなら家帰っても何も出来ないでしょ」
「かもな。でも、親御さんに迷惑をかけるのは良くないしなぁ」
「いや、親も泊まるように言ってるし」
「ホントか?」
「うん」
それなら家に帰っても何も出来ないし有難く泊まらせてもらうことにしよう。
「わかった」
「それで良し」
「でも、結局は帰るからなぁ」
俺が独り言を言うと、
「何言ってんの?」
と由香里が言ってくる。
「結局は明日帰ることになるからなぁ、って言った」
「え、毎日泊まるんじゃないの?」
そこで俺のいつもの調子が一気に戻った。
「何言ってるんですかあなたは!」
「毎日泊まるんじゃないの? って言った」
「あんたって奴は…! そんな事になる訳無いだろ!」
「私も最初そう思って心配してたんだけど、親が『じゃ、あとで荷物とか持ってきてもらったら?』って言われて、『何で?』って聞いたら、『生活するのに必要でしょ』って言われたからそうなると思うよ」
説得力のある説明をありがとう。
「一日考えてみたら」
「あ、ああ、わかったよ」
「と言う事で荷物持ってきてねー」
「はーい、ってなるかよおい! だから親御さんに迷惑はかけられないっつってんだろ!」
「取り敢えず一日過ごすのに必要な道具と学校の荷物! 持ってきなさい!」
「わかったよ」
俺は部屋を出て、由香里の母に「本当にすいません、ありがとうございます」、と頭を深々と下げてから家を出てきた。
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