第36話 弟子の成長

 魔拳【月読】を装備したオレ。


「ほほぉ、似合っておるのぉ。その性能も見てみたいとこじゃがそれは今度じゃな。慣れんうちは危険じゃろう」


「じゃあ今度うちのパーティーで訓練場来てもいいっすか? クイースト王国では聖騎士長のヴォッチさんとかと訓練したりしてたんですよ」


「ふむ。いつでも歓迎じゃ。クイーストの実力も測れるでな」


 よし、これで今後遊びに来やすくなったな。

 この巨大化したロンの精霊魔法も楽しみだし、新装備の性能も楽しみだ。

 まずはどっかで試してからの方が安心だし今は我慢しよう。


「師匠かっこいいです!!」


「そ、そうか? 似合ってるか?」


「はい! 凄く強そうですしとても似合ってます!!」


 まあ似合うと言われて悪い気はしねーな。

 それよりもウェルの魔法なんとかしねーとアルテリア戻れねーしどうすっか……

 それとオレが新装備貰ったからライオス装備はどうしよ……

 ウェルは素手だしな。

 そうだ!

 こいつ素手だった!!


「ウェルにオレのこのライオス装備やるよ。こいつで訓練すりゃ強くなれっからよ! あーでもな、オレ使ってたし汗臭えかも。ロナウドさん、悪いんすけど洗浄魔法掛けてまらえません?」


「そうじゃの。汚れておるしお主ら全身綺麗にしてやろう」


「この魔法の洗剤でお願いしまーす」


 頼んでおいてこんな事思うのは失礼かもしれねーけどおっさんとはいえ流石は聖騎士長の魔法だな。

 ナスカ達の洗浄魔法より綺麗になった気がする。

 オレもウェルも風呂上がりみてーにサラサラのピカピカよ。




 とりあえずオレの魔力でライオス装備のサイズをデカくしておく。

 この後ウェルの魔力でサイズ合わせっからな。


「よしウェル。これ付けてみろよ」


「はい! ありがとうございます!」


 ウェルにライオス装備か……

 オレも三年間世話になった装備だし、今後はウェルを守ってやってほしいもんだな。


「精霊契約しておったという事はそれは擬似魔拳か? なんなら精霊魔術書も持って来てやろうか?」


「いいっすか? お願いしまーす!」


 ウェルは魔力練度が甘ーから出来ねーかもしんねーけどな。




 しかーし。

 意外にもウェルの精霊契約は上手くいった。


 召喚した精霊サラマンダーも随分と小っちぇー火蜥蜴だったんだけど、ウェルが契約しようとしたらなんか嫌がる素振りをみせてた。

 やっぱ無理かなーとか思ったところで、ロンが唸り声あげたら素直にウェルと契約済ませるしな。

 んでウェルのトローリ魔力でも爆破魔法として発動できるし威力も上々。

 ロンがちょいちょいクルルって鳴くから、ウェルの精霊に指示出してたのかもしーねーな。

 ま、練度が低いと魔力消費もデケーし威力にも制限掛かっから、今後も魔力制御訓練は頑張ってもらうけどな。


 ロナウドさんもウェルがヒーラーで爆破魔法を発動したのを見て感心してた。

 これで世界に爆破魔法のヒーラーは三人目って事で、希少だし爆破魔法の発現には初めて立ち会ったのかもしんねぇ。


 一緒にいた警備の兄ちゃんも驚愕の表情でミリー様と同じとかなんとか言ってたし。




 んー、ん?

 これで帰れるのか?

 思い掛けねー感じでウェルの爆破魔法出来ちまったけどなんかスッキリしねーのな。

 ま、いいか。

 これでまた美味い飯が食える。

 山籠りって事で捕まえた魔獣の肉焼いて食ってたからな。

 ウェルの筋肉つけるためにもひたすら肉ばっか食ってたわけよ。

 あとネギ。

 ネギは流石に植えねーと無理だから買って来たけど。




「じゃあロナウドさん。また遊びに来るからそん時はお願いします」


「うむ、待っておるぞ。ウェル共々遊びに来るといい。別のパーティーであっても構わんからのぉ」


 そんならハウザー達も連れて来ることにしよ。

 あいつらも聖騎士と訓練出来るってんなら喜んで来るだろうしな。


「それと勇飛。その下手な言葉遣いは要らん。普段通りで構わんぞ」


「あははっ。やっぱ話慣れねーと変かもなー。お言葉に甘えてそうさせてもらうわ」


 やっぱこの世界に来て三年もこのままだし、久しぶりに敬語使えとか言われてもうまく話せねーもんだ。

 クイースト国王様にさえこのままだしな。

 たまに宰相とかに注意されっけど無理なもんは無理だし。

 このロナウドさんも気さくなおっさんで良かった。




 さて、今は十七時前だけどどうすっかな。

 もうアルテリア帰っていいけど今から走って行っても二十一時過ぎちまう。

 夕飯に間に合わねーなら今日は王国の宿に泊まって、明日の朝から走って帰ればいいか。


 ザウス王国の高級宿ってなるとどんなもんだろな?

 んでもカイン達いねーのに高級宿に泊まったとか言ったらナスカに怒られるかもしんねーし、適当な宿に泊まっておきゃいいか。

 それと飯は久しぶりに美味えもん食いてーから酒場に行こ。


「ウェル。今日は宿とって飯は酒場で食うぞ。お前酒は飲めるか?」


「はい! お酒は少し飲めますよ!」


「んじゃ修行の終わりって事でパーッと飲みに行くか!」


「はい!」


 さっき洗浄魔法掛けてもらったから風呂入んなくても平気だしな。

 宿は一泊1万リラの普通の宿にして、飯は宿で聞いたこの辺で人気の酒場を紹介してもらった。


 久しぶりに酒飲んで楽しかったし、二軒目は綺麗なお姉さんがいる店に行ってみたら超楽しかった。

 ウェルも楽しそうだし来て良かったな!




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 次の日の朝はちょっと起きるの遅かったけど、まぁ二日酔いなんてなんねーし平気だ。

 朝飯は宿で済ませて水だけ買って市民街を出た。


 今日はこっからアルテリアまでの80キロくれーを走って帰る事にする。

 普通に走って五時間程度は掛かるだろうけど、鍛えたウェルなら回復も働いてそれより早く帰れると思う。


 相当鍛えたとはいえまだまだ回復が甘えからな。

 体力的に持つかわかんねーし、せめて水袋はオレが持ってやる。

 まぁオレなら息切らさずに80キロくれーなら三時間もあれば走れるんだけどな。

 回復速度が必要だけど、疲れを感じる前に体力回復してやんのがコツだ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 最初の20キロくれーは全然疲れた様子もなく走ってたウェルも、30キロ超えたあたりからは息がだいぶ上がってたな。

 息上がり始めてからは水分補給しながらもペース落とさずに走ってるウェル見たら、ちょっとだけ感慨深くなるオレがいたわ。




 42.195キロ。

 フルマラソン走りきったところで一時間五十分。

 地球のマラソン選手より速えから充分な体力があるってわかる。

 しかもオレが使ってたライオス装備着けてるし、走る為の格好じゃねーのにそこそこのタイムだ。

 こっから残り半分近くあるんだけど、ウェルの根性なら余裕でいけるだろ。




 60キロを超えてくると流石に苦しそうな顔し始めた。

 ちょっとペースも落ちたしな。

 それでもオレが予想してたよりはまだ速えし、このまま維持できるようなら褒めてやる。




 70キロを超えた頃には水分補給の回数も増えたな。

 汗も大量に流してるし当然っちゃ当然か。

 それでも必死に頑張ってるこいつを見るとちょっと泣きたくなってくる。

 オレも師匠してんなーって気分だ。




 三時間四十五分。

 アルテリアが見えてきた頃にはウェルに変化が見えてきたな。

 汗が枯れて乾いた服に塩が噴いてる。

 それにペースも上がって来たって事は体力の回復力が増加してきたな。

 さっきまでのペースなら回復が間に合うって事だ。

 ペースを上げりゃまた息切れるし汗も出る。

 これ繰り返してりゃ回復速度も強化されてくだろ。

 今後のこいつの成長も楽しみだな!




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 アルテリアに到着したのが十二時に少し前。

 王国からアルテリアまでを四時間以内に走り切りやがった。

 この街道とはいえ舗装路でもねー道を走ってこのタイム。

 ウェルはオレの自慢の弟子と言っていいだろう。


「よくやったウェル! この短期間でここまで成長するとは思ってなかったぜ!」


「はっ、はっ、はっ…… ふう…… ありがとうっございます、師匠!」


「おう! でもな、お前が頑張ったから今のウェルがあるんだ! オレも褒めてやるがお前も自分自身を褒めてやれ!」


「はいっ! 自分でもよく頑張ったと思います!」


「今からハウザー達に会うのが楽しみだな! でもあいつら今日はクエスト行ってっから宿でゆっくり休んでからか」


 たしか昼も別料金で飯食えたはずだしエイルの昼飯食おっと!

 その後は風呂だな!

 久しぶりの湯船!




 オレとウェルは宿屋エイルに行って、まずは昼食摂ってから各々部屋で休む事にした。

 カイン達が帰って来るまで時間あるだろうしな。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 夕方、十七時。

 やっぱ宿屋エイルはいいな。

 飯は美味えし湯船は最高に気持ちいいしな。


「なんつーか久しぶりだなカイン。今まで毎日顔合わせてたから何とも言えねー気分だ」


「勇飛に会わない日がこんなに続くとはね。久しぶりに会えて嬉しいよ」


 オレも会えて嬉しいがそんなセリフが簡単には出てこないのが日本人だよな。

 早くナスカとエレナにも会いてーなぁ。


 とりあえずカインは風呂らしい。

 って事はナスカもエレナも風呂に入ってんだろうし、しばらく待つか。




 カインが風呂上がって、オレ達二人はロビーに向かう。

 ロビーにはハウザー達もいてここ最近の話し聞きながら全員集まんのを待った。

 ナスカとエレナを見た時は嬉しさのあまりハグしたくなったけどね。




「なぁ勇飛。ウェルはどこいるんだ?」


「オレと同じ部屋だがいなかったぞ」


 ベンダーと同じ部屋らしいけどいねーのか。

 あいつどっか行ったのか?

 ウェルの奴が行きそうなとこっていうと……

 あ、わかった!


 宿のテラスに出て行ったらやっぱウェルはここにいた。

 どうやら魔力制御の訓練してたらしい。


「ウェル。皆んな帰って来たから顔見せてやれ。きっと喜んでくれるぞ?」


「そ、そうですか? 今まで役に立ててなかったから少し不安ですが……」


「仲間っつーのはいいもんだぞ? 久しぶりに会えばハグしたくなるくれーいいもんだ。だから行くぞ」


「はい師匠!」


 ウェルは相変わらずいい返事だ。

 あいつらにもちょっと再会の喜びっつーのを感じてもらいてーしな。

 オレはウェルがロビーに入る前に扉を閉めて全員の注目を集める。


「ウェルが今から顔出すからよぉ。暖かく迎えてやってくれ。じゃあウェル、入って来い」


 扉を開いてウェルがロビーに入ってくる。

 きっと「ウェルお帰りー」って喜んでくれるぞ!


「み、皆さんお久しぶりです。帰って来ました」


「「「「「「「!?」」」」」」」」


 あれ? 皆んな何なのその表情。

 驚愕っつかなんか顎カクカクさせてさぁ。


「だっ……」


 だ?


「誰だよ!!?」


 は?


「ウェルです! 忘れてしまったんですか!?」


「「「「「「「ウェル!?」」」」」」」


「は? どっからどー見てもウェルじゃねーか」


「別人じゃねーか!!」


「ああ!? 久しぶりに会ったウェルになんつー事言ってんだハウザー!!」


 こんの野郎、ふざけやがって!!

 お前らに会いたかったこいつの気持ちがわかんねーのか!?


 《トントン》


「ああ!? なんだよ!!」


「勇飛…… これが見えるかい?」


 んん?

 リルフォンからの脳内視野に映るのは、最初会った時のヒョロガリウェルの写真か?


「ウェルだろーが! それがどうした!」


「それじゃあ今の彼は?」


「すっげーいい体したウェルだろうが!」


「同じ人に見える?」


「全然違え!! うん、すっげー変わったな!? びっくりするぐれーだ!」


「今まさに皆んなそんな気分だよ。驚きすぎて僕達が知ってるウェルと今のウェルが一致しないのは当然じゃない?」


「そーかも! 全然別人みてーだ!」


 筋骨隆々ってのはこいつの為にある言葉じゃねーかってくれー逞しい体してる!

 爆破出来ねーからオレよりムキムキに育ててやったしな!


「ほ、本当にウェルなのか? そんな…… た、逞しくなったな……」


 震える声で近づいて行くのはハウザーか。

 ベンダーも戸惑いながら近づいてく。


「うおぉぉぉお!! ウェルー!! すっげー筋肉じゃねーかぁ!!」


「オーガとだって戦えるんじゃねぇか!? こんの野郎!!」


 おおっ。

 ハウザーとベンダーがハグした!

 リンゼとアニーも後から続いた!


 良かったなぁウェル。

 お前の仲間もいい奴らじゃねーか!


「何上手くまとめようとしてるの? どう考えてもやり過ぎでしょ!?」


 いや、ウェルかっこいいじゃん。

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