第35話 荷物

 ウェルを鍛えるっつー事で山籠りしてから八日目。


 今日も朝から自重トレーニングで追い込んでから昼休憩で回復とタンパク質補給。

 昼飯食った後はオレとの戦闘訓練して、十五時過ぎからは魔法訓練と魔力制御訓練ってのが毎日の日課だ。


 自重トレーニングの方はもう慣れたもんで、体力の限界、筋肉の限界までしっかり追い込んでから回復を繰り返してっからまあまあいい感じに成長してる。


 戦闘訓練の方はオレも自己流だし、格闘技教えるわけでもねーから適当だけどな。

 それでもオレは戦えてるしこの教え方でもマシにはなるだろ。


 そんで問題なのは魔法訓練なんだよなぁ……

 オレと同じヒーラーの魔力ではあるんだけど練度が甘え。

 ヒーラーの魔力ってのは粒子状の魔力なんだけど、練度が高くなるほどに粒子が細かくなるんだよ。

 サラッサラでキラッキラで綺麗な魔力が練度の高え状態だ。

 これがウェルの場合は粘液に粗い砂が混ざってるみてーな感じでサラサラしてねーわけよ。

 ドロドロしてるっつーかねっとりしてるっつーか何とも魔力の状態としては良くねーんだ。

 オレのサラッサラな魔力だと火薬をイメージできるから爆破になるだろ?

 ところがウェルの場合は放出した魔力からチッ、チッて線香花火みてーに火花が散る程度。

 これじゃ戦闘には使えねーってんで魔力制御の訓練もしてるわけだ。

 集中力を高めるためにオレのスペシャルヒールを頭にぶち込んでやったり、サラサラにする為にネギ食わせてやったりといろいろ試してみたんだけどなー。

 青魚も欲しいとこだけど海ねーから諦めた。

 まぁ…… それで何か変わったかって言われれば、ドロドロからトロトロって感じに変わった事とウェルの息が臭くなったくれーかな。

 今後も魔力制御の訓練してりゃそのうち良くなると思うし気長にいこう。

 よく考えたらネギは血液をサラサラにするんだっけかな?

 魔力には効果ねーけど、師匠のオレが言った事は全て正しいはずだからネギを今後も食わせ続ける予定だ。




 魔法訓練、もとい線香花火訓練してたところでカインから着信があった。


「おぅ、どうしたんだカイン? クエストか何かの誘いか?」


『そうじゃないんだけどね。さっき役所に行ったら所長さんから勇飛に言伝を預かったんだ』


「ん? 所長さんなんて会った事ねーけどな……」


『僕達が月華だって事は所長さんも知ってるでしょ。それでね、王国の聖騎士長様から訓練場に来るよう言われたんだ。勇飛に荷物が届いてるって話しだよ?』


 オレに荷物って誰からだろ。

 しかも王国聖騎士長のとこに届いてるってのも気になるな。

 普通だったらアルテリアの役所に届くはずなんだけど。


「じゃあこっから王国近えし今から行ってくるかな」


『僕達はどうする?』


「月華としては今後改めて行こうぜ。聖騎士の訓練にも混ざりてーしな」


『わかった。それよりウェルと一緒に早く帰って来てね!』


「おう。ウェルの魔法がそれなりに使えるようになったらな。じゃあなー」


 そんなわけで今から王国に行く事にした。

 最初山籠りした場所から毎日移動してたし、山ん中とはいえここからは王国が見える

 ウェルを置いてくわけにもいかねーし、走って一緒に行くか。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ザウス王国の市民街も駆け抜けて、オレとウェルは王国の門で冒険者カードを提示して市民街に入った。

 ま、市民街にも今回は用はねーんだけどな。


 また市民街を走ってってしばらく行くと貴族街の門がある。

 ここでオレはゴールドランク冒険者って事で通れるんだけどウェルはレッドランクの冒険者。

 …… レッドだったのかよ!?

 ま、まぁあの身体能力ならクエスト一つも達成できねーだろうしな。

 そんでレッドランクの冒険者じゃ貴族街には入れねーのが決まりだ。

 ただオレがヒーラーの冒険者、それもゴールドランク冒険者でウェルはオレの弟子だっつー事で許可をもらえた。

「ミリー様と同じヒーラーの……」とか何とか言ってるからミリーってザウス王国じゃ有名なのかもしんねーな。


 一応聖騎士訓練場の場所は門兵のおっちゃんから聞いてから向かう。

 ま、王宮のすぐそばだって言われりゃすぐわかるんだけどな。




 時間は十六時なるとこだし、もうすぐ訓練の時間も終わるかもしんねー。

 とりあえず訓練場の警備の兄ちゃんに話しかけてみる。


「すんませーん。聖騎士長様から呼ばれて来た鈴谷勇飛っすけど今から会えますかね」


「スズヤユーヒ? …… ふむ、確認して来るので少し待ていてくれ」


 警備の兄ちゃんは建物の中に入ってった。


「今から聖騎士長様とお会いになるんですか!? 今僕達は訓練後で全身汚れてますけど大丈夫なんですか!?」


 あ、考えてなかったな。

 確かに装備も汚れてるし…… ちょっと汗く…… 酸っぱい臭いもすんな。


「確かにこんな状態で会うのは失礼かもしんねーけど今更遅え。聖騎士長が寛大な人である事を祈る」


「ええ!?」


 別に役所の冒険者とか臭え奴結構いるしな。

 オレ達が山籠りしてたって話せばわかってくれるはずだ。




 十分くれー待ったかな。

 さっきの警備の兄ちゃんと聖騎士長っぽいおっさんが出て来た。

 宝箱みてーなの持って来たけどあれがオレ宛の荷物かな?


「呼びつけてしまってすまんのぉ」


「ども。鈴谷勇飛です。荷物って何ですかねぇ?」


「儂はザウス王国聖騎士長ロナウド=アイゼンハワーじゃ。これをクリムゾンの者からお主に直接渡してくれと頼まれてな。送り主は朱王らしいが中身はわからん」


 朱王さんからか。

 リルフォンと飛行装備はもうもらってるしなんだろな。

 しかし派手な装飾の宝箱だな。

 この箱だけでも結構な値段するんじゃね?

 まぁ箱より中身が気になるし開けてみよう。

 なんか魔力鍵が掛かってるんだけど、オレの魔力流しただけで解錠された。

 ヒーラーの魔力に反応するように鍵掛けてたみてーだ。

 んで蓋開けてみればまた高級そうな布に包まれてて、それを巻くってみたらそいつは出てきた。


 オレに届いた荷物は武器だった。

 黒字に金の装飾、エメラルドグリーンの宝石風の装飾も入ったナックルとレガース。

 すっげーオレの好みを理解してんなってくらい派手でかっこいい装備だ。

 他にも肩当てか?

 一つだけ入ってるから片側に着けろって事かな。

 あ、手紙も入ってんな。




 ***********************




 勇飛君へ


 久しぶり、元気にしてる?

 君の強くなりたいという気持ちに応えたくて、ミリーと一緒に武器を作ってみたよ。

 ナックルとレガース、肩当ても合わせて魔拳【月読つくよみ】と名付けてある。

 一個ずつ名前付けてもよかったけど必要ないかなって思ってね。

 以前は精霊契約と魔法陣だけの強化をしたんだけど、今回この月読のナックルとレガースには爆炎と下級魔法陣をエンチャントしてあるよ。

 それと肩当てには上級魔法陣のエクスプロージョンを組み込んで、魔力量2,000ガルドを追加エンチャントしてあるから精霊を移して使ってね。

 ただ月読では一精霊分の器しかないんだけど、朱雀に聞いたら私達の魔剣や魔拳であれば擬似魔剣に契約した精霊クラスであれば統合できるんだって。

 きっと自我の強い精霊になると思うから仲良くしてね。

 それじゃ、また会える日を楽しみにしてるよ。




 ***********************




 うーん。

 ただで貰うわけにいかねーとか思ってたのに、知らねーうちに作ってもらえてたな。

 返すわけにもいかねーし貰うしかねぇ。


「読めん文字が書いておるのぉ。異世界の文字か?」


「ん、まあオレも朱王さんも迷い人だしな。魔拳作ったから使ってみろって事らしい」


「ふむ。拳じゃから魔剣ならぬ魔拳か。早く着けてみるのじゃ」


 何故か急かされてるけどまあいいや。

 今まで使ってたライオス装備外して左右のレガース、左肩には肩当て、そして左右の拳にナックルを着けてみた。

 しかし……


「魔力流してもサイズ合わねーな」


 ミスリル以外の部分は魔獣素材だ。

 魔力流すだけでサイズが合うのが魔獣素材の良いところでもあるんだけど…… めちゃくちゃでけぇ。

 っつか接合部も一切ねーし、なんかの魔獣の手の皮そのままなんじゃね?

 レガースもガバガバだし肩当てもフィットしねぇ。


「ふむ…… おそらくじゃがそれは並の魔獣素材ではないのぉ。朱王が作ったのであれば上位魔獣…… いや、それ以上かもしれん」


「そういや朱王さんデーモン討伐してたな。まさか……」


「そのまさかじゃろうな。全力で魔力を流してみてはどうじゃろう」


 っつー事で全力で魔力放出してみたんだけどサイズが合わねぇ。




 仕方ねぇ、とりあえず肩当てにレツとゴウを移してみよ。

 ライオス装備から呼び出したレツとゴウを肩当てに入れてみたら、とんでもねー炎を吹き上げてから二精霊が統合された。

 背中から放出されてた炎がそのまま二対の翼に分かれて、ミリーと同じファイアドラゴンって感じになった。

 大きさも一回り以上はデカくなったな。

 そんでなんかオレの反応を待ってるようだ。

 ジッとこっち見てるけどなんなんだろ。


「名付けが必要ではないか? 統合されたのであれば精霊の再契約が必要じゃろう」


「なるほどな。んじゃ何にするか……」


 前回はある意味失敗してっからな。

 レツ、ゴウときて…… 魔拳月読…… 緑色の炎…… ドラゴン…… 竜……

 月読って月の神だったか?

 神…… 竜……


「よし、ロンにする! お前はロンだ!!」


 最後に魔力を渡せば良いはずだし魔力を大量に放出して再契約完了。

 オレを中心に巨大な炎が噴き上がった。




 あとは装備のサイズを合わせるのはどーすんのか。

 これがデーモン素材と考えれば精霊を食った魔獣の素材って事だし、精霊魔法ならいけるんじゃね?

 試しにロンを介して魔力を放出してみたらサイズがピッタリになった。

 感触的には自分の手足の一部みてーに完璧なフィット感だ。


『グルルルルルァァァァァアア!!』


 装備のサイズが合ったと思ったらロンが光を発して叫んでる。

 そんでまた一回り大きくなった。

 これはもしかすっとデーモン素材の影響だろうな。


 光が収まったところで『クルルルルルルル』って落ち着いたみてーだし問題はねーだろ。

 しかし…… ミリーの精霊よりもデケーな。

 魔力量のせいかもしんねぇ。


 ライオス装備に比べたら結構デカい月読だけど、このフィット感のせいか重さもそれ程感じねぇ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る