第25話 オレ達の想い
クエスト途中で飛行装備を受け取って空を飛ぶオレ達は、わずか一時間たらずでデンゼルにたどり着いた。
「あれ!? 勇飛さんクエストはどうしたんですか!? もしかして見つからなかったとか!?」
オレ達がこんなに早く戻って来たらサーシャもさすがに驚くよな。
「クエストはもう終わったんだよ。千尋達がこの飛行装備届けてくれてな。ハイオークがいた場所から一時間で戻って来れたぜ」
「ひこう装備ってその革で出来たその腰布ですか?」
「おう、これで空飛べるんだよ」
「まったまたぁ。勇飛さんも嘘が下手ですねぇ」
「あれ、なんで信じてくんねーのかな…… まあいいや、ハイオークの件所長に報告しねーとな」
「え? 本当に終わって来たんですか? もしかして近かったとか? むー、では所長室にどうぞ!」
オレ達は所長室にはよく出入りしてる。
だから受付でどうぞって言われりゃそのまま入っていくんだけどな。
「所長。ハイオークの群れは討伐終わったぜー」
「…… 早かったね。報告ではまだしばらく掛かると思ってたんだが」
ファジー所長は終わったってのも信じてくれんのな。
オレ達の飛行装備も説明したら信じてくれるしいい所長だな。
まあサーシャの信じられない気持ちもわからなくもねーけどさ。
空を飛ぶところを見せてくれって言うから、窓から出て飛行装備で飛んで見せた。
さすがに所長も驚いて口開きっぱなしだったけどな。
オレ達が一緒してたのはクリムゾンの総帥だって言ったら納得してた。
役所も国が管理するとこだから朱王さんの話は降りて来てるらしい。
クリムゾン総帥としてだけど奴隷解放やら子供達の施設管理してるってだけじゃなく、化け物って言える程強え事まで知ってるみたいだ。
オレ達は朱王さんが戦うとこ見てねーけど、通常のワイバーン三体を瞬殺したみてーだからな。
千尋達の強さも異常だったけどあれ以上とみて間違いねーだろ。
所長から受け取ったハイオークの依頼書を受付に魔石と一緒に提出。
報酬の1,192万リラを受け取ったらサーシャはいつもの表情を見せてくれた。
まあ…… すげー大金だしな。
この前のワイバーン討伐でもオレ達の取り分として1800万リラ受け取ってる。
元々持ってた預金と合わせて5,000万リラ近くあるぞ。
役所の待合席でコーヒーをもらって一休み。
サーシャが運んで来てくれたんだけどちょっと身を乗り出して話し掛けて来た。
「みなさん聞きました? 三日前と一昨日の二日続けて映画の日というのが王国であったみたいなんですよ! なんでもすっごい面白い物語が観れるとかで、私も観たかったなーって! 今後も週末に映画の日を開催するそうなんですけど、私達も観に行きたくて!」
「サーシャ。私達は今回の指名依頼があったから見れなかったんだぞ」
珍しく拗ねてるナスカはやっぱ行きたかったんだろうな。
カインもエレナも行きたかっただろ。
「まあそう拗ねるな。朱王さんの邸で毎晩映画観ただろ。でもこんな街から週末になる度王国に行ってらんねーしな」
「デンゼルの街でも観れたらいいよね」
朱王さんに頼んだら設置してくんねーかな。
ミスリルって確か素材だけでもバカみてーに高いって聞いたし無理かもしんねーけど…… 試しに頼んでみよ。
「コール…… 朱王さん、デンゼルとか他の街でも映画の日ってやれねーかなぁ」
『んー、じゃあ国王に他の街や貴族領にも設置するよう言っておくよ。テンクス達もテレビ局で忙しいからすぐには出来ないかもしれないけどね』
「あざーっす。それとまた朱王さんのとこ遊びに行っていい?」
『いつでもー』って事だったからまた遊びに行こ。
飛行装備あればすぐだしな!
それに物は頼んでみるもんだな。
あっさり国王に頼んで…… っておい、国王に設置させんのかよ!
ん?
サーシャはなんだその顔は。
「勇飛さんが…… 独り言を……」
そういやリルフォンの事も言ってなかった。
説明すんのが面倒だけど、カイン達が説明しだしたから任せておこう。
「そんな…… とんでもないアイテムじゃないですか!!」
「まあそんなわけでな、デンゼルにもモニター設置してもらえる事になったから、そのうちここでも映画が観れるようになるぜ」
「やったーーー!! わーーーーーい!!」
うーん、サーシャは素直でいいな。
小躍りしながら役所の奴らと喜んでるし。
実際街で映画が観れたら最高だよな。
その後酒場に飯を食いに行った。
ちょっと考えなきゃいけねー事もあるし、パーティーの事もあるから全員で話合わなきゃいけねー。
朱王さんの邸の料理人に比べると格段に味も落ちるけど、ここで食える最高の料理と酒を注文した。
「よし、まずは食え! そして飲め! んでみんなで考えてる事を話し合いたい」
「勇飛もか。私達も思うところがある」
「今日は語り合おうか」
「悩んでるのは私達らしくないものね」
全員このままじゃいけねーって思ってんのかな。
無言で食いながら酒を飲んだ。
腹も膨れて少し酔いが回ってきたところでオレは自分の気持ちを話し出した。
オレと同じ迷い人である朱王さんは世界を良くしようと頑張ってる。
千尋や蒼真も各国を強くしようと協力してるし、実際化け物みてーに強え。
どこ向いたらいいかわかんねーオレ達とは違って、あいつらは前向いて一歩ずつ前に進んでるんだ。
今回千尋達に出会った事でオレ達はこれまで以上の力を手にしたけど、これまでと同じ生活してていいとは思えねーんだ。
もっと世界に目を向けていった方がいいんじゃねーかな。
結構熱く語ったつもりなんだけどあんま盛り上がんなかった。
エレナもオレと同じように、力を手にした自分達がここデンゼルに留まっている事が正しい事なのかって考えてるみてーだ。
飛行装備を手に入れた事でどこまでだって行ける。
この世界中を見たら困ってる人達は大勢いるはずだし、自分の手が届くならそんな人達を救いたい、助けたいと考えているそうだ。
それとちょっと恥ずかしそうにこの世界を見て回りたいんだって言ってた。
うん、いいんじゃねーかね。
そんな意見をオレは聞きたかったわけだし。
カインとナスカは恋人同士だし、二人である程度話をしてるんだろうな。
この力があればどんなクエストだって達成できるんじゃないかって思ってるらしい。
難易度の高いクエストってのは、強え魔獣がいるのはもちろんそれだけ危険性も高いって事だ。
その危険を取り除く為にも、各地の高難易度クエストを報酬額を気にせず達成したらそこの人達の為になるんじゃないかって考えてるそうだ。
それとなんか照れながら結婚はまだ先にしてその前に旅がしたいんだ、きゃはっ! って言ってた。
なんていうか…… うん、まだ食うし飲むけどご馳走さまって感じだな。
エレナの顔もやべーな。
もしかしたらオレもあんな顔してんのかも。
まあ全員の意見としては、これまでデンゼルを拠点に活動してきたけど、オレが言ったそろそろ世界に目を向けよーぜって方向に話はまとまった。
今すぐどうこうしようってわけじゃねーけど、みんなで話し合えて良かったと思う。
パーティーで話し合えた事だし気分も良かったから、その後は他の客も巻き込んでオレ達の驕りで思いっきり楽しんだ。
いつの間にかオレ達の驕りっつー事で街にいる冒険者全員が店に集まってたし。
んでもオレはやっぱこの街の奴らは好きだな。
たまに喧嘩もするけど気のいい奴らばっかだし一緒に飲んでておもしれー。
酔っ払ったままオレ達の考えを話してみたけど、結構真剣に聞いてくれるし真面目に答えてくれた。
オレ達がしたいようにすれば良い、救えるもんがあるなら手を伸ばせって言ってくれた。
この街には頼もしい仲間がこんだけいるんだ。
こいつらに任せとけば安心だな。
オレはいい出会いをする以前にいい仲間を持った。
パーティーだけじゃねぇ、この街の全員がオレの仲間だ。
この先旅に出ようがなにしよーが、どこに行ったってオレが帰ってくる場所はここなんだって思えるよ。
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