第9話 ヒーラーの有用性

 キラービーとの戦闘後、エレナが倒れた。


「エレナ!? 刺されたのか!?」


 抱き起すナスカ。

 カインは荷物から解毒薬を探す。


 オレはエレナに回復魔法を使用。

 体力は回復するようだが刺された右手の腫れがひかない。

 オレの怪我は元の状態を想像すると回復できる。健康な状態をだ。

 他人の体はどうだろう。

 毒が体に入ったらどうするっけ?

 この世界では解毒薬を使用する。

 蜂に刺されたら毒を出すんだっけかな?

 とりあえず刺された箇所から毒を追い出すイメージで魔力を流し込む。

 傷口に近い場所だと傷が回復してしまうかもしれないので左手側から。

 さっきまで殴り続けたキラービーの魔力をイメージしながらエレナの体に魔力を流し込む。


  ……


  ……


  ……


 お、なんかオレの魔力でエレナの体が光ってるな。

 まだ全身に行き渡らないからもう少し。


  ……


  ……


  ……


 よし、全身満たせた。

 傷口から血と透明な液体が出てるな。

 これが毒だろう。

 あとはこの状態で傷口を回復かな。

 傷口を回復してエレナの体内に入った魔力を回収。


 さてどうだろう。


 顔色は良好。

 さっき体力を回復したけど毒が抜けるまでにまた減ったんだろう。

 また回復するか。


 カインやナスカが少しうるさいが気にしない。

 魔法は集中が大事らしいからな。






「よし、熱も無いし呼吸も安定してる。あとは目が覚めるのを待つか」


 たぶん解毒はこれであってると思う。


「解毒魔法できたの!?」


「こんなに早く顔色が良くなるなんて……」


 聞いたところでナスカもカインも解毒魔法をわからないんだろうな。


「たぶん大丈夫だ。毒の成分は魔力を流し込んで体外に出したし、減った体力は回復してある。毒で意識を失ったからあとは目を覚ますのを待つだけだな」


 魔法医でも解毒魔法からの回復には時間がかかるという。

 以前見た解毒魔法でも体が光ってたとの事だからオレのやり方であってるのは間違いない。

 魔法医の解毒に時間がかかるのは毒が回ってしばらくしてからの解毒魔法だからだろ。

 全身に毒が回りきって体が拒絶反応起こしまくってるところからの回復じゃどうしても時間はかかる。

 その事を説明すると納得してくれた。


「エレナが起きるまでの間に魔石の回収しようか」






 すげー時間がかかった。

 その数三六一個。

 等分しても90万リラ。

 これで宿代も心配はない。






 魔石を回収して一時間程でエレナは目が覚めた。

 ぼーっとしてるようなので少し魔力を流してやる。

 オレが普段使ってる集中力の上がる魔法だ。これは何となくできるようになった魔法だが、ん? あれ? 全部何となくできるようになってる。

 まぁいい。

 オレが天才的なだけだろう。

 そういう事にしたい。


「私、キラービーに刺されて…… ここは外って事は勇飛が回復してくれたの?」


「まぁな、元気になって良かった」


  魔法とはいえ人体実験か……


「ありがとう勇飛」


 嬉しそうにお礼を言うエレナと複雑な気持ちのオレ。


 エレナはもう大丈夫というのでここで弁当を食べた。

 干し肉と野菜を挟んだパン。

 甘辛いタレもあってなかなか美味い。

 今日の狩りはどうだったのか聞くと、やはり普通ではないらしい。

 数が多過ぎるのが異常なだけでなく、時間も早すぎるんだとか。

 そんなモンスターに囲まれてチマチマ倒してられないだろと言うと呆れられた。



 役所に戻って報告。


「もう終わったんですか!? さすがエレナさんですね! 勇飛さんも異常なほど強いですから心配してませんでしたよ! …… それよりこんなに居たんですか!?」


 サーシャは笑顔で迎えてくれた。

 いつもは呆れ顔するのになんて奴だ。

 魔石の数にも驚いているがそれはいつもの事。


「それの八割は勇飛が倒したんだ」


 ナスカが報告をするといつもの顔がオレに向けられた。




 とりあえずクエストの報酬を受け取って山分けと思ったがやめた。オレがリーダーだからここで考えてる事を言おう。


「まずは今までの所持金は自分達のお金として持っていてくれ。で、今日からはこの報酬の一部を貯金に回す。異論はあるか?」


 特に異論はなかった。

 冒険者は報酬は山分けが当たり前なんだと思ってたけどそうじゃないのか?


「勇飛が貯金すると言うなら文句はない。だけどその貯金は何の為にするんだ?」


 そこはオレが地球の日本人。

 老後のためだ! とも思ったが。


「貯金はパーティーの為に使う。武器を買うとしても個人ではなかなか買えないだろ? それならパーティーでお金を貯めてパーティーのお金で買う。必要な物はそれぞれ言ってもらって構わないが、購入の検討は多数決で決める。購入する順番はオレが決めるのでどうだろう。見たところナスカの右はキメラ武器だよな。左は鋼鉄製か? エレナの剣もキメラ武器だ。カインは…… わからんが」


 全員を見た場合、オレの装備が一番優れている。

 ま、まぁ武器を持っていないじゃないかと言われてしまうが手足の防具、兼武器なわけだし。


 カインの武器は矢の先端にミスリルが組まれているらしい。

 魔法を放てるミスリル矢は高いので五本だけ。

 普段は通常の矢を使うそうだ。


 各々必要なのは……

 ナスカの左用ミスリルのダガー。

 エレナのミスリル剣。

 カインのミスリル弓。


 最初に必要なのは値段的にもナスカのミスリルダガー。

 右でしか魔法を放てないのは攻撃力が低いダガーでは少し辛い。

 次にミスリルの弓か。

 放てる魔法の威力が上がるらしい。

 エレナの武器はキメラ武器なのでそれほど急ぐ必要もない為三番目。

 次にまたナスカのミスリルダガー。

 キメラダガーはカインに。

 またカインのミスリルダガーを購入し、キメラダガーをオレが受け取る。


 ここまででオレの装備の購入予定が無いと言われるが、その後の防具の購入をオレからにするという事で納得させた。


 今回のクエスト報酬は361万リラ。

 一人20万リラずつ受け取り、残りを貯金に回す。

 パーティー内での目標ができた事で貯金に回す金額を多めにした。

 明日もクエストに行くから取り分が少なくても問題ないと言う。


 なんかこいつら急にやる気出したな。

 現金な奴らだ。

 まぁオレでもそうなると思うが。




 役所からまっすぐ向かうのは武器屋ゴレン。

 今週はパーティーでオレの生活に合わせると言うので一緒に向かう。


「ようナッシュ。今日はパーティーで来てみたよ。トレーニングルーム使っていいか?」


 筋トレバカのナッシュ。

 筋トレしに仲間も連れて来たと言うと機嫌がいい。

 快く使わせてくれる。


 ナッシュがオレの為に用意していてくれる干し肉を複数枚食べる。

 全員同じ量食べた。


 オレはいつものメニューでトレーニングし、今の体型を維持したいので以前よりもセット数を減らしている。


 カインは弓矢の威力を上げる為にも筋肉をつけたいと言う。

 ナスカやエレナもゴツくならない程度に筋肉をつけたいと言うので、メニューを考える。




 三人ともまずは筋トレの定番BIG3。

 一人ずつ同じメニューで逝ってもらおう。


 まずはベンチプレス。

 カインから始めるが、最初から限界を狙っていく。


 一回目から限界そう。


 二回目でバーベルが上がらずプルプルしている。

 本来は危険なのでこの重さでやると怪我をする。

 絶対にやってはいけない筋トレだ。


 でもここは魔法のある世界。

 両側からナスカとエレナに支えてもらい、オレはカインに回復魔法をかける。

 二回目が持ち上がり、三回目、四回目と回数を重ねていく。

 上がらなくなったら両側から支えて回復する。

 これを繰り返した。

 二十五回で重りを追加してもう二十五回やってもらう。

 二十五回を1セットとして、3セットでカインは一旦終了。


 筋肉と体力を回復魔法で超回復させ、次の筋トレ用に干し肉と水分補給をしてもらう。




 ナスカとエレナにも限界の重さでベンチプレスをやらせた。

 顔を見られるの恥ずかしいとか言ってるが気にしない。

 みんな必死になればそんな顔。

 君らは美人だから他より全然良い。

 美人と褒められると赤面するのはお年頃だからだろう。






 次にスクワット。


 冒険者には是非やってもらいたい。

 まずは重りなしで基本的な動作を覚えてもらう。

 尻を突き出す動作なので女性二人は躊躇うが気にしない。

 綺麗なスタイルが手に入ると言うと真面目に頑張った。


 重りがなくてもやはりキツいらしく、膝がガクガクしたところで回復してやった。




 重りなしで二十分ぶっ通し。

 回復しながらだったがかなりキツかったと思う。


 干し肉と水分を補給してもらい、バーベルを持って二十五回やってもらう。

 これも限界の重さでやってもらった。

 重りを追加しての3セット。

 一人ずつ順番にやり、終わったら水分補給と干し肉を食べる。






 全員の体力と筋肉を回復させ、最後にデッドリフトをやってもらう。

 腰に負担が大きいので重りは慎重に選んだ。

 持ち上げられる限界の重さから少しだけ軽くした。


 これも二十五回。

 五回ごとに回復魔法をかける。

 これも重りを追加しての3セットだ。


 全員終わったところでまた水分補給と干し肉を摂取。


 筋肉と体力の回復をして今日のトレーニングを終了……


「なんだよナッシュ」


「オレのも頼む」


 という事でナッシュの筋トレにも付き合った。


 その間他のメンバーはナッシュの店で、今後買うかもしれない武器を物色。

 ついでにいろいろと相談させてもらった。

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