第8話 初パーティークエスト

 お金がない。


 ミスリル武器を買ったので貧乏になってしまった。

 昨夜からはナスカ達と同じ宿に泊まることにしたが、今夜の分の家賃さえない。

 今日もクエスト頑張りますかー!




 朝五時半。


 宿の食堂に行くとナスカは既に起きていた。


「おはようナスカ。この世界の人はいつもこんなに早く起きるのか?」


 以前問われた質問を返してみる。


「おはよう勇飛。今日はたまたま早く目が覚めたんだ」


 ナスカの表情がいつもと違う気がする。

 まだ眠いんじゃないのか?


「こんなに早く起きたって事は何かオレに話でもあるのか?」


 何となくそんな気がしたので聞いてみる。


「う、うん。そ…… そのな、私が勇飛の後をつけていた件で…… 私を、き、嫌いになったか?」


 またなんか涙目だな。


「別にそんな事で嫌わねーよ。オレの心配してくれたんだろ? むしろ感謝しなきゃいけないくらいだ」


 なんかナスカは始めの頃の印象とはだいぶ変わったな。

 凛々しい女性って感じだったのに、今は悩めるお年頃の女の子ってとこか?


「ナスカは今日は何したい? なにか希望はあるか?」


 オレとしてはお金が無いのでクエストに行きたいが。


「今日は久しぶりにクエストに行きたい!」


 久しぶりにとか言ってるあたりもうダメダメだ。

 カインとエレナが起きたらクエストの相談する事にしよう。


 コーヒーをもらってきてナスカに一つ渡す。

 他愛もない話、主に地球での話をしながら時間を潰す。

 話しているとナスカも楽しそうだ。さっきまで涙目だったはずだけどね。




 しばらく待ってもカインとエレナが起きてこない。

 もう時刻も八時を過ぎている。


 食堂の入り口の方に目をやると居た。

 隠れてこっちを見ている二人。

 一体何をしてるんだか……

 手招きしてこっちのテーブルに呼ぶ。


 ニヤニヤしながら近づいてくるエレナはなんなんだろう。

 腹が減ってるんだから早く来て欲しいものだ。


 朝食を摂り、今日の予定を決める。

 と言ってもクエストに行くだけだが。

 みんなに聞くと、とりあえずオレの普段の生活に合わせて今週は過ごしてみたいとの事。

 クエストに行き、ご飯を食べて、筋トレをする。

 それだけなんだが。






 今日も役所に来た。


 クエスト内容:キラービー討伐

 場所:デンゼル北部草原

 報酬:一体につき10,000リラ

 注意事項:群れで生息する

 報告手段:魔石を回収

 難易度:7


 サーシャに今日のクエストを選んでもらった。

 蜂退治らしい。

 飛んでいるため素早い事と、刺されると毒になるから充分注意するよう言われた。

 この世界では毒というのは厄介らしく、解毒には解毒薬を使用しても数日間は回復しないとの事。

 ゲームの感覚からするとそれほど脅威ではないが、実際の毒を考えれば危険極まりないと思う。

 ヒーラーにも解毒の力があるようだが回復とはどう違うのかわからない。

 解毒薬よりも早く回復できるというので覚えておきたいものだ。




 弁当と水を持って準備はできた。


「キラービーか…… できれば勇飛には受けてほしくなかったが緊急らしいからな」


 ナスカはサーシャが選んだクエストを断ろうとした。難易度7とあるが一つ上の8でもおかしくないクエストらしい。

 一体ごとの強さはそれほどでもないが、数とは力である。もの凄い数のキラービーが襲ってくる事が予想される。


 今回緊急とされていたのは前回の討伐から時間が経過している為、その数も増えているだろうと予想。

 シルバーランク冒険者のナスカパーティーに依頼したかったそうだ。

 何故このクエストを放置したのか?

 それはナスカがクエストを受けずにストーキングしていたからだ。

 ナスカも断るに断れなかった。






 デンゼルの北部に出ると草原がある。

 草原には川も流れているためモンスターも多い。

 だがこの草原のモンスターは人を襲う類のものではなく、キラービーだけが危険なモンスターとなる。


 草原に繋がる道を歩いて行く。

 道は広く、荷車が数台すれ違っても通れる程度には広い。


「羽音が聞こえるな。これもしかしてキラービーの羽音か?」


 鬱蒼と生えた背の高い草叢の奥から羽音が聞こえる。

 音からして相当な数のキラービーがいる事を予想される。

 この背の高い草叢はキラービーが道に入ってこないように、道の横に植えられたらしい。


「ちょっとこれはヤバいんじゃない? 多過ぎるわよ?」


「これは合同パーティーでやるべきかもしれないね」


「仕方ない、今日は調査だけにするか。数を確認して役所に報告しよう」


 ナスカ達の判断で調査だけして帰る事に。




 草叢を掻き分けて覗き込むナスカ。


「ヤバい。帰るぞ、百以上いる」


「なぁ、あそこだけ草叢の背が低い場所があるのはなんでだ?」


 オレが指差す方向に草叢のなぎ倒されたような場所がある。


「もしかしたらあそこを大型のモンスターが突っ切ったのかもしれないね……」


 言ってる間に馬のようなモンスターが走り去る。


 そして……


「ちょっ、ちょっと! キラービーが道に入って来ちゃったわよ!?」


 オレ達に気付いたキラービーが向かって来る。

 その数三匹。

 さっきの馬のようなモンスターを追っていたうちの三匹だ。


 高速で近づいて来るキラービー。

 カインが放った矢が一匹を射ち落す。

 走り出したオレとナスカ。

 ナスカが一匹を切り倒し、オレも一匹を爆破。


「…… あ」




 爆発音を聞きつけたキラービーの群れが押し寄せて来る。

 キラービーは百を超えてそう。

 まぁなんとかなるだろう。


「スマン。オレが戦うと敵が集まって来るんだ。ほとんど狩り尽くすまで続くからよろしく!」


「ちょっ! 嘘でしょ!?」


「矢が足りないよ……」


「知ってたけど恐ろしいな」


 各々武器を構えて迎え撃つ。


 カインが燃えあがる炎の矢を射放つ。

 放つと貫きながら複数のキラービーを射ち落とした。

 ナスカは右のダガーに炎を纏わせて構える。

 エレナは剣に風を纏わせた。

 エレナの風でキラービーの飛行能力を乱し、ナスカが切り伏せ、カインが遠くのキラービーを炎の矢で射抜く。


 オレもそろそろやるか。

 両手足に魔力を集め、爆破の乱舞。

 今までの素手に比べて、ミスリル装備は魔力の放出が軽い。

 視界に入る全てのキラービーを叩き落とす。






 よし、八十は倒したな。


 キラービーが周りに居なくなったのでナスカ達を見る。


  …… なんて顔でオレを見るんだ。


 まだまだ羽音が聞こえるので第二陣があるのは間違いない。

 見たところ既に百以上は倒してる。

 ここからどれだけ来るのか。


「勇飛はどうなってるの? あれだけ倒して疲れないの?」


 まぁ常に体力を回復してるが。


「なんであんな早さで倒せるんだ?」


「オレは両手足が武器だからな。四本ある。ナスカは両手だから二本だろ? エレナは一本、カインも一本。その違いだろ」


 適当過ぎるが間違ってはいないだろう。


「勇飛の爆破魔法は威力が高いね。普通の火属性魔法は爆発しないからそんなに威力は出ないよ」


「そのかわり他の魔法はできないけどな!」


 回復はできるが。




 水を飲んで少し待つと第二陣が襲って来る。

 さっきよりかなり多い。


 また同じようにカインが炎の矢を射る。

 ナスカ達は陣形を取りながら向かって来るキラービーを次々と倒していく。

 オレは普段通りに視界に入る敵を次々と叩き落とす。

 オレの魔力量は十万を超えるだけあって、これだけ連続して爆破しても威力が衰える事はない。

 ついでに体力の回復もしているがまだまだ余裕がある。


 今度爆破に使う魔力量を調べてみよう。

 …… え? 調べ方?  簡単だよ。

 役所に行って魔力を測定する。

 攻撃に使う程度の魔力で爆破をする。

 魔力を測定する。

 これで何発打てるか計算できるだろ。


 考えごとをしながらでもキラービーの群れを倒し続ける程にはオレも強くなっている。

 難易度10などは想像つかないが、この世界で生きていくだけの力は手に入れられたな。


 第二陣が攻めて来てから十分ほどか。


「みんなお疲れ! 誰も刺されてないか?」


 全部倒し終わったので振り返る。




  ドサリ。




 エレナが倒れた。

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