第2話 ヒーラーの魔力

 翌朝。


 目覚めたオレは顔と歯を磨いて宿屋の食堂へ向かう。

 ここが異世界である事にまだ実感はわかない。


 しばらくするとナスカ達も起きてくる。


「おはようユーヒ。迷い人はいつもこんなに早く起きるのか?」


「あはは。おはよ。何もする事がなくて昨夜は早く寝たんだ。あんなに早く寝たのなんて子供の時以来だよ」


 この世界にはテレビなどの娯楽はない。

 娯楽どころか機械的なものが何一つ無かった。

 本を読もうにも意味不明な文字が書かれてあって読めない。

 諦めて昨夜は二十一時には眠りについた。


 朝食を摂って宿を出る。






 カインとエレナは回復薬を買い足しに行き、オレとナスカが向かったのは街の東側。

 東門から出てすぐの拓けた草原だ。


「こんなとこ来て何をするんだ?」


「魔力の制御だよ。ユーヒは回復魔法だけど魔力の訓練はするべきだと思うんだ。強化自体は私達の魔力だろうがヒーラーの魔力だろうが同じ事だからね」


「なるほど。強化して武器で戦う分には冒険者としてもやれなくはないな」


「そういう事! 難易度の高いクエストは受けられないけど、低難易度のクエストであれば報酬は少ないけど冒険者やれるだろ?」


「奴隷にならずに済むのならそれだけでも助かるわぁ……」


 まずは一安心。

 収入は少なくても生きていく糧を得る事ができる。


「ヒーラーの魔力の訓練は魔法医のエルリーから聞いてきた。エルリーは仕事があるから訓練には付き合えないし私が教えるよ」


 ナスカは男のような口調だが、面倒見のいい性格らしい。


「まずは指先に魔力を集中してみるんだ。自分の体内にある魔力を放出するんだけどイメージできるか?」


 指先に集中してみる。


 魔力の放出どころか魔力の事がイマイチわからない。


「魔力はそうだな…… 今はユーヒの体の表面を包んでいるから、それを感覚で掴めればわかると思うんだけど」


 それならわかるかも。

 なんか体が軽い気もするし強化されてるって言われればそうなのかもしれない。


 目を閉じて体の表面に流れる魔力を感じとるよう意識する。

 

  少し光ってて…… ふわっとしてて…… 暖かい…… 指先に集中させるイメージ。


 指先に熱をもつ感覚がある。


 目を開くと指先にキラキラとした光が舞っていた。

 指先を左右に動かすと、光の粒子が指を追ってくる。


「これが魔力か? 思った以上に綺麗だな」


「あー、やっぱりヒーラーの魔力だな。私達のとは違うし」


 言って魔力を掌から出すナスカ。

 光の球が浮いている。


「確かに見た目は違うけどどう違うんだ?」


「エルリーの話だとヒーラーの魔力は火や風なんかを発生させられないらしい」


 ナスカは魔力球から魔法を発動し、火球にして見せる。


「その魔法は儀式とか呪文とか発動条件はあるのか?」


「いや、魔法は基本的にはイメージだ。魔力にイメージをしっかりと乗せると魔法になる」


「なるほど」


 魔力の集まっている指先に火をイメージする。

 何も変化は起こらずキラキラと光の粒子が舞っている。


「うーん。火は出ないか」


「ヒーラーの魔力じゃ仕方ないな。まぁイメージが魔力に上手く乗らないと魔法は発動しないんだけどね」


 とりあえず魔力の訓練法もわかったし今後毎日やっていこうと思う。


 しばらく魔力の放出を安定させた状態で保ち、ある程度は魔力を放出できるようになった。




 昼食を摂って午後からはナスカから字を学び、夕方には二人共机に突っ伏して寝ていた。

 教える側も教わる側もダメダメである。

 迎えに来たカインとエレナが呆れ顔で起こしてくれた。


「あ、やべ。寝てる場合じゃなかった」


「もう十八時よ。今からじゃ何もできないだろうから、今夜も宿代出してあげるわ」


「いやいや、さすがに悪いしいいよ」


「私にも責任があるからな、今夜も宿に泊まっていけ」


 そんなわけで異世界に来て二日目も宿代を奢ってもらった。






 さらに翌朝。


「助けてもらったうえいろいろとありがとう。生活が安定したらこのお礼をさせてもらうよ」


「期待しないで待つわ。せっかく助けた命なんだから無理しちゃダメよ?」


「僕達も君の話を聞けて楽しかったよ」


「しっかり訓練するんだぞ」


 お礼を告げてナスカ達と別れた。






 街の外はモンスターが出るので危険だろうと、街の中央広場で魔力の訓練。

 別に魔法を放つ訳でもないので問題はないと思っていたのだが、自衛騎士団の男に注意されてしまった。

 他人に危害を加える意思がなくとも、街の中では魔法の使用や魔力の放出などは極力控えなければいけないらしい。

 安全に訓練できる場所を聞いてみると、昨日行った東門付近はモンスターも出る事はなく安全らしい。






 東門を出て魔力の訓練を始める。


 実は昨夜暇だったしなかなか寝付けなかった為、宿の部屋で魔力の訓練をしていた。

 すでに右手の五本の指だけでなく、掌から魔力を放出できるようになっている。

 左手は今後訓練していこう。


 今日はとりあえず魔法を少し調べてみようと思う。


 掌に集まった魔力を燃やすイメージ。

 火を発生させようと意識を集中するが、魔力に火が灯る事はなかった。


 それならばと、光の粒子を火薬に例えて燃やすようにイメージする。

 するとボンッ! と掌で爆発が起こった。


「び、びっくりしたぁ!」


 突然の爆発に驚いた。

 なんとなく魔力が粉末みたいだったから火薬をイメージして着火しただけだ。

 もしかしたらこの爆発があれば戦闘用魔法として使えるのではないかと考える。


 魔力を掌に集めて近くにあった枯れて朽ちた木を爆発させてみる。

 バラバラに吹き飛んだ木。手には小さな反動があるのみ。


「よーっし! 俄然やる気出てきた!」


 魔力を放出するスピードをあげる訓練を始め、昼になる頃には三秒もあれば充分な爆発をできる魔力を放出できるようになった。


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