第11話 この妙なやり取りは何だろう?
――飲食店で道を教えてもらったので、改めて第三騎士団の敷地へと向かうことにした。
多少は迷ったりもしたけど、目的の場所はすぐに見つけることが出来た。
途中で何人かに道を聞いたけど、皆すぐに答えてくれたくらいだから知名度もすごいんだろうなあ。
「敷地も大きいけど奥の建物も結構大きいなあ」
さすがは伝統のある第三騎士団だけはある。
さっそく取り次ぎを頼もうと敷地の入口へと近づくと、両脇に立っていた警備兵らしき人たちが警戒するようにこちらを見据える。
「そこで止まれ。怪しい身なりだが、ここがどこなのか知っていて来たのか?」
「え……、怪しいですかね?」
「ここに徒歩でやってきた上に帯剣している輩が怪しくないわけがないだろう」
なるほど、確かにそう言われてみれば王都に入ってからここに来るまで町中で帯剣している人はあまり見なかった気がする。
異世界標準がよくわからないけど、警備兵が警戒するのも仕方がないかもしれない。
であれば、まずはその警戒を解いておくべきだろう。
「あー、実はこの剣折れちゃってるんですよ」
「そんなことはどうでも良い。用件はなんだと聞いている」
怪しいとか言っておいてどうでも良いとはこれいかに。ま、まあ仕方がないか。
「今日はこの第三騎士団に入団を志願しに来ました」
「入団? 何を言っているんだ。春期の入団試験はとっくの昔に終わってるぞ?」
「えっ、それは困るんですけど!?」
「困ると言われてもな……、規則は規則だ。それでも入団を希望するなら秋期の募集まで待ってもらうしか無いぞ」
なんてこった。誰もそんな事を言ってなかったから、てっきり通年採用してるもんだと思ってたよ。
「そんなあ、せっかく推薦状までもらったのに……」
「ん、ちょっと待て。今なんと言った?」
「えっ? ああ、推薦状を持ってきたんですよ」
封蝋されてて実際に中身を見てないから、本当はどの騎士団かはわからないんだけどね。
「そ、そういう事は先に言いなさい! いや、先に言ってください!」
なんと、推薦状と聞いて警備兵の対応がガラリと変わってしまった。まさか言葉遣いごと変わってしまうとは……。
……これで推薦状が全然関係ない騎士団宛のものだったら、後からものすごく怒られそうだ。
そこから先は推薦状パワーのおかげか、そのまま奥の建物へと案内されて待合室らしき部屋に案内されてしまった。
緊張しながら通された部屋で待っていると、部屋の外から何やら慌てたような声が聞こえてきた。間もなく部屋に入ってきたのは一人の男性とそれに付き従う秘書っぽい女性だった。
男性は身なりはしっかりとしているけど、それとは対照的に頼りなく見える薄毛が印象的に見える。秘書がついてるくらいだし、もしかしたら結構立場が上の人なのかな?
秘書っぽい女性からは仕事ができる感がものすごく伝わってくる。部屋に入ってきてからずっとこちらを探るように見ている。
「これはこれはお待たせしま――うん? 推薦状を持ってきたというのはお前か?」
「はい、イルクールの村から出てきました」
「知らない村だな……」
目の前の男は俺を値踏みするように見てから、あからさまにがっかりとした表情を浮かべ、脇に控えている秘書のような女性に小声でボソボソと耳打ちする。
うん、「こんなやつから賄賂もらったかな? こいつの親か?」とか聞こえてくるよ。
「こちらがクローツ教のレーヤ司祭からいただいた推薦状になります。どうぞ」
「なんと、レーヤ司祭が!? そうか、どこかで聞いた名前の村だと思ったが、レーヤ司祭が隠居した村だったか……」
いやいや、さっき聞いたことがないって言ってただろう?
でも、驚き具合からすると少なくともレーヤ司祭のことは知っているみたいだ。ミロクのお爺さん、本当に王都で顔が利くのね。
「ひとまず、見せてみなさい」
そういって催促する男性に、もってきた推薦状を手渡す――前に、奪うように取り上げられた。
封を破って推薦状を広げて中身へと視線を落とす。そして推薦状を読むに連れて、その表情が驚きを見せ始める。……いったい何が書いてあるんだろうか?
父さんから聞いた話ではレーヤ司祭に推薦状書いてもらったのは成人の儀よりも前なのは間違いないけど、龍神様の神託と前後しているかどうかはわからないんだよね。
そうして一通り読み終わったであろう素振りを見せてから、視線だけをこちらへと向ける。
「……君、成人の儀で授かった恩恵を教えなさい」
「えっ、恩恵ですか? 授かった恩恵は【超会心】です」
「その言葉に嘘偽りは無いのだな?」
「もちろんです」
なぜか責めるように確認されてしまう。俺、何もしてないよね?
「ふむ……、素晴らしいじゃないか。よし、それならこの推薦状はもう必要ない」
「えっ!?」
言うなり目の前で推薦状を破り捨ててしまった。ど、どうして?
「君、名前は?」
「えっと、ライトです」
「そうか……。ライト、君は私がイルクール村を訪れた際に見出した。そうだね?」
そう問いかけながら薄毛の男性の視線が向いたのは、なぜか俺にではなく隣の秘書らしき女性に対してだった。
「はい、その通りです」
「うむ!」
「君もそういうことでいいね?」
「え?」
「そういうことでいいね?」
「……はい」
この妙なやり取りは何だろう?
困惑する俺を蚊帳の外に置いたままで、薄毛の男性とその秘書は今後の計画とやらを俺の目の前で決め始めた。
大枠のシナリオ的には、とある吉兆を受けて薄毛の男性が辺境の村を訪れた際に見どころのある人材を見つけて第三騎士団で引き受けた。
そうして第三騎士団で厳しい訓練をしていく中で、伝説の恩恵【超会心】に目覚める的な?
ものすっごくくだらないし、レーヤ司祭や父さんたちの想いが捻じ曲げられてしまったのは気に入らない。
だけど、結果的に騎士見習いとして入団することはできるみたいなので、ここは我慢しておいたほうがよさそうな気がする。
これを逃したら入団時期はからは外れてしまった以上は、無職のまま数ヶ月待たないといけなくなってしまうし……。
それはさすがにお金が底をついてしまう。
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