紙とペンと……インクも取りなさいよ!

大月クマ

俺、世界を創るぜ!

「なあなあ、俺も“世界”を作ってみたいんだけど」


「どうしたの急に?」


「あっちの神様が、“世界”を作って自慢していたから、俺も神様の端くれ、“世界”のひとつやふたつ創ってみたいじゃん」


「ああ、『光あれッ!』とかいって創ったアレですか?」


「そうそう、七日で“世界”を創ったって、ちょっと盛りすぎだと思うんよ」


「七日じゃ、ちょっと無理じゃないですか?」


「俺もそう思う」


「他の神様は、どうしたのか聞きましたか?」


「なんか、適当に雲をかき混ぜていたら……

 重い方が下に落ちて、軽いのが上に登ったとかで、『出来ちゃった!』って、いっている奴もいるんだ」


「――適当はないでしょ。

 然るべきして創らないと、後で『どうやって創りました?』って聞かれたときに、『適当』なんて恥ずかしくて、答えられませんよ」


「そうだよな。そこはこだわりたいよな……。

 ちゃんとした根拠を元に、俺は創りたいわけだ」


「なるほど。根拠というのは?」


「まず確認事項だが、俺は男神。君は女神で間違いないよね?」


「こんな美女を捕まえて、男神だと!?」


「――訂正する……」


「ちなみに両性でもありません」


「――いや、二人で創ったていう神様も……」


「あッ! 今ヤらしいこと考えましたね!? セクハラでみんなに訴えますよ」


「ゴメンナサイ。それだけは許して!」


彼方あなたと交わるのは絶対やです!!」


「そんなに否定しなくても……」


「とりあえず、話を聞くだけ、聴きましょう。

 何でしたっけ?

 ああ……他の神様が“世界”創ったから、『俺も流行で創りたい!』でしたっけ?」


「要約するとそうだ」


「で、プランは?」


「……と言いますと?」


「少しぐらいその中身のない頭で、考えているんでしょうね!」


「……と言いますと?」


「解らない方ですね。出来上がった世界の住人達をどうするかって、考えていらっしゃるんですか!」


「怒らないでもいいでしょ……。もちろん、考えてある!」


「どこに?」


「ここに!」


「あの~……。

 失礼ですが、指しているところは、彼方の空っぽの頭のようですか……」


「いや、だから俺の頭の中に……」


「はあ~!? 馬鹿じゃないですか!?

 考えているだけで、どういう“世界”を創るかプランがないまま、創ろうとしているんですか!?

 その世界の住人の可哀想なこと……」


「そうなのか?」


「根本的な設定取り決めがないまま、“世界”を創っちゃったら、その“世界”の住人はどうやって生きていくんです?」


「他の神様もそんなこと決めているの?」


「当たり前です! わたし達は神様なんですから、創った住人のことも考えないといけません。

 わたしが書き留めます。ほら、そこにある紙とペンを取ってください」


「よろしくお願いします!」


「ペンだけで書けるとでも? インクも取りなさいよ!」


「すみません……」


「そっちじゃなくて、色つきの方! “世界”を白黒にしたいんですか?」


「いや、カラフルにしたい。それから……」


「それから、なんですか?」


「他の神様の“世界”を覗いたが、面白みが欠けるんだよな……」


「とりあえず、1+1=2。と……」


「そんなところから? でも、1+1は、2とは限らないんじゃ……」


「――セクハラ……」


「何でもありません!」


「気が進みませんが、1+1=2ではない事もあり得る、と付け足しておきましょう」


「1+1はやっぱり、それ以上だよね!」


「まあ、サイコロでもその中に混ぜ込んで、ランダムにしましょう。

 もちろん、1+1=0以上と……」


「なんか、俺の世界じゃ無くなっていくような……」


「何か?」


「いえ……。

 とにかくさぁ、住人についてだけど、あの『光あれッ!』って創ったところから拝借して……」


「考えるのが面倒くさくなりましたか?

 それでしたら、わたしは混沌から創ったところの住人を推します」


「ここは譲れない!」


「わたしも譲りません」


「よし、ここはカードゲームで……」


「時間が無いので、ちょうどサイコロがありますし、決めませんか? ちょうか、はんか……」


「――時間はたっぷりあるよ」


「彼方に付き合っているのか嫌なんです! 丁で!」


「はッ、半!」


「……」

「……」


「――何でこんな時に限って、半なの!?」


「俺の勝ちだ! では、住人は俺に言ったとおり……」


「全部じゃなくて、細かく決めませんか?」


「あれぇ? 負けたからって、言い訳は神様らしくないなぁ」


「――では、この世界は無かったことに……」


「いや、何でも無い。続けようか……」


「次は、動物です」


 ――――――

 ――――

 ――


「でもさあ~、神がサイコロ振っていいの?」


「出来上がる“世界”の誰が、神がサイコロを振っているところを、見るんですか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紙とペンと……インクも取りなさいよ! 大月クマ @smurakam1978

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ