紙とペンと漫画家さん家のネコ王子

タカナシ

漫画家さんのネコ王子

 ぼくはネコである。名前はチャチャ。オスの1歳だ。

 チャームポイントはオレンジの毛並みの中、頭のところが王冠のように白くなっているところだ。

 そう! なにを隠そうぼくは王子さまなのだ!


 その証拠にぼくには召使いがいる。

 召使いは毎日、毎日ぼくが呼べばゴハンを持ってくるし、ぼくが目で訴えれば、ネズミのオモチャを持って、右へ左へと振ってぼくを楽しませる。


 極めつけに、ぼくには玉座があるのだ!

 玉座は常に召使いが控えていて、ほこりをかぶらないように原稿と呼ばれるとても貴重な紙をかぶせてある。さらにその紙にはいつも違う模様が描かれていて、ぼくを楽しませる。

 召使いが空き時間にいつも描いてくれているのだ。

 まったく、どれだけぼくのことが好きなんだ!


 しかも、この召使い、ぼくを楽しませるだけではなく、ちゃんとぼくの身の安全も考えているのだッ!

 玉座の近くには何本もの武器が置かれていて、日頃から召使いはその武器を振るって鍛錬を怠らない。いつでもぼくを守る準備万端だ。

 Gペンとか丸ペン、コピックといった強そうな名前の武器たちが召使いが好んで使う武器だ。


 さて、王子は王子らしく、今日も玉座に座ろう!


 ぼくが原稿と呼ばれるほこり避けの紙に乗ると、ぼくのあまりの愛くるしさ、もしくは神々しさに召使いは、「ハァッ」と息を飲む。


 召使いはぼくを抱きかかえると、原稿をどかし、玉座を顕わにする。

 確か召使いは、この玉座をトレース台と呼んでいたな。

 ゆったりと傾斜がつき寝転がりやすく、さらにぼくの神々しさをアップさせるためにライトアップ機能もついている素晴らしい玉座だ。


 ぼくはライトをつけたり消したりしながら、玉座に寝そべって堪能する。


 むむっ。ぼくのあまりの可愛さに召使いがこちらを凝視しているぞ!


「チャっちゃん。そこどいてくれない?」


 猫撫で声で何かぼくに言ってくる。

 ぼくの名前を言っていることだけは分かるから、きっと賛美の言葉だろう!

 その証拠にこの言葉を言ったあとは必ず献上品を差し出すのだ。


「ほら~、チャっちゃん。オヤツだよ~。美味しいよ~。そこ、どいて~」


 ぼくの名前を呼びながら、献上品を差し出すけど……。


 ぼくから遠いッ!!


 ぼくはシッポをパンパンと振るい、近くに持ってくるよう促す。

 けれども、召使いはこのときだけは譲らない。絶対に持ってこないのだ。

 たぶん、王子なら王子らしくマナーは守れということなのだろう。


 それなら、オヤツは別にいいや。

 どうせ無くならないし、あとで食べよっ。


 ぼくはトレース台にごろんとお腹を仰向けにさらしてくつろぐ。


「チャっちゃん~~」


 どこか落ち込んだような声を召使いが発する。


 ふむ、仕方ないなぁ~。

 王子だって鬼じゃあない。ちゃんと働いてくれている召使いには褒美も出しているのだ。


「アニャニャ!」


 ほら、この綺麗でフサフサなオレンジ色の毛並みのぼくを撫でていいぞ。肩から背中にかけては逞しい体つきのぼくだけど、お腹まわりはふっくらとしていてさわり心地は天にも昇る感触、このお腹に顔をうずめてモフモフしていいぞ!

 

 召使いはまるで誘蛾灯によってくる虫みたいにぼくに近づく。


「仕方ないな~。なんですかぁ? マッサージの催促ぅ? それなら仕方ないなぁ。漫画描いてる場合じゃないよねぇ~」


 召使いは恍惚の表情を浮かべて、ぼくを撫でまわす。

 そして、お腹に顔をうずめる。


「ハァ~~~~。生き返る~~~~」


 ふむふむ。召使いめ存分に堪能したな。

 それじゃあ、ぼくはオヤツでも食べに行こう!


 未だに顔をうずめる召使いを無視して、ぼくは玉座をピョンと降りた。


「あ~~、チャっちゃん~~!」


 優雅なぼくの歩き姿、プリチーなお尻に絶賛の声が聞こえる。


「ニャ~~! ニャニャ~~!!」


 ほこりよけをちゃんと掛けておくように!

 鍛錬も怠らないようにッ!!


 召使いへの指示も怠らない、やっぱりぼくは最高の王子さまだ。

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紙とペンと漫画家さん家のネコ王子 タカナシ @takanashi30

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