溶けないアイスクリームはまるで綿菓子でできたあまくない嵐雲のよう
名無しの群衆の一人
世界を切り刻む剣舞の少女 の話
過去とは、長く伸びた刀のようなものだと少女はいう。
なされたそれは何者をも貫き、また曲げることもできず、消し去ることも、消すことも、無かったことにもできない。
斬ればあらゆる物を一寸の狂いなく正確に切り刻むし、斬られた後には傷がつく。
何者かを殺すこともできるし、何者かを助けることもできる。何かをなせば、なされたように何かが残る。
故に小説とは、過去を司るそのものを表しているという。
書いてあることがすべて。
書いてあるということは、誰かが書いたということ。
その結果が、過去であり、紙であり、文字と小説であると。
紙面上でおどる少女は言う。
世界は有限であり、この空は、大地は、すべて限りあるものだと。
世界の広さに果てはなく、人々はまだ見ぬ地平線の向こう側に夢と希望を抱く。だが現実はその先にも限りがあるし、また人々の歩むその歩幅にも限界がある。
暗い夜空に稲光が走りまた消えるのも、満天の夜空に広がる星々にも寿命があることも、それはどんなに人々が望もうとも必然と言える。
決められたものというのは、誰にも変えられないのだと。
私は、この世の過去に生きる魔物である。
人々を惑わせ、落胆させ、うつむき、地に足をつかせ、現実の今を照らし出す影の存在。
未だ来ぬ希望に向かってペンを走らせる一人の旅人にそっとつき従う影。
困惑と幻滅の最果てにたどり着き、黄昏の中でそれでも懸命に息をしようとするものにキスを与えるもの。
冒険し、恋をして、戦い、死に、生まれ変わったり、そうして私は万物の者たちの代わりに過去を生きる。
踊り。
踊る。
踊り狂う。
原稿用紙の嵐の中を。
自我をかなぐり捨て、それでも懸命に生きようとするあなたが好きだ。
空間はたやすく歪み、時空すら自在にあやつる無限の可能性。
私は世界に稲妻を走らせよう。
広がる異世界の果ての淵に剣を立てよう。あなたが奈落へ落ちて、二度と帰ってこれなくならないように。
収縮する過去は無限に増殖する可能性を殺す。
踊るように未来を殺す。
だから文字とは、過去の世界のもの。過去はあなたの軌跡であり、過去は私たちの拠り所。
お前がどんなに恋い焦がれたあの未来も、あの野望も、理念も、想像も空想も、書かなければただの与太話に過ぎない。
剣舞の少女は踊る。
過去に口先の嘘は通じない。
旅人よ旅人よ。
不毛の砂漠を歩くその先に、細く心細い無限の分かれ道があろうとも。
私はきっとその先で待っている。
過去はそう言って、私を励ましてくれた。
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