第8話
フランツは帰宅後、いつも通りに振る舞っていたが、マーサだけはフランツの様子がおかしいことに気が付いていた。後で二人が何をしていたのか、そしてフランツは何を見たのか問い詰めなければならない。二人がお土産として買ってきてくれた、珍しいお菓子を囲む食後のお茶の用意をしながらそう考えていた。
お茶の時も二人に変わった様子はなかったが、フランツは二人がいなくなると直ぐに執務室へと閉じこもった。マーサは他の細々な仕事の指示を出し終えると、執務室へと向かった。
「何があったの、フランツ」マーサが問い詰めるような視線でフランツを射貫いた。
「ああ、マーサか。君はごまかせなかったか」
「その通りよ。あなた、何を見たの?」
「…色々見た。そして、一つの推論が浮かんだ。今、その推論に間違いがないかを確認中だから、話をするのはもう少し後にして欲しい。確信をもって、伝えたい」
「そういうことなら、待つわ。確信が持てなくても、教えて貰うけど」マーサは大人しく引き下がってくれた。
フランツは数日かけて、今までの資料を確認し、お抱えの情報屋に依頼して、結婚前と現在のソールズベリーの状況、突然旦那様がソールズベリーを、エレンを選んだ理由、それら全てを調べ上げた。
数日後、フランツはマーサと料理長を執事室へ呼び出した。料理長は何故呼び出されたか知らなかったが、マーサはついに確信を得たのだと、どんなことを言われようと動じないと心に決めて執事室へ入った。例え奥様とグレンが本当に愛し合っていたとしても、受け止めるわ!
「二人に、奥様のことで相談があって呼び出しました。結論から言いますが、奥様はご自分の固い意志で、領地、領民のためにご自身の人生を旦那様へ売ったようです。ご家族の方達は反対されていたそうですが、今回の結婚を奥様が押し進めなければ、近いうちにソールズベリーは破産していたでしょう」
「旦那様は経営に行き詰まっている領地にいる娘を狙って、罠にかけたのですね」マーサが怒りも露わに言った。料理長も怒っている。
「そうなります。が、奥様自らが罠をかけてもいたようです。但し、政略結婚とは本来そういうものです。お互いに利用すればいいだけなのです。ただ、私はもっと奥様のお力になりたいと思いました。まだ十八歳で自分の将来を自ら諦めるなど、あまりにも健気です。二人も私に協力して頂けませんか」とフランツは冷静に言った。
料理長とマーサは顔を見合わせた。奥様があまりに身近な存在となって忘れかけていたが、貴族の結婚はそもそもが大半政略結婚であったということを。
フランツは奥様が贅沢をされない分をソールズベリー自立に向けた援助へ回したいと告げた。マーサはそれらへの協力はもちろん、奥様に何不自由なく過ごして頂く心遣いを、料理長へは伝手をつかって農作物などを調べてもらうことにした。
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