紙とペンと印鑑
別所高木
第1話
「今日からメンバーを一新するXXプロジェクトだ、私が新任の部長になる室井だ。
そして、こちらが和久田君。みんなよろしく頼む。」
・・・新部長の長い話は割愛して・・・・
「和久田君、来月から参画してもらうXXプロジェクトなんだが、社内システムのXXシステムを使う必要があるそうなんだ。私と君がXXシステムを使えるようにしておいて。
情報インテグレーション推進部がその辺管理しているから、アクセス権もらっといて。」
「はい、室井さん。申請窓口は、どなたになるでしょう?」
「ん?適当にかけて用件言えば、つないでもらえるよ。俺はいつもそれでできてる。」
室井さんいつもテキトーだよなぁ。
電話の先ではみんな困ってるんじゃないかな?
でも、ホームページの情報インテグレーション推進部の役割分担表って全然メンテされてないしなぁ。。。室井さんがテキトーに電話するのも無理ないか。。。
仕方がない、相川にでも聞いてみるか。
「RRRRR〜ガチャ!はい、情報インテグレーション推進部の相川です。」
「相川、いつも申し訳ない!XXシステムを使いたいんだけど、どこの誰に頼んだらいいだろう?」
「え?あーーーーー、XXシステムは、室井さんだな。電話を転送するけど、留守電に要件入れといて。変わった人だけど、留守電に入れてたらやってくれるから。
ぴ!ポーンポーンポーン
ぴ!ただいま不在にしております。
ぴーーーという音の後にメッセージを入れてください。
ぴーーー」
「もしもし、新事業開発部、従業員番号49239965の和久田です。従業員番号49239965の和久田と従業員番号23249762の室井がXXプロジェクトに参画するので、XXシステムを使えるように設定してください。よろしくお願いします。」
さて、とりあえず頼んだから、そのうち留守電聞いて設定してもらえるかな。
和久田は受話器を置いて、パソコンを見た瞬間に新着メールが届いた。
ーーーーーーーーーーーーー
To:和久田様
お疲れ様です。
情報インテグレーション推進部の室井です
XXシステムを使用するには申請が必要です。
マニュアルはトータル・インフォメーション・統合システムにあります。
下記リンクを参照して申請してください。
リンクはここよ→リンク
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ふーん、電話でやってくれるわけじゃないんだ。
まぁ、責任者の承認が必要か。
どれどれ、ホームページ開いて、トータル・インフォメーション・統合システムを開いて。
あれ?トータル・インフォメーション・統合システムって、なんで統合だけ日本語なんだろ?
確かシステムを作ったの、情報インテグレーション推進部だよな。。。
統合って英語で言ったらインテグレーションだよな。
なんで?
「おーい、和久田君、XXシステム使えるようになったか?」
「室井さん、なんか申請がいるみたいで、、、今からマニュアル見て申請します。」
ええと、リンクをポチッとな。
えー何々?XXシステムを使うには下記の依頼書に、指名:従業員番号:申請理由を記入し、自署と捺印(シャチハタ可)の上、部門長の承認印を押して、情報インテグレーション推進部に持参ください。
え?
今時、ワークフローじゃないの?
ペーパレスってあれだけ、やかましいのに。
コピー機のところに、貼ってあるポスターには、
モノクロコピー3円覚悟を決めてから使え!
カラーコピーは13円余程の覚悟を決めてから、もう一回考えて使え!
って書いてあるのに。。。
しかも、自署が必要なのにシャチハタ可って?
何考えてんだ!
全くわけわかんね。
「おーい、和久田君まだか?」
「室井さん、すぐ作成します。」
とりあえず、印刷して。
ぺん!そういや最近パソコンでばかり仕事してるからボールペン使うの久しぶりだな。
確か引き出しに、お気に入りのシマウマ堂の1.3mmボールのボールペンがあったよな。
さてと、名前・・・・
・・・・
あれ、インクが出ない。。。
「和久田君」
「はい、ちょっと待ってください。」
他にペンがないかな?
ええと、筆ペンしかないや。。。
でも、筆ペン不可とはどこにも書いてないからいっか。
名前、従業員番号、XXプロジェクトに参画する為
そして、自署してシャチハタポン!
「室井さん、申請書できました。承認お願いします。」
「おぉ!早いな。
どれどれ?
筆ペンで社内の申請書書くってすごいな。
でも、体裁整ってるからいいか、あと、申し訳ないが俺のパソコンがネットワークに繋がらないんだけど、申請書持って行く前に見てもらえるかな?」
「はい、ちょっと見せてくださいね。」
「俺ちょっとタバコ吸ってくるから。」
・・・・
さてと、ネットワークは繋がった。
室井さん帰ってこないけど、見たらわかるか。
それより、この依頼書を情報インテグレーション推進部に持って行っておこう。
・・・・
ガチャ!
情報インテグレーション推進部についた。相川がいた。
「相川、室井さんってどこ?」
「ええと、室井さんは、ちょうど帰ってきてる。あの2列向こうの一番端っこの人。」
「!?
室井さん、室井さんって情報インテグレーションの方だったんですか?」
「あー、まだつぎの人の引越しが終わってなくてね。兼務中なんだ。お!達筆な申請書だな。」
ぐーーーーと怒りがこみ上げてきた。
くるっと踵を返して、和久田は出て行った。
心配して相川が追いかける。
「相川、俺はこの会社はダメだ!絶対に潰れる!すぐ潰れる!明日潰れる!」
「和久田、それは違うぞ!ダメな物をダメと言うのは誰でもできる。ダメな物をよくするのが仕事だ!俺たちにはまだまだやる事がいっぱいあるってことさ。」
ふっ・・・・
和久田の肩の力が抜けた。
30年後・・・・
「和久田社長、ユーザから問い合わせ窓口を、webアプリから音声入力に一本化すれば、対応を全部人工知能にできて、サポートスタッフが削減できます。是非やらせてください。」
「webアプリ・音声入力大いに結構、是非やってくれ。だが、一本化は認めん。
電話だろうが、ハガキだろうが、お客様が困って助けを求めているのに、窓口を制限することは正しいと思うか?最新の技術だけが正解ではない、そこをもう一度考えてみてくれ。」
会社は潰れず発展していた。
おしまい
紙とペンと印鑑 別所高木 @centaur
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます