紙とペンとがんもどき

山本航

紙とペンとがんもどき

「そうだ。ずっと聞いてみたかったことがあるんだけど」

 静ちゃんが学校の屋上でお昼ご飯を食べながら私に尋ねた。静ちゃんのお昼ご飯というのは紙なのだけど、それはまあ、今は置いておこう。私はがんもどきを口の中に含んでいたので黙って『質問をどうぞ』という意味で頷いた。

「鳴ちゃんって何で私に優しくしてくれるの?」A4の普通紙をむしゃむしゃしながら静ちゃんはそう言った。

 学校の楽しくてリラックスするお昼の時間に重めの質問をしてくるのが静ちゃんだ。

 私はがんもどきを飲み込むのに苦労するふりをしながら、その質問の答えを屋上のどこかに落ちていないかと探す。落ちていた。私はがんもどきを飲み込むと静ちゃんとしっかり向き直る。

「静ちゃん。そんなこと気にしてどうしたの? 友達でいることに理由がいるの? 私はそう思わない。友達である、のであって、友達をする訳ではないでしょう?」

 静ちゃんは真正面から私の瞳を覗き込み、その中に嘘が無いかと探すように覗き込み、何もかもを受け入れるような柔らかな笑顔を見せる。

「それは質問の答えになってないね。鳴ちゃん」

「静ちゃんはドライなところがあるね。そこは改めて友情を確かめるステップに移っても良かったんじゃない?」

「だっておかしいんだもの。私と仲良くするなんて。私、紙なんて食べる女の子なのよ?」

 静ちゃんは脇に置いていた鞄からメモ帳とペンを取り出すと、床にメモ帳を置き、亀のように丸まって文字を書き込む。

 A4普通紙;甘くて美味しい。歯応え悪し。量十分。

 私は言葉を選んで何とか口にする。

「それはまあ、おかしいけど。食べるものを理由に誰かを好きになったり嫌いになったりする?」

「するよ」と静ちゃんは断言する。「まずね、ベジタリアンの私から言わせてもらうと……」

「ちょっと待ってね。静ちゃん。紙は植物由来かもしれないけど、静ちゃんはベジタリアンではないと思う」

「肉を食べる人とは仲良くなれないもの」

「私、肉食べるけど」

「そうなの? がんもどきを食べてるのに?」

「雁の代わりに食べているわけではないよ」

 静ちゃんは少し寂し気にぱりぱりがさがさとケント紙を食べる。

「そっか。だからまだ鳴ちゃんとは距離感があったのね」

「距離をあけてるのは静ちゃんだけど。私ほど詰め寄っている人はいないし、そういう主旨の話だったでしょう?」

「そう、だったね。私、少し不安だったの。私と一緒にいて鳴ちゃんまで白い目で見られないかなって。ただでさえがんもどきをご飯のおかずにする人だし」

「静ちゃんはもっと他に改めるべきところがあるかもしれない。まあ、いいけど。静ちゃんといると楽しいしね。友達でいる理由なんてそんなものでいいんじゃない?」

「それが私に優しくしてくれる理由?」

「別に特別優しくしているつもりもないんだけどね。友達ってこういうものじゃない? そもそも静ちゃんが紙を食べることを私が知ったのが友達になったきっかけじゃない」

「それもそうね。でも私たちあまり共通点がないというか。変なものを食べることくらい」

「がんもどきは変じゃない。そんなに特別な何かを共有しないといけないのかな」

 うーん、と唸りながら、静ちゃんはエスプリコートSSを咀嚼する。

「でも、こう、何か秘密を共有したい気持ちはあるかも。それが私たちを結ぶ絆になるの」

「それは少しわかる。秘密を共有するってそれだけでどきどきするもんね」

「だから私が紙を食べることは秘密にしていてね。わたしも黙ってるから、鳴ちゃんががんもどきを食べること」

「がんもどきは悪くない! ご飯のおかずにもなる!」

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