ハマった二人
青桐
第1話
「俺、帰ったら結婚するんだ」
抱き合って密着している美女に、出来るだけ爽やかな顔を作りながら切り出す。
「誰と?」
彼女は疲れた顔で俺を見つめてくる。
それでも憂いを帯びた深窓の令嬢っぽさがあった。やはり美女は得だ。
「リース、君と」
彼女はすごい笑顔で、俺に笑いかけてくれた。
やや俺よりも背が低いから、上目遣いになって、可愛さがさらに増し増しになっている。
「いいわよ、もし帰れたら結婚でもなんでもしてあげるわ。
ここから出られるならね」
そう、こうして迷宮の落とし穴にはまってから、体感で1時間ほど経つ。
まあ、最初こそリースと密着できていることを喜んだが、動けないならただの生殺しだ。
しかも、お互いに高ランク冒険者。
生命力は折り紙つきだ。おそらく、100年この状態でもピンピンしているだろう。
精神面でどうなるかはわからないが。
まあ、とりあえず、今の彼女の言った言葉を契約魔法で縛ることにしよう。
これで、婚約成立だ。
あっ、契約魔法がぶっ壊された。
やはり、彼女は強いなぁ。
魔法の腕では勝てそうにない。
彼女は凄みのある笑顔で俺を見つめてくる。
「なに?
平手打ちされたいかしら?
私の平手打ち、オークの首でも吹き飛ばせるのだけど」
前に見た、彼女の魔力の篭った平手打ちは、ドラゴンの首をへし折っていた。
まあ、でも、俺なら耐えられる。
「はっはっ、リースの平手打ちなら受けてもいいよ」
「あら、そういう趣味なの?」
「いやいや、君の平手打ちを受けるなら、ここから出ないと無理だろ?
ここから出られるなら、君の平手打ちくらい喜んで受けるさ。
いや、俺に出来ることなら、なんでもやるよ」
軽口をたたく。まあ、ただの暇つぶしだ。
でもリースはニンマリと笑った。
「言ったわね?」
げっ、まじで契約魔法を組み立てている。
さっきの俺のお茶目なんてレベルじゃない。
慌てて契約魔法を壊そうとするが、とんでもない魔力で編み込まれた魔法は、今の状態じゃ壊せない。
そして完成してしまった。
「さて、出ましょうか」
「えっ?」
「実は私、転移魔法が使えるの」
「えっ?」
「半年前に、古代遺跡で見つけて、ついに復元できたのよ。
ふふっ、なにしてもらおうかしら」
やばいな。
「ふふっ、あなたは体の動く状況じゃないと、本気の魔法は防げないでしょ?
魔法剣士だものね。
計画通りにはまってくれて、とても嬉しいわ」
「待て、俺になにをさせるつもりだ。
ってか、まさか、この落とし穴にはまったのも計画通りか……?」
彼女は素晴らしい笑顔で頷いた。
「俺になんの恨みが」
「あるに決まってるでしょ?
私のことを好きなくせに、冗談混じりの告白しかしないし、そのくせ、他の女の子には手を出しまくるし」
……俺の気持ち、そんなにわかりやすかったか?
でも、この契約じゃ、完全に尻に敷かれる。
なんとか壊さないと。
まだチャンスはあるはずだ。
ここから出た瞬間に契約魔法をぶっ壊してしまえば……。
「とりあえず、浮気は禁止ね。
私の家に転移したらすぐ、婚姻届を書いてもらうわ。
もう私の欄は埋めてあるから。
ああ、そうそう。この契約魔法を壊すのは禁止ね」
終わった……。
そうして連れていかれた彼女の家の机には、あとは俺のサインを待つだけの婚姻届が広げられていた。
ハマった二人 青桐 @Kirikirigirigiri
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