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エリー.ファー

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 博士が惚れ薬を開発した。

 体からそれを被った相手は、目の前の人間を好きになるそうだ。

 あたしは。

 ありきたりすぎて反吐がでますね、と言ったら。

 博士は。

 ショックで反吐をはいて、入院した。

 計画通り。

 惚れ薬ゲット。

 さて、誰に使ってみようかな。正直、あんまり好きな人とかいないからこういうのが手元にあっても困るだけなんだけども。

 そもそも、博士が結構面白いものを作るというので、あたしはここの研究員になったのだ。博士は確か物流移送次元空間、矛盾基層論理について物理系生物学からのアプローチを行い、ノーベル物理学賞の一歩手前まで行ったりするなど実績はある。

 ただ、頭がいいのに、結構バカなので、もっと重要な研究結果とかを研究室の片隅に、簡単にメモして忘れたりする。あたしの役割はその博士の後をついて、そういうメモを集める作業だ。大変、重要なのだ。

 偶に、よくない研究をしているときがあったりするので、ゴミ箱に捨てたりもする。

 本当にモラルがないから、頭の良さが暴走して、最も効率的に人類を滅亡させる方法を思いついたりする。実行に移すことはたぶんないだろうけど、誰か悪い人に悪用されたら終わりだろう。

 あたしもスパイなんだし。

 この国の研究室のどこでもいいから忍び込んで、実験データを盗んで来い、と言われて潜りこんだのが、十二年前。その頃は本当に子供だったけれど、そこから地頭の良さもあって、海外出身研究員特別枠を手に入れてここに滑り込んだ。

 この国は、化学、科学、物理学、生物学、特に、数学の研究が進んでいる。母国のバカどもからしたら、おそらくどの研究結果でも手に入れば儲けものというところなんだろう。

 だから。

 どの分野の研究室に忍び込むかは、あたしの自由にさせてくれた。

 しかし、まぁ。

 さっきも言ったけれど、この博士が本当にどうしようもないのだ。

 他の研究室は外国出身研究員というだけで、スパイの可能性も含めて扱ってくるので大事な研究データは絶対に見せない。一応、差別になってしまうので、これは研究所では秘密になっているが、まぁ、機密保持のためには致し方ない。

 実際、あたしスパイだし。

 でも、博士は全部見せる。

 というか。

 自慢してくる。

 天才でしょ、褒めてよ褒めてよ、とか言ってくる。

 あたしよりも遥かに年下とはいえ。

 マジかこいつ。

 あたしが支えなかったら、この博士マジで殺されるし、この国滅ぶんじゃないか。

 そう思った。

 気が付いたら、あたしはできるかぎり博士の手となり足となり動くようになっていた。データの管理、研究の補助、大学で行われる講義等の肩代わり、おつかい、一人だとつまらないと言うので一緒に行ったゲーセン、ボーリング。

 いい迷惑だ。

 そんなことを思っていると博士が戻ってきた。

「助手くん、助手くん。」

「反吐は止まりましたか。」

「うん、止まった。でね、喜んでほしかったら今まで秘密にしてきたんだけどね。見て見て。君を研究補助から主任研究員へ昇格させるべきだって、ずうっと研究所所長に二年前から直談判してきたんだけど、やっと通ったよ。いえーい。」

「どういうことですか。」

「これで、この研究所の全データを見たり、物理的に紙に印刷したりメールで自宅のパソコンくらいだったら送れるようになるんだよ。もちろん、データは慎重に扱って欲しいけどさ、助手君なら絶対に大丈夫だって信じてるから。よかったね、いっぱいいっぱい研究できるね。」

「ありがとうございます。」

「君一人用の研究部屋がプレゼントされるんだよ。これから、僕の研究室とは一切無関係になるから、一人で実験ができるようになるよ、今までありがとう。」

 あたしは惚れ薬を博士に投げつける。

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