第245話 クジラ

「左様、ノーナ女王がいらっしゃっています」


「わかった。こちらに通してくれ、ピョン次郎さん」


「かしこまりました」


 珍しいな、ルル達の所じゃなくこっちに来るなんて。

 ノーゼノンの侵略騒ぎの時以来じゃないのか?


「陛下。急な訪問、大変申し訳ありません」


「ノーナさん、その陛下って言うのはなんとかなりませんか?」


「なりませんね、時と場合によって形式と言うのは大変重要ですから」


「それ、絶対面倒事持ち込むときの方便ですよね」


「そうとも言うかもしれません」


 否定しないのかよ。


「はあ。それで今回は何事ですか?」


「流石は陛下、話が早くて助かります。今回はクジラです」


「クジラ? あの海にいる?」


「海? 海にもクジラがいるのですか?」


 え?

 海にクジラがいないの?


「申し訳ありません陛下。海のクジラは聞いたことがありません。そして今回のクジラは空にいるクジラです」


 空にいる……。


「ああ、あの空に浮いてるやつか」


「その空に浮いている奴です」


「あのクジラがどうかしたのですか?」


「我が国の国民があのクジラに自分の村を滅ぼされたので、討伐隊を出してほしいと」


「何か問題が?」


「あのクジラは竜と同じような存在ですから。したがって我が国にあのクジラに対抗できる者はおりません」


「それはその方にも?」


「伝えました。伝えたのですが……」


「納得してもらえなかったと」


「はい。その後は連日、城のほうに要請に来るありさまで」


 ね。


「城の前で大騒ぎされている?」


「大騒ぎとまではいきませんが、それに近い状況かと」


 なるほどねえ。

 そういう人を排除しないのは、ノーナさんの人の好さなのかね。


「あの空飛ぶクジラというのは頻繁に人を襲うのですか?」


「いえ、人里が襲われたというのは国内では初めての事例です」


「国内ではということは無いわけではないと?」


「はい、古い文献にそのような記述が残っております」


 クジラ、クジラねえ。

 ルドの書庫に文献か何かあったかな?


「それで、その村を襲ったクジラはどこに?」


「わかりません」


 は?


「ではその要請に来てるい人は、どのようにそのクジラを見つけるつもりなのですか?」


「なんでもその当人には何か思うところがあるらしく」


 なんだそりゃ。

 そんな雲をつかむような話で国なんざ動きゃしないぞ。

 というか、なんでそんな面倒な話をこっちに持ってくるんだよ。


「さらに間の悪いことに、どこからか陛下の活躍を聞きつけたらしく。ノーゼノン帝国の艦隊や神代竜を退けられる人がいるならクジラ討伐も可能だろうと」


 誰だよ、その人にその話した奴は。


「それで私の方にその話を持ってきたと」


「はい」


「セブン、受けてもみてもいいんじゃないでショウカ」


「ルル? どこから来たんだ?」


「細カイことは気にないのデス」


 この間のソシエルさんといい、ルルといい。

 この執務室は俺の知らない秘密の通路でもあるのか?


「それでどういうことだ、ルル」


「アノクジラは謎が多いのデス」


「謎?」


「ソウデス。性質もナニモわかっていないソウデス」


「へー、ルド達くらいなら知ってそうなのにな」


「ルドサンもオジイチャンも博士も教授も知らないソウデス」


「なるほどね。まあルルがそこまで言うなら、ちょっと動いてみるか」


「陛下! ありがとうございます」


「ノーナさん、まずはその要請にきている人に会わせてください」


「かしこまりました!」


「セブン、お土産をよろしくナノデス」


「はいよ、せいぜい頑張ってくるよ」


 クジラ、クジラねえ。

 異世界に来てクジラ漁をすることになるとは。

 まさか怒って邪魔してくる人達とかいないだろうな……。


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