第190話 エチゴラの広がる世界
この魔塔が最後ですね。
ヒダリ様が交渉していたのは全て入り口。
魔窟や魔塔の入り口はどうやら彼らの口にあたるようですね。
……元々入ることはありませんが、事実を知った後では尚更魔窟や魔塔には入りたくはないですね。
「ヒダリ様、交渉の結果はいかがでしたか?」
「全ての魔窟や魔塔からよい返事を得ることができました。上々の結果かと思います」
ということは一ヶ月後には魔窟と魔塔の大移動ですか。
帝国は確実に大混乱に陥りそうですね。
ただダチキッシュ様は一度ヒダリ様と行動を共にされていますし、もしかするとこれくらいのことは、予想はしているかもしれません。
「それでは次はエチゴラさんです」
「私ですか?」
「ええ、ギルドで買い取った品々の販売施設が完成しましたので、一度見ていただこうかと」
「わかりました、お伺いさせていただきます」
「こちらがエチゴラさんにお任せしたい施設になります」
ここは半島の付け根の部分でしょうか?
奥には横に広い大きな四角い建物と二本の塔ですか。
「中央の建物がガンドラルが運営するお店になります。そして今立っている場所から建物の前まで広がる空間が簡易で売買できる露店の場所になります」
露店?
この広大な敷地が全て露店用の場所。
ヒダリ様は一体どれだけの人や物を集めるおつもりなのでしょうか?
「露店はどのように貸し出すつもりですか?」
「それはですね」
あの板はなにかの魔方具でしょうか?
じ、地面から店舗?。
ヒダリ様は先ほどから露店と仰っていますが……。
これだけ立派な店構えとなると、これはもう普通の貸し店舗ではないでしょうか?
「このように、一店舗ずつ貸し出ししようかと。まあ、どうやって運営していくかはこれからの議題になりますけどね」
たしかにどうやって貸し出しましょうか?
単純に一定の貸出し料金だけで貸出しだと、長期契約ができる資金力のあるところが有利でしょうし。
入れ替えを頻繁にしすぎるのもまた違いますね。
長期に安定的にある店舗も魅力といえば魅力ですし。
色々考えなくていけませんね。
「露店の敷地の中央にある大きな屋根だけの場所は?」
「屋台などて食事を提供し、自由に座れる席で食品を楽しんでもらう場所ですね」
屋根の下は十字の大通りで四つの区画にわけられているようですね。
それぞれの区画の外側が屋台でその内側に食事用のテーブル。
ちょっと変わった作りではありますね。
「運搬用の馬車等もこの大通りを通るのですか?」
「地上の道は基本的に買い物客専用ですね」
どういうことでしょう?
「では、露店の荷物等はどのように運ぶのでしょうか?」
「運搬用の通路は地下になりますね」
「地下ですか?」
「ええ、覗いてみますか?」
「是非とも」
これは一体……。
「商品を持ち込んだ人達はここで荷物を、この移動式倉庫に詰め替えていただきます。詰め替えられた荷物は自動的に指定の露店の場所へ荷物を移動させる仕組みとなっています」
これは便利そうですね。
しかも輸送の動きと買い物客の動きがぶつからないのは、混雑の解消になります。
荷物の受け下ろし場所を露店の場所から離すことができれば、馬などの排泄物で悩まされることも減りますしね。
「ヒダリ様、このような素晴らしい設備をどのようにして作くられたのですか?」
「素材や組み込まれている魔法は私達独自のものもありますが、用いられている技術についてはほとんどが、魔動機兵や航空戦艦などの流用ですよ」
「なんと!」
「軍事技術の平和利用ですよ」
「平和利用ですか?」
「どんな技術も素材も魔法も、使い方によって武器にもなれば、生活の質を上げるものにもなり得ます」
「なるほど」
「まあ、妻の受け売りですけどね」
生活の質を上げるですか。
ヒダリ様達はあの常識外れの力を、このようなことに使いたいのですね。
たしかに戦争等で消耗するよりも、よほど経済的です。
「いえ、素晴らしい言葉だと思います」
ならば私も皆様が進もうとするその世界へ、微力ながら協力させていただきましょう。
そのためにもまずはこの施設をいかに運営していくかですね。
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