第145話 ナセルリナの困惑
「それでは行きましょうか」
?
周囲の景色が変わった?
「ようこそ。ここが私達の村、ガンドラルです」
え?
もう着いたの?
なにこの大きな音?
鳴き声?
は? 空一面に竜?
「あの、ヒダリ様これは一体?」
「申し訳ありません。エチゴラさん、ナセルリナさんどうやら問題が発生しているようです」
問題?
竜が空一面を飛び回る問題ってなに?
「旦那さま!」
「クリス、何があった?」
「私にもさっぱりです」
「あの中に知り合いは?」
知り合い?
竜に知り合いとかあるんですか?
「何頭かは見たことがあるような」
え?
見たことがあるんですか!?
「ヒダリ様、そちらの女性は?」
叔父さん、気にするところはそこなの!?
空一面が竜よ竜。
「おっと失礼。クリスこちらはネルバ商会の会頭、エヴラチゴラ・ネルバさん。エチゴラさん、こっちは私の妻のアスクリス」
「初めまして、ネルバ様」
「初めまして、アスクリス様。失礼ですがアスクリス様はもしかして竜族でいらっしゃいますか?」
「ええ、よくご存じで」
「ジスジャージル様も竜族と伺っていましたので、そのお名前からもしやと」
竜族、アスクリス……。
狂竜アスクリス!?
「クリスはやっぱり有名なんだな」
有名もなにも。
遥か遠くに見かけただけでも、全力で逃げろ。
見つかったらほぼ確実に人生が終わると言われている、あの狂竜ですよ。
その名前を知らない人がいるわけないじゃない!
「人伝ですが、アスクリス様のご活躍は私共もいくつもお伺いしております」
街を消し炭にしたとか大国を滅ぼしたとか。
たしかに活躍には事欠かないよね。
「旦那さまに比べれば、それほどのことはしていませんけれどね」
ヒダリさまは一体なにをしたの?
狂竜の破壊活動よりも上のことってなに?
「なあ、クリスなんかあの赤い竜になんか乗ってるけど、あれは?」
?
確かに一番大きな赤い竜に人のようなものが乗っていますね。
「なんでしょうね? 私も初めて見ます」
「お、なんか言い出したぞ」
?
竜が咆哮をあげてるだけじゃないの?
ヒダリさまは竜の言葉がわかるの?
「なあ、クリス」
「申し訳ありません、旦那さま」
「いや、いいんだけどさ。まあ、どこの馬の骨ともわからんやつが、いきなり神代竜の娘をかっさらっていったんだしな。竜族のなかで非難したいやつがいるのはしょうがないだろ」
は?
神代竜?
娘?
狂竜は神代竜の娘だったんですか!?
「まあ、文句言って帰ってくれるなら、それでいいんだけどな」
「多分それはないかと」
「一応ダルダロシュさんには警告したしな。クリス、申し訳ないがやられたらやり返すからな」
え?
やられたらやり返すんですか?
相手は竜ですよ。
「旦那さまの思うがままに。というか旦那さまに対してのあの無礼な振る舞い万死に値します」
ひ!
アスクリス様の殺気が。
「クリス落ち着け」
「兄貴〜」
「ジジ、走り回って大丈夫なのか?」
「おう、あのくらい、ぐっすり寝たから大丈夫だ! なんなら今から続きをやってもいいくらいだぜ!」
「それは良い案ですね、ジジ」
?
アスクリスさんの殺気が失くなった、けどなんか妖しい空気が。
「とりあえずはあいつらが先だろ。なんかジジのことも言い出したぞ」
「うえ、オレあいつ苦手。なんか視線が気持ち悪い」
「んー、なんか言ってることが私情にまみれてきたな」
「うえ、やっぱりあいつ気持ち悪い」
いったいなにを話してるの?
というか本当に話してるの?
吠えてるだけにしか聞こえないんだけど。
「制裁を加えるって、完全にあいつの私利私欲だろ」
え?
制裁?
な、竜達の口から一斉に!?
もうダメ!
……。
あれ?
何も起こらない。
「障壁を抜くほどの威力はなしか」
!
なにこれ!?
見えない壁?
竜達の攻撃が全部止められてる。
「ランガー、リシャル、レーブ行くぞ。ただし消し飛ばすなよ、いい素材になるらしいからな」
「了解した」
「はーい」
「わかった」
「爺さん、ルド回収は任せる」
「まかせろ」
「わかりました」
え?
あの数にたったそれだけで?
「旦那さま、皆様、御武運を」
……。
あり得ない。
竜が、竜が落ちていく。
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