第137話 とある統括の困り事

 

 月の巫女様が気絶だと?

 神の一柱だぞ。


「すまない。確認するが、月の巫女様が敗れたという事で間違いないか?」


「はい、それも一撃でだそうです」


 あり得ない。

 あり得ないが今現実として起こっている。

 ならばどうする?

 そういえば侵入者の目的はなんだ?


「その侵入者はなぜこちらに向かっている?」


「無事だった者達の話によると、この街の責任者に会わせてほしいといった内容の話をしていたようです」


 私に会いに来たというのか?

 ならばこれ以上の被害が出る前にやることは一つ。


「私が出る」


「な、危険過ぎます!」


 危険もなにもないだろう。

 相手はすぐそこまで来ているのだ。


「かまわん、やれることをやるのみだ」



 なんだこれは……。

 街の門から協会本部まで瓦礫で道ができているではないか。

 一直線にこちらに向かって来たのか。


「統括、なぜここに? お逃げください! 守護隊魔動機兵もどこまでもつかわかりません!」


 入り口を守る二機の魔動機兵が崩れ落ちた。

 どうやらもたなかったようだな。


「あなたがこの街の責任者でしょうか?」


 こいつが侵入者か。

 変わった形のローブだな。

 それ以外は極普通の普人族の男といったところか。

 まあ、右腕に抱えている人の頭がなければだがな。


「な、既にここまでたどり着いただと!? くそっ!」


「止まれ、ここからは私が相手をする」


「しかし!」


 しかしもなにもあるか。

 魔動機兵ですら止められないものをどうするつもりだ。


「はじめまして。ガンドラル村、村長のサシチ・ヒダリと申します」


 ガンドラル村?

 聞いたことがないな。


「はじめましてヒダリ村長。私はこの協会本部の統括責任者、ザーバレナと申します」


「早速で申し訳ありませんが、こちらの書類をご確認ください」


 書類だと?

 ふむ、ガウンティ王国内での特定魔獣討伐許可の申請か。


「この書類がなにか?」


「この書類に許可を出しているのはガウンティ王国とこちらの協会となっております。協会としてこの申請を許可されたことに間違いはございませんか?」


「そのようですね。この魔獣討伐の許可がなにか問題でも?」


「その魔獣ってのはな、俺の村の住人なんだよ」


 なんだと?


「あんたらは、あんたらの勝手な理由で村の住人を襲ってきたんだよ」


「それは!」


「申し訳ないがあんたらの話を聞く気はないからな。既に問答無用で仕掛けてきてるんだ、今さら話を聞いてくれなんて都合がよすぎるだろ?」


「では、なぜ私を探していた」


「簡単だよ、迷惑料をもらうためだよ」


 目的は金か。


「10億ラルだ」


「なんだと!?」


「10億ラル、今すぐ支払ってもらおうか」


「そのような大金」


「ないならそれでかまわない。そのかわり、そうだな街ごと消えてもらうか」


 本部の建物が……半分消えた、だと。


「あんたが責任者なんだろ? 今すぐ選べよ。10億ラルを支払うか街ごと消えてなくなるか」


 くそ、選択の余地などないではないか!


「わかった、支払おう。ただしラルを集めるのに少々時間が」


「無理だな、街ごと消えるか?」


「わ、わかった。今すぐ用意をしよう」


「話が早くて助かるよ」



「10億ラル、確かに。あ、そうだもう一つお願いだ」


 金の次は一体なんだ?

 名誉がほしいとでも言うつもりか?


「あんたら人を派遣してるんだろ?」


「ああ」


「大きな屋敷の中のことをこなす奴らはいるか?」


「メイドや執事のことか?」


「ああ、それだ。優秀なやつを四〜五人紹介してくれ」


 は?

 こいつは一体なにをいっている。


「家の連中が自由に動きすぎてな。家事全般や家の面倒を見てくれるやつが必要なんだよ」


「それこそ奪えばよいのでは?」


「良い仕事をしてほしいのに適正な金を支払わないでどうするんだよ」


 こいつは阿呆か。

 だがなかなか面白い阿呆だな。

 10億ラルを踏んだ繰られたあとでなければ笑いもできるのだが。


「わかった、手配しよう。予算は?」


「一人当たり年20万ラルまでは出す。揃えるのにどれぐらいの期間がかかる?」


 一人当たり年20万ラルとは。

 その辺で普通に働いているやつの5倍だぞ。

 ふん、使えるやつには金を惜しまないということか。


「一月まってくれ」

 

「一月後にまたくる」


「わかった」


「次はこれだな」


 !?

 なにもない空間から人が出てきただと?


「そいつが仕掛けてきた張本人だ。聞きたいこともあるだろうからな」


 こいつはたしか……

 ガウンティ王国に派遣している支部長だったはず。


「感謝する」


「それじゃあ、一月後に」


 文字通り、空を翔けるか。


 ふう。

 しかし、どう後片づけをしたものか……。

 とりあえずは、あそこで寝ている支部長を締め上げるか。

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