第80話 とある司令官の困惑

 

「ダラガナン様、ダラガナン様」


 なんだよ、やかましい。

 聞こえてるよ。


「入れ」


「報告します」


「飛竜の次は竜でも出たか?」


「ご指摘の通りです。竜が出ました!」


 おいおい、勘弁してくれ。

 飛竜の次は竜かよ。

 竜なんか対処できるかよ。


「被害は」


「まだでていません」


 被害がない?

 どういうことだ。

 どうする、下手に動くと被害がでるか?


「現状維持だ。下手に動くな、何が起こるかわからん」


 くそったれ、なんでこんな時にノーナはここにいるんだよ。


「ダラガナン様!」


 今度はなんだよ。


「竜がでました!」


「それは今報告を受けたところだ」


「ちがいます!もう一体別の竜が現れました」


 一体でもどうにもならんのに。

 どうしろってんだよ。


「状況は?」


「二体の竜が上空で争っているようです」


 大惨事じゃねぇか。


「被害は?」


「その、それが」


 なんだ?


「できる限り正確な情報がほしい、現状を正しく教えてくれ」


「被害は0です」


 は?

 竜が上空で争ってるって言ったよな。

 被害が0?


「どういうことだ?」


「先ほど飛竜を倒した一行の一人が、周囲一帯の被害を防いでいるようです」


 竜が二体暴れているだけでも大事だってのに。

 それを防ぐやつがいるだと?

 それこそあり得ないだろう!

 本当に意味がわからん。


「とにかく、被害がでていないのは事実なのだな?」


「はい」


 どうする、一度現場を確認するか?

 いや、まずはノーナだ。

 なにがあっても最悪あいつさえ無事であればなんとかなる。


「女王のところに行くぞ!」




「じょ……司令官失礼します」


 危ねぇ、今は女王じゃなかったな。


「何事だ! こちらは大切な交渉中だ、後にしろ」


「ですが……」


 くそったれ!

 そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだよ!


「司令官」


 ノーナ早くしろ。


「司令官」


「わかった今いく」


 やっと来やがった。


「ノーナ」


「ダラガナン、いくら王配とはいえ公の場でその呼び方は不味い」


 細かいことに構ってる余裕なんかないんだよ!


「うるせぇ、それどころじゃねえんだよ。竜が出た」


「なんだと!? それは本当か?」


「ああ、しかも二体。とにかく一度司令部に来てくれ、詳しい話はそこでだ」


「わかった、すぐに行く」


 そういえば、お客人のお仲間が被害を防いでるとか言ってたな。


「なんだって!?」


 どうした?

 中でも何かあったのか?


「それは本当のことなのか!?」


 お客人も一緒にでてきただと?

 ノーナ、どういうつもりだ。


「ヒダリ殿。彼はここの司令官であり、私の夫でもあるダラガナン将軍だ」


「はじめましてダラガナン将軍。早速で申し訳ありませんが、たぶん騒ぎの原因は私の妻かと思われます」


 騒ぎの原因が妻だと?

 こいつはなにを言っているんだ。


「信じられないかも知れませんが事実です。もしなにか被害が出ているようであれば教えて下さい」


「い、いや。今のところは、あなたの仲間が防いでいると」


「そうですか。身内がご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありません」


「いや、そんなことは」


 竜が二体暴れているが被害が0。

 しかも竜が妻だと?

 なにがなんだか訳がわからん。


「妻を止めます。申し訳ありません、どなたか私を現場に案内していただけませんか」


 これ以上考えても埒があかん。

 こうなれば自分の目で見て確かめるまでだ。


「ヒダリ殿、俺が案内しよう」


「ありがとうございます、ダラガナン将軍」



 うむ、確かに竜だ。

 二体ではなく三体だがな!


 あの赤い竜は狂竜アスクリス!

 黄色のは……まさか神代竜だと!?

 ということは青いのは神竜妃。


 なんであの三体がやりあってんだよ。

 あり得ないだろ、世界の終わりか?


「ルド、よくやった」


「防ぐことに集中できるのであれば、この程度問題ありません」


 この程度?

 神代竜に神竜妃、狂竜だぞ。


「それで状況は?」


「なんでもあの二体の竜はクリス様のご両親だそうです」


「なんでああなった?」


「それは私達にもよくわかりません」


「なら、とりあえず話を聞くしかないか」


 話を聞くだと?

 こいつは何を言ってるんだ。


「リシャル、翼だけ撃ち抜けるか?」


「んー、あの高度であの速度だと、しかも結構な強さだし、間違って殺しちゃうかも知れないね」


「拙者も殺さずは難しいですな」


「私も同じですね、手加減するには少々厳しいかと」


「クリスの両親だし、さすがに話も聞かずに殺すのはなぁ」


 手加減?

 殺す?

 こいつらは本当に何を言ってるんだ。


「セフィ、クリスにこっちに戻るように伝えてくれ」


「わかりましたサシチ様」


 狂竜が人になった?

 猛烈な速度で落下してくる。

 おいおいおい、普通に受け止めちまったぞ。


「クリス、無茶するなよ」


「旦那さまなら、抱き止めてくれると思いましたので」


 残り二体がこちらに向かってきやがった。

 とんでもねえ咆哮だ。

 神代竜が怒り狂ってやがる。


「うるせー」


 な!?

 拳の一撃で神代竜と神竜妃が落ちるだと……


「なんとか殺してないかな?」


 あり得ないだろう。

 もうなんか色々とあり得ないだろう。

 誰か俺に説明してくれ!

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