第59話 とある使者の見た悪夢 その2

 

「領主の妻を寄越せはさすがにやり過ぎだろ。売られた喧嘩、買わせてもらいますよ」


 その妻達に先陣を切らせて、ある程度倒せたと思ったから出てきたのかしら?

 本当に間抜けな勘違い野郎。

 切り札であろう彼女達を消耗させてしまった時点で、お前に勝ち目がないんですよ。


 後方で待機していた軍勢が集結したようだ。

 130隻の大艦隊と700を超える魔動機兵の大部隊。

 今度はこちらが蹂躙する番です。


 ?

 あの男の周囲に無数の透明な球体が浮かび、一斉に弾けた。


「は?」


「空母9隻、戦艦28隻がしょ、!」


「空母4隻、戦艦10隻轟沈」


「魔動機兵188機消滅、被撃墜68」


 ありえない、ありえない、ありえない。

 一瞬で軍勢の4割が落とされるなんて。

 しかも3割は消滅!?


 激しい振動が呆然としていた私達を現実に引き戻す。

 今度は何事?


「この艦の甲板に先程の男がいます!」


 なにをするつもり?


「艦が何かフィールドのようなものに捕縛されました! 全く動くことができません」


「男が消えました!」


 なにを考えているの?


「各国の艦隊の旗艦で、同じような現象が起こってい模様です!」


「全ての旗艦が動きを拘束されました」


 何故旗艦ばかりを?


「な、再度攻撃が始まったようです」


「空母1隻消滅、戦艦2轟沈、魔動機兵3機消滅、被撃墜10!」


「空母2、戦艦2隻消滅、戦艦1隻轟沈、魔動機兵16機消滅、被撃墜10!」


「あの男はなにをしているの!?」


「拳と脚による近接攻撃のようなものだそうです」


 は? 意味がわからない。


「戦艦2隻消滅、1隻轟沈! 6隻半壊、自力航行が不可能なため退避を始めています」


「魔動機兵40機消滅、被撃墜16、58機が戦線を離脱」


 生身の人間の拳が戦艦を沈め、魔動機兵を破壊しているというの?

 しかも近接攻撃のようなものってなんなのよ。


「報告は正確にお願いします、近接攻撃ようなものとは」


「あちらをご確認下さい」


 渡された望遠鏡に似た魔道具を覗く。


 は?

 あの男が拳を振るうだけで、その直線上にいた空母とそばにいた魔動機兵が数機消滅した。

 そして、直撃は免れた戦艦が2隻轟沈、1隻が半壊した。


「おい、大丈夫なのだろうな?」


 大丈夫かって?

 そんなもの見ればわかるでしょう。

 大丈夫なわけがないじゃない!

 この数分で軍勢の6割が落とされているのよ。


「何とかなるのであろうな? 天才軍師よ」


 何とか? 何とできるわけないでしょ。

 一瞬で戦力の6割を無効化してくる個人戦力相手に、戦術も戦略も今この場ではなんの意味もない。


 間抜けな勘違いは私の方だった。

 カシュタンテの元女王が下した判断は間違っていなかった。

 彼に喧嘩を売ってはいけなかった。


 続々と被害報告が入ってくる。


 こうなれば少しでも被害を少なくするしかない。

 不本意ではあるが降伏も手か。

 命あっての物種ですしね。


「あの男が再度甲板に!」


 今後はなにをするつもり。


「が」


 皇帝陛下がフィールドで拘束される。


「へ、陛下!」


 あの男が透明な球体を再度展開した。

 まさか!?


「軍師殿どうされたのですか!? 陛下はどうされるのですか」


「そんなもの放っておきなさい。逃げるのよ! あの男は文字通り、こちらを全滅させるつもりよ」


 私はこんな所で、死んでいい人間ではないのよ。

 なんとしてでも逃げ延びなくては。


「あの男が甲板から飛び立ちました!」


 振り向いてはいけない。

 振り向いた瞬間、私の人生は終わる。


「船首が消滅! 船体がどんどん消滅していく、こっちまでくる。に、逃げぁぁぁぁぁ」


 私は選択を間違えた。

 あの男の周辺に手を出してはいけなかった。

 あの男に喧嘩を売ってはいけなかった。


 願わくば、私のように彼の逆鱗に触れる人が増えませんように。

 無駄かしらね。

 ならば多くの愚か者達、あの世で待ってるわ。

 あー、ちくしょう!

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