第37話 狩猟
さすが異世界。
空飛ぶクジラとかすげーわ。
「左の字、あれ」
前方には町があった。
見慣れた看板のコンビニ、コンクリートで舗装された道。
どう見ても日本のどこかの町だ。
ただ人がいる気配はない。
「この辺の町の住人は全て王都の近くの町に移住しているはずです」
「移住ねぇ」
「チキュウの方々は魔獣や野性動物に対抗する術を持たない方が多いようで、この辺だと生きていくのも少し難しいですから」
「でも言葉もわからんのによく避難誘導なんかできたな」
「それなのですがチキュウがこの世界にくる数年前に、各国に女神様達から翻訳用の辞書が配られまして」
あの日よりもはるか以前から、地球がこの世界に飲み込まれることを女神達は知っていたのか。
情報収集もかねてのガンドラルオンラインだったのか?
情報が少なすぎてよくわからんな。
「チキュウという世界がこの世界に来るので、そのために言葉を学ぶようにとのことだったようです。ただ各国ともごく少数の学者が対応した程度だったようですが」
「なら基本的には、この世界の住人とコミュニケーションをとるのは難しかったってことか」
「そうですね。コミュニケーションがとれないことで、不要の摩擦が起こったり、トラブルが発生しているところも多いようです」
爺さんの言った通りかよ。
もともと言葉が通じても色々トラブルだらけだったんだ。
言葉もわからないとなると、そうなるよな。
「廃墟とはいえ折角屋根のついた建物があるんだ、今日はここで休むか」
「わかったよ。あ、そういえば左の字、食べるものってまだあるの?」
「そういえば、もうそろそろ無くなりそうだな」
「なら狩りにいこうよ、お肉とか果物とか。あと町でお金作るためにも素材とかも集めよう」
「狩りと素材収集か」
セフィに出してもらった宿代も、返さないといけないしな。
「よし、行くか」
「わーい。狩り!狩り!」
「さっきのセフィの話だと、戦闘能力が低い住民が、避難しなきゃいけない程度にはなにかいるみたいだしな」
「ご主人さま、あそこ」
リシャルがなにか見つけたようだ。
なんか鹿みたいな動物がいた。
爆発した。
「よし!」
「よし!じゃねえよ」
「あ、またいた」
爆発音がした方向を見ると、クレーターが一つ。
「何がいたかもわかんねーじゃねぇか」
「いまのと同じやつ!」
また爆発音とクレーター。
「おい、なにがいたかの説明が欲しいんじゃねーよ。しかもその前のやつがなんだかわかんねぇから、何がいたのか結局わかんねーだろ」
「ほら、あれだよ」
でかいウサギがいた。
爆発した。
「おま、俺達の話聞いてたよな?」
「狩りだろ?」
「なにか違うの?みたいな顔してるなよ。獲物が跡形もなくなくなってたら狩りにならないだろうが」
「狩りっていつもこういう感じだったよ」
「は?」
「そうですね、女神達の眷属等をみんなで狩りに行きましたね」
「俺達の話を聞いてたか?お前らの狩りと俺が言ってる狩りは天と地ほど違うよ」
「?」
「なんで違うの?みたいな感じになってんだよ。お前らその狩りで肉を取ったり、素材を取ったりしてたのか?」
「いやいや、さすがに眷属とはいえ人の皮を剥いだり、肉を喰らったりはしていないですよ」
「なんでドン引きした目でこっち見てるんだよ」
「我が主はなかなか残酷だなと。人の肉とか私は遠慮したいですね」
「俺だって嫌だよ!」
「あ、またいた」
「だから吹き飛ばすなよ。狩りの意味がないだろうが」
「わかりました我が主は、皮を剥いだり肉を喰らいたいのですね」
「俺が残酷みたいな表現はやめろよ」
「旦那さま、旦那さま」
「クリスこの黒い固まりは?」
「消し炭にせず、丸焼きにしました」
「ただの炭になってるじゃねえか」
「ですが、きちんと形はのこっていますよ」
「原形ないだろが。ただの黒い固まりは形が残ってるとは言わねえよ。こんなのどうやって食べたりすんだよ」
「私はちょっと無理ですね」
「我が主は変わったものがお好きなのですね」
「食わねーよ。なんで俺がちょっと変わり者、みたいなポジションにされてんだよ」
「クリスは普段狩りとかしないのか?」
「しませんよ、私たちは魔力を吸収して体を維持していますので、なにも食べなくても特に問題ありません」
ドラゴンすげーな。
飯いらずとかさすが異世界だ。
「左の字ー、果物っぽいもの何種類かみつけたよ。前と同じように鑑定できる?」
「おう、まかせろ」
「お肉は?」
黒い固まりを見せる。
「これとあとその辺にあるクレーターが成果だよ」
「あははは、左の字お疲れ様だね」
巴の笑顔が心に染みる。
ああ癒される、思わず巴を抱き締める。
「あはは、恥ずかしいよ」
「サシチ様! 次は私でおねがいします」
「デハ次はワタシです」
「佐七さん、ルルのつぎは私でお願いします」
「私は最後ですか」
いや、並ぶなよお前ら……。
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