第36話 ぶらり旅

 結局天幕から出られたのは昼も過ぎたころだった。

 ルドの話を聞いた後の彼女たちはすさまじかったね。

 無限ループに叩き込まれたかと思ったよ。


「なあ、セフィ。カシュタンテ王国は神々と接触した地球人を保護してどうするつもりなんだ?」


「女神様と接触した異界の人達が学べる学園である程度この世界のことを学んでもらうんですよ」


 力をもらったやつが、独自の思想で暴れる前に躾をするってか。


「それはカシュタンテ王国にあるのか?」


「正確にはカシュタンテ王国のすぐ横にある学園都市ですね。何処の国にも所属しない自治都市です」


 独立した学園ね。

 外交能力が高いのか、独自の強力な戦力を持っているのか。

 もしくはその両方かね?


「よし、そこに行ってみよう。セフィも一度は国に帰る必要があるだろ?」


「このまま何の手続きもとらず、というわけにはいかなかったので助かります」


「まあ、その辺も含めてまずはカシュタンテ王国だな」


 方針が決まればあとは行動するのみ。

 っと、ポタ族をどうするかだな。

 このままこいつらだけ置いていくとまた襲われそうだ。


「ランガー、レーブ悪いがポタ族についていてやってくれ。もしできるならあまり邪魔が入らないような場所に集落を移動させてやってくれ」


「承知しました」


「任せておけ。とりあえずは大将たちが戻るまでじゃな」


「ああ、たのむ」


「外敵が現れた場合は?」


「斬れ。最優先はポタ族の安全確保だ」


「承知しました。ちなみに訓練などは?」


「彼女たちが望むようであれば」


「承知しました」


「ヒダリ様なにからなにまでありがとうございます」


 パポールが頭を下げる。

 危うく頭をもふるところだった。

 集落全体がぴゅいぴゅい言いながら喜んでる。

 これはある種の凶器だな。


「おっし、行くか。セフィ、道中の案内は任せる」


「あの旦那さま、何故徒歩で移動を?私が皆を運んだ方がはやいのでは?」


 クリスそれドラゴンになるってことだよな?


「セフィ、この世界ではドラゴンがその辺を普通に飛び回っているのか?」


「いえ、遠くに見えるだけで騒ぎになります。人里近くに出ようものなら国全体が大混乱になるかと」


「飛んでいるだけで大騒ぎですか」


「大騒ぎですね」


「では騒ぎになる前に全て消し炭にしてしまえば」


「してしまえば、じゃねぇよ。クリスお前まさかそれ実践してないだろうな?」


「いえ、騒ぎになる前に何かしたことはあまりないですよ。騒いでいるのがうるさくて消し炭にしたことは何度もありますけど」


「もうどっちにツッコんでいいのかわかんねぇよ」


「では消し炭はやめて焼きつくしますね」


「消し炭と何か違うのかよ!?」


「瓦礫くらいは残りますよ」


「残る意味あるのかよ」


「もう旦那さまは細かいことを気にしすぎですよ」


「細かくねぇよ、なに俺の方見てしょうがないなぁ、みたいな顔してるんだよ。ドラゴンてこんなやつらの集まりなのか?」


「おおむねそんな感じでしょうか。いきなり現れて暴れて帰るということが多いかと思います」


「大迷惑だなドラゴン」


「全くですね」


「ルド、お前らも似たようなこと散々やってただろうが。なに、しれっとこっち側にきてんだよ」


「私は無差別に消し炭になどしませんよ、ただ消滅させるだけです」


「かわんねーって、もう言葉が違うだけじゃねーか」


「いえいえ、消し炭なら煤が残るでしょう。消滅させればなにも残りませんよ」


「お前は最新型の掃除機か? いいか、今後はいきなり消し炭も焼きつくすも消滅もなしだ」


「では叩きつぶせばいいですね」


「クリス頼むから破壊行動から離れてくれ」


「全くしょうがないドラゴンですね」


「全くじゃねぇよ。なんでお前こっち側にくるんだよ。お前は完全にあっち側だろうが」


「!」


「なに衝撃うけてんだよ。今の話どう聞いてもクリスとお前はおんなじポジションだろうが。はあ、二人ともとりあえず今度からはなるべく燃やしたり消したりする前に俺に確認してくれ。俺がいないときはセフィかだれかに確認してくれ」


「サシチ様、私にそのような大役務まるでしょうか?」


「大役? どこが? いいかセフィ、セフィが普通におかしいと思ったことはとりあえず止めろ、頼むぞ!」


「わかりました、その大任果たしてみせます!」


 なんだろうな。

 ものすごく不安になるな。


「しかしサシチ様、それでも人から見えないところまでぐらいはクリスの力を借りてもいいのでは?」


「んー、何か急ぐ旅でもないしな。こうやってのんびりみんなの話を聞きながら歩いた方が楽しいだろ」


「そうだね、ボクも楽しいよ」


 巴が背中にしがみつく。


「デスね、セブンたくさんお話しまショウ」


 ルルは左腕。


「私も」


 キョウが右腕。


「そんなものか」


「そんなもんだよ」


「旦那さま次は私も背中に乗りたいです」


「はいはい、順番な」


 いろいろあるが折角の異世界だ。

 楽しめるところは楽しまないとな。

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