第23話 予感

「旦那さまー、あなたこそ私が探し求めていた旦那さまです!」


「ふざけるな! 彼こそは私、セフィル・グラセルフの運命の相手。伴侶となる方だぞ」


 ……ヤバい

 いきなりすぎる展開もヤバいが、この二人の女性の醸し出す空気がヤバい。

 俺の勘がビンビン反応している。

 この二人はあのポンコツ4人衆と同じ匂いがすると。


「おお、初対面で我が主の素晴らしさを見抜くとは素晴らしい!」


 ルド、ナチュラルに主に昇格かよ。


「このようにお美しい女性二人を一瞬で虜にするとは、さすが御屋方様」


 ランガー、お前、御屋方様って呼ぶんだな。

 あとなさっきの展開で惚れた腫れたになるって、ふつーに考えてあり得ないからな。

 どう考えてもヤバいだろ。


「まあ、僕らのご主人様なら当然ですよ」


 リシャル、ご主人様呼びか……

 生まれて初めてご主人様って呼んでくれたのが、このポンコツエルフ。

 なんだろうすげえ損した気分だ。


「しかもあの腕っぷし、大将にぴったりじゃ。おお赤い髪の嬢ちゃんはドラゴンか」


 レーブ、大将って。

 おお本当だ、赤い髪の女性がいなくなってさっきのドラゴンが目の前にいる。

 っておい、その火球はまずいだろ。

 だああああ

 打ちやがった。


 砂煙で視界が。

 おあああああ

 今度は暴風かよ。


 爆発の中心部に紫の髪の女性。

 背中に翼?


「ほうあっちの嬢ちゃんは飛天族か」


 へー、飛天族っていうのか。

 どうやら俺のパーカーのおかげで火球をくらっても問題無かったみたいだな。

 紫の髪の女性の前に方式術が展開したな。

 げ、今度は広域魔法かよ。


「おお、広域破壊の衝撃波ですか。素晴らしい」


 素晴らしいじゃねーよ

 ああああああ

 ぶっぱなしやがった。


「さすがドラゴンですな御屋方様。あの威力の衝撃波でびくともしていません」


 ドラゴンだけはな!

 周囲の景色が一変してるじゃねーか。


「うーん、でも威力としてはまだまだだね」


 広範囲がただの荒れ地になったけどな。

 いいかげん止めないとまずいな。

 仕方がない。


「そこまでだ」


 殴りあいに発展しそうだった二人の頭にとりあえずアイアンクロー!

 女性の頭を鷲掴みにするのは大変申し訳ないが、殴って止めるよりいいはずだ。


「旦那さま何事ですか?」


「未来の伴侶よ何をする?」


「とりあえず静かにしような? な?」


「いたたたたた。わ、わかりました」


「あたたたたた、しょ、承知した」


「わかってくれてよかったよ。このまま頭を潰したくはないからな。とりあえず二人とも落ち着いてくれ」


「頭を潰すって、我が主よ。ここでそれをすると元には戻りませんよ」


「ああ、そうだったか。危うくプチっといくとこだった」


 お、どうやら落ち着いてくれたようだ。


「手荒い真似をして申し訳ない」


「「い、いえ、大丈夫です」」


 社交の場でもないのに名乗るのもおかしいよな?

 名前を聞くのも色々な意味でまずい気がする。

 どうしたもんかね。


「我が主、この銀色の巨人なんでしょうかね? 魔獣でもなさそうですし」


「それには触らないでください。一応軍の機密にふれてしまうので」


「軍、ですか?」


「は!?助けていただいたのにご挨拶が遅れ申し訳ありません。私はカシュタンテ王国の機兵隊所属セフィル・グラセルフと申します。今回の救援感謝いたします」


 グラセルフさんね。

 こうしているとまともに見えるが、俺の勘がだまされるな、この人はあの四人の同族だといっている。


「気にしないでください。あっと私はサシチ・ヒダリと申します」


 適当に話していた時間が長すぎて、外向きの言葉遣いがかなり怪しい。


「怪我などは大丈夫でしたか?グラセルフさん」


「ヒダリ様とおっしゃるのですね。多少のダメージはありますが特に問題はありません。それよりもグラセルフさんなどと他人行儀には呼ばず是非セフィとお呼びくださいヒダリ様」


 やべーよ。

 何でこの人、初対面の俺に愛称呼び許すんだよ。


「初対面の女性にそのような失礼な真似はできませんよ、グラセルフさん」


「……」


「グラセルフさん?」


「はっ!いえいえ、ヒダリ様は私の命の恩人。失礼などということはありません。是非にセフィとお呼びください」


 やべえ。

 グラセルフさんの期待の眼差しと一緒にやべえ気配がビンビンする。

 どうする?

 セフィと呼んだら終わりな気がする。


「あのー、私もお話してよろしいでしょうか? ヒダリ様」


 ナイス割り込みだ!


「まずは名前を。私はアスクリスと申します。私のことはクリスと呼んでください、旦那さま」


 こっちもヤバい。

 ポワポワした話し方なのに全くなごめない。

 愛称OKだけでも大丈夫かと思うのに、あって一時間かそこらの相手に旦那さまとか、

 急すぎて怖ええよ。

 どんな思考だよ。


「頭は大丈夫ですか?」


 やべえええ、心の声が


「まだミシミシいっているので離してもらえると助かります」


「御屋方様、さすがに頭を鷲掴みのままなのは可哀想かと」


 え、離さないと駄目?

 離すの怖いんだけど。


「重ね重ね申し訳ない」


「ふう、さすが旦那さま。私が手も足も出せずに頭を捕まれて宙ぶらりんだなんて素晴らしいです」


 え、なにいってるのこのドラゴン。


「頭は大丈夫ですか?」


「はい、大丈夫ですよ」


 いや、たぶん大丈夫じゃねぇよ。


「ヒダリ様! 私もヒダリ様のことをサシチ様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか?」


「頭は大丈夫ですか?」


「特に問題はありません」


 問題だらけだよ。


「話が進みませんよ我が主」


 わかってるよ。

 でも話を進めると駄目な気がするんだよ。

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