第18話 ガンドラル

「なんとか打てるようになったようじゃな」


 長かった。

 本当に長かった。

 何かある度に貰えるアドバイスはもっと打て、打っていればそのうち分かる。

 この一言のみ。


「ものは手甲とこれは丈が短いがローブか?あの鉄をここまで細くしなやかにしたのか。魔法付与はローブの方のみか」


 魔力操作を誤って、何度も腕やら足やらが吹っ飛んだ。

 打った衝撃を逃がしきれずに何度も手がはじけとんだ。


「それぞれ形の方も様になっているようじゃの」


 やっと時空鉄が打てるようになったら、今度は時空鉄の加工に時間がかかった。

 まあ、途中から趣味に走った俺も悪いんだが。

 何せ時空鉄でパーカーを作ったからな。

 鍛冶をやりながら裁縫まで勉強するはめに。


「よくやった合格じゃよ」


 数多の苦労もやっと終わる。


 いつのまにか時空流覇が『時空流覇・極』なんていう、どこかのラーメンのような名前になってるし。

 スキルの説明も『時空の流れを支配し極みにたどりつきし者』なんていうどっかのラーメンのキャッチコピーみたいになっている。


「よくここまでのものを作りあげた、ワシから教えることはもうなにもない」


 いやいやいや、教えることなんて一番最初の説明ですでになくなってただろ。

 もっと打て、わかるまで打て。

 以外なにも言ってなかったじゃねーか。


「今後も魔法やら武術やらと共に精進するんじゃぞ」


 でも、やっぱりこの一言は必要だろう。


「ありがとうございました」


 

 さて、これで爺さんのお題はすべて終了か?

 特に何か起こるわけでもなさそうだな。

 てことはまだ何かあるのか?


「サシチ、お疲れ様でした」


「ルド、これで全部終わりなのか?」


「そうです。あちらであの方がお待ちです」


 ルドに案内されて屋敷の外に出る。

 真っ白な空間に爺さんが立っていた。


「ようやく来たか」


「ようやく来たか、じゃねーよ。あんたの出した試練?がめんどくさいことばかりだったせいだよ」


「ほう」


「ほう、じゃねーよ。梟はルドだけで十分だよ。しかも話し方がなんかレーブににてるんだよ。キャラかぶってんじゃねーよ」


「いいよるわ、相変わらず凄まじい度胸じゃのう」


「はあ、まあいいや。それよりもここまでたどり着いたんだ。勝負の前に色々聞きたいことがあるんだが」


「いってみろ」


「まず、地球はどうなった?」


「最初にあった時にも言ったが、もう存在していない」


「では地球上に存在していたものはどうなった?」


「それも言ったであろう。すべてガンドラルに移動したと」


「それは街ならば街の人や人工物含めた全てということか?」


「そうじゃ、森ならば森の動植物、地面に落ちていた石ころさえもガンドラルに移動している」


「では移動した場所はどうなっている」


「そこまでは知らん。まあ、陸上のものは陸上に、水中のものは水中に移動しているはずだがな」


「言語はどうなっている?」


「基本的にガンドラルはガンドラル語。地球側はそれぞれの地域の言葉のままじゃよ」


「言語の交換はなかったのか」


「そんなものあるはずがない、言葉を与える力など存在せぬ」


 くそ、わりと最悪の状況だ。

 言葉がわからないなら近くの住民とのトラブルもありえる。

 それよりも都市や町村が過酷な環境に転移している可能性もある。


「おぬしの想像する通りじゃよ。そしてトラブルも多発しているし、すでにモンスターに襲われたり、破棄された場所も出てきている。あとはガンドラルにある国に支配された街もあるようじゃ」


 最悪だ。

 どれだけの被害がでているのか。

 俺の知り合いたちは大丈夫なのか?


「細かいエリアや個人の状況まであんたにわかるか?」


「わからん。そもそもそのエリアや個人を儂が知らんからな」


 だめか。

 さすがに知らない場所や個人は確認できないか。


「ああ、そうだ。地球でいう化学なんかはガンドラルでつかえるのか?」


「難しいな、ガンドラルでは魔力が中心じゃ」


「ということはもしかして化学反応の燃焼もだめか?」


「もちろんじゃよ、この世界では火は魔力を使って燃える」


 まずいな、多分地球の軍隊の火器類は使えない。

 近接武器のみとかキツすぎる。


「まあ、おぬしが心配したところでどうにもならん。それともなにか、おぬしは世界全てをしょって立つそんな立場なのか?」


 確かに、俺が心配してもどうにもできない。

 各地でそれぞれが頑張ってくれよとしか言えないな。


「次だ、なぜ地球がガンドラルに呑まれたのかだ」


「それは教えられん。何でもかんでも聞いてしまったら楽しくないではないか。おぬしのような者が楽しめるように、ガンドラル中に真実の断片をばらまいてある。知りたいならば自分で探すんだな」


 真実を探す旅とかどこの物語だよ。


「ではなぜゲームの世界を装っていた」


「それについては仕組みは儂の力を使っているようだが、詳しくはわからん」


 他にも関わっているやつがいるのか。

 ああ、8柱の女神達か?

 普通に女神として顔出ししてたしな。


「最後だ、なぜ俺だった?」


「そういうルールだからとしか言いようがないのう。新しい世界が呑み込まれてきた、それぞれの神々が十のみ、その世界の生物を自分のもとに呼ぶことができる」


 呑み込まれた世界の生物がガンドラルで生きていくために、主導者をつくる感じか?


「俺は1人だが? 他にもいたのか?」


「いや、儂のところはおぬし1人だのう」


「なぜ?」


「時空属性を持っているもので、儂が定めた合格ラインに到達していたのがおぬしだけだった。というか時空属性もちの実力者が少な過ぎではないか?」


「あー、それはなんかすまないな。無属性持ちは初期でみんなゲーム辞めてたからな。文句があるならゲームを作ったやつらに言ってくれ」


「やつらのせいか。あの時、再生できないほどボコホコにしておくべきじゃったな」


「聞きたいことは以上だ」


「他はいいのか?」


「全部聞いたら楽しくないんだろ? 外に出られたら自分で調べるさ」


「そうか。最後の試験は儂との勝負、儂に勝てたら外に出られる」


 神に勝てとか。

 この爺さん、ほんとに最悪だな。


 勝つまでひたすら戦いつづけろってか。

 自分の趣味全開だろ。

 爺さんスゲー笑顔だな、おい!


「では、はじめようかの。おっとまだ名のっていなかったのう。儂は創世神にして時空をつかさどる神ガンドラルじゃ。サシチ楽しませてくれよ」


 名乗りをあげてんじゃねーよ。

 別に聞いてねーし。


 役職つけて名乗るとか、聞いてるこっちが恥ずかしいわ!

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