第4話 異変

 森での狩りを終えた私は自分の拠点に戻っていた。


「いつ行っても左の字の家は、落ち着くというか癒されるー」


「実際に回復してまスシネ」


「佐七さんこれってどんな設備の効果なんですか?」


 3人のお客様も一緒に。


「お、左の字の家は相変わらずお茶請けが変わってるね」


 私の出したお茶請けを見て巴が言った。


「申し訳ない、私は現実で料理をほとんどしないからな。できるものといったらこのサンドイッチかおにぎりくらいなんだ」


 私のスキルは


 素材を見分ける

 素材を捌く

 調味料を使った味の調整


 と料理に関わる部分が色々あるが、料理のレシピに関わるものがない。

 したがって自分が知っている料理以外は作ることができない。

 まあ、レシピサイトなんかを見ながらなら作ることはできるのだろうが、そこまで料理に時間をかける気になっていないだけではあるのだが。


「不満なわけじゃないんだ、左の字のサンドイッチは効果高いから」


「味覚まで再現されたらすごくおいしそうデスネ」


「そうですね、ぜひとも一度このサンドイッチを味わってみたいですね」


 3人の評価が結構嬉しい。


「そう言ってもらえるとありがたい」


 しばらくお茶と食事を楽しんだ後、キョウがごそごそと自分のバッグから素材を取り出し始めた。


「今回も素材はこちらで出しますので、携帯用におにぎりとサンドイッチをおねがいしてもいいですか?」


「少し待ってもらえるのならかまわない」


「時間は大丈夫ですのでよろしくお願いします」


「左の字、ボクはでっかい肉の挟まったやつがいい!」


「私はおにぎりデス!何も入ってない塩のヤツ!」


 塩にぎりとは……。

 ルルのチョイスが渋いな。


「わかった、とりあえず貰った素材分で色々作ってくるからその辺で時間をつぶしていてくれ」


 さて、結構な量の素材だな。近いうちにダンジョンでも攻略に出るのかな?

 まあ、なんにせよサクサクと作ってもう少し狩りにでも出るかな。




 できた、とりあえずは貰った分の素材は使い切った、後はこれを3人に渡すだけだ。


 3人とも見るに堪えない姿だな。

 なんというか……。

 くつろいでもらえる空間を提供できているということなのだと思っておこう。


「できたぞ」


 ちょっと顔を上げるだけか。

 3人のこの姿をみられるのはたぶん眼福なのだろうと思うのだが。

 なんというか全くそう思えないのは醸し出す空気が浜辺に寝そべるアザラシにしか見えないからなのだろうか?


「ここに置いておくぞ」


 本当に浜辺のアザラシだな。


「でもこのゲーム本当に不思議ですよね」


「不思議とは?」


「ゲーム内の通貨が現実のお金と換金できるんですよ」


「そうデス、あとはゲーム内の住人もプログラムとは思えないほどいろいろな動きをシマス。まるで実際に生きているみたいデス」


「あと、外でのタブレットを使ったレイドモンスターとの戦闘。モンスターの動きが異様にリアルだよね。投影されているデータとは思えない、動きや見た目がリアルすぎる」


「ゲームというよりは『別の世界の中』にいるような感じか」


「そうなんです、ゲームとは思えない。まるで別の世界に入り込んでしまってるような感じなんです」


 微妙に真剣な話の展開のような気がするんだが転がったままなんだな。

 というか、いい加減起き上がってほしいんだが。


 ノイズ?

 巴達も転がったまま硬直している。

 ゲーム事態に何か起こっているのか?

 しかし硬直した美女三人、なんというか不気味な光景だ。



 む、動き出したか。


「何が起こった?」


「闇の女神さまから強制的なお知らせ」


「?」


「別属性を持ってる何人かのフレンドにも確認しましたが、男女問わず全てのキャラで自分の属性の女神から通知が来ているようです」


「キャラを強制的に止めてまでの通知か。どんな内容だ?」


「佐七さんには届いていないんですか?」


「ああ、届いていない」


「どういうことデショウ」


「各属性の女神か、私は無属性で無属性には女神がいない」


 ガンドラルオンラインには風火水雷氷土闇光無の9属性があり、それぞれに属性を司る女神がいる。

 だが無属性だけはその存在が確認されていない。

 したがって今現在、無属性の女神はいないとされている。


「無属性のフレンドに確認してみます。ってあんまり無属性のフレンドいないんですよね」


 この無属性、使える魔法がないし属性女神がいないので他の属性のように女神からの恩恵も受けられない、ステータスの補正もないとかなり不遇な属性で、この属性を持ったがために早々にゲームを辞めてしまう人が多かった。

 結果として無属性持ちは希少になってしまった。


「確認デキマシタ。たしかに無属性のキャラには来ていないヨウデス」


 ゲームからの通知も受け取れないとは……。

 ここまで不遇にする必要があるのだろうか?

 運営側は無属性に恨みでもあるのだろうか。

 さらに無属性持ちのプレイヤーがいなくなりそうだ。


「とりあえず、どんな内容だったんだ?」


「うーん、なんかこの世界がガンドラルにのみ込まれるってさ」


「新しいイベントの告知か?」


「かな?近日中って話だから、そのうちもっと詳しい内容が通知されるんじゃないかな?」


「他になにか言っていたか?」


「大きな混乱が起こるから、いままで手に入れた力を駆使して生き残れってさ」


「それだけか?」


「以上だね」


 情報が少なすぎて何がなんだか分からないな。

 ただこれだけの内容でキャラを強制的に止めてまで告知する必要があるのか?


「とにかく、何かイベントがあるのだけは確かってことだな」


「デスネ、情報が少なすぎてフレンド達も何をどう準備するか議論になってイマス」


「何もわからないならどうしようもないな。私は狩りにでも出るよ。3人とも今日は誘ってくれてありがとう」


「では私達もおいとましましょうか」


「またなにかあれば声をかけてくれ」


「わかりました」


「また遊ぼう、左の字」


「おつかれサマデシター」




 またノイズか。

 今度は画面が真っ黒になったか、これはなにか大きなトラブルでも起こったか?

『視界』が一面まっ白に!?



 ???

 この真っ白な空間は一体。


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