『告白してきた後輩が、俺と同じものが付いている件』
いとり
<俺にその壁はデカ過ぎる>
「先輩!付き合ってください!」
「いや、無理」
「なんでですか⁉」
「いや、だってお前――男じゃん……」
そう。俺に告白してきたこの超絶かわいい後輩、
紛れもなく俺と同じ”男”だった。
「それの何がダメなんですか?」
「何かと言われてもだな」
「こんなにかわいい子が告白してるんですよ?」
「近い、近い……顔とかの問題ではなくだな」
小柄ながらもグイグイと押してくる皐月に、俺は圧倒されていた。
「もしかして先輩……彼女さんでもいるんですか?」
一瞬、純粋無垢だった皐月の顔から光が消えたかの様に見えた。
「ヤンデレ……」
「ヤンデレ?」
「いや。何でもない」
選択肢を間違えると殺されるのでは、とも思ったが、自分でアホらしくなって考えるのを辞める。
「先輩?」
「ん? ああ、悪い」
「?」
「皐月。とりあえず冷静になって話そう」
「僕はいたって冷静ですよ?」
不思議そうに首をかしげる皐月。
(あー。本っ当、顔だけは可愛いなぁ)
一番冷静さを欠いていたのは、俺かもしれなかった。
揺らぎそうになる自分の理性を抑え、わざとらしい咳ばらいを二度し、禁断の質問に踏み切る。
「えーと、その、だな……お前は”男”が好きなのか?」
「いえ? 女の子が好きですよ?」
「は?」
「僕は男が好きなんじゃなくて、先輩が好きなんです♪」
「待て。俺も男だ」
「はい。知ってますよ? だから、僕は先輩が好きなんです♪」
(……ん? 俺が間違ってんのか? そもそも男ってなんだっけ?)
皐月の迷いのない言葉に、訳が分からなくなり、俺は自分の局部を無意識に見つめ、ついでに皐月のモノも見つめていた。
「先輩? どこ見てるんですか⁉ いやらし」
照れた様に、皐月は自分の股に手を押し込め、自分のモノを隠す。もはやその仕草は既に、女子そのものだった。
しかし、ここで安易になあなあな返答で答えたら、こいつを傷つけてしまう。
ここはしっかりと”男”として、断るべきだ。
「皐月」
「はい!先輩!」
(うっ……可愛いい……)
「俺は女の子が好きだ。だから、お前とは付き合えん」
「……わかりました」
改まって聞かされた言葉に、皐月は少し悲しげに顔を曇らせ、廊下を歩いて去っていく。その後ろ姿に、若干の罪悪感を感じながらも、これで良いと自分に言い聞かせた。
しかし、次の日も……
「せんぱーい!一緒に帰りましょう」
また、次の日も……
「せんぱい♪一緒にお昼ご飯を食べましょう」
皐月が俺を呼ぶ声は鳴り止まなかった。
(俺の心配は何だったのだ……)
うなだれる俺をよそに、逃すまいと腕にしがみつく皐月。
「おい。皐月」
「なんですか、先輩♪」
「どこまで付いてくる気だ」
「それはもちろん。どこまでもです!」
「……」
(どうしたものか。一体何と言えばこいつは納得して諦めるんだ)
「こらこら。ここは”男子トイレ”だぞ」
「えっと、それがなにか?」
「あぁ……いいのか」
時々、こいつが男だということを忘れそうになる。
毎日を皐月と共に行動しているせいか、次第にクラス内で変な噂が立ち始めていた。
「せーんぱーい」
教室の入り口から俺を呼ぶ声。
「ほら、またあの子が来た」
「いつも藤田君にくっついてるよねえ」
「ちょっと先輩、後輩の関係超えてるよね」
「藤田君も嫌がってるみたいだし……ちょっとウザくない?」
(これはヤバい……)
「皐月!ちょっと向こうで話そう」
「え? どうしたんですか先輩??」
「いいから、ちょっと来い」
あまり良くない空気を察した俺は、皐月の腕を掴み教室から離れる。
「先輩……痛い」
「あ、すまん」
(理科準備室なら、人も来ないだろ)
「どうしたんですか急に?」
「いや、特に……どうってこともないんだが」
(本当の事をこいつに話したら、傷ついちまうだろうなあ……)
「あ、もしかして先輩、こんな人気のないところに連れ込んでいやらしいことしようと考えてます?」
「しねえって」
(相変わらずぶれないなこいつは)
「なあ、皐月」
「はい」
「なんでお前はそこまで俺の事が好きなんだ?」
「ん~、なんとなくです!」
「なんとなく!?」
「はい。なんとなくです。自分にもよくわからないんです」
「先輩を見ると、こおドキッとしたり、ギューとしたり胸のあたりが苦しくなるんです」
「……そっか」
「はい。そうなんです」 嬉しそうに笑う皐月。
俺はそれ以上、何も言えなかった。こいつが冗談や、遊び半分の気持ちでやっているのでは無いことを知ってしまったから。
自分に嘘をついて、こいつの気持ちに答えてやるのが正解なのかを俺は分からないでいた。
ただ、周りからどう言われようと、こいつからは離れないでいよう。そう、心に誓った。
そして、事件は起こる。
「先輩? 急に視聴覚室に来いなんかに呼び出してどうしたんですか? また、いやらしいことでも考えてるんですかー? 先輩?」
皐月が教室に入った瞬間、背後でバンッと扉が閉まる音がする。
「え?」
そこには、藤田の女子クラスメイトが三人立っていた。
「あんた、いつも藤田君といるよね」
「え……は、はい」
「いい加減、藤田君に付きまとうの辞めてもらえないかなあ」
「え?どうゆうことで……」
「藤田君!すっごくあんたに迷惑してんだよ」
「う、うそ」
「嘘じゃねえよ!あんた、避けられてんの気づかないわけ?」
「てゆーか、あんた藤田君の何なの?」
「まさか恋人とか言わないでしょうね」
「先輩は……その……す、好きです」
「は?」
「あっはははは!」
「何言ってんのこいつ」
「あんた”男”でしょ!?」
「ほ、本当に好きなんです」
「自分の性別分かってんの?」
「ねえねえ、こいつの
「あ、それいい!」
「えっ?」
「はーい、じゃあヌギヌギしましょーねえ」
「いやっ!やめて!」
「ほら!暴れんな!」
ドンッドンッ!
「!?」
「おーい、皐月? そこにいんのか?」
『おい!こいつの口塞げ!』
『んーんーぃ!』
(皐月の声がしたと思ったが……気のせい、か)
「んっー、あ!先輩たすけてっ!」
「皐月か!? どうしたっ!?」
ガチャガチャ!
(あ!?クッソ鍵かけてやがる……クッソ!)
「ふん、残念でした。助けてくれる王子は来られないようですー」
「ねえ、早くしないと藤田君にばれちゃうよ!?」
「しばらくは大丈夫だって。合鍵はここにあるし、それにここはにか……」
ガッシャ―ン!!
「え!?」
「待って……ここに二階の……」
「お前ら。俺の
「せん……ぱい……」
「大丈夫だったか皐月」
「あ、あの……私らは藤田君の事を思って……」
「もういい。それ以上、喋んな」
「うっ……でも、おかしいじゃん!」
「何が」
「だってそいつ”男”なんだよ!?」
「だから?何がおかしい」
「……は!? あ、頭おかしいんじゃ……」
「よく見てろ」
そう言うと、俺は皐月の唇にキスをした。
「え?」
動揺しているそいつを俺は睨みつける。
「ふ、ふざけるな!!」
「香織、もう行こ?」
涙を浮かべたそいつらは、ドアの鍵を開け消えていく。
『んーんーぃ』
「ん? お、悪い皐月。苦しくなかったか?」
「んぱっ――せ、せんぱい、き、きす⁇」
「あー、その……すまん!」
「い、いえ! こちらこそ。その……ごめんなさい」
「何で皐月が誤るんだよ?」
「だ、だって。僕のせいで、先輩が迷惑してたなんて……知らなくて。それに……キスを」
俺は、皐月の目を真っすぐ見て言う。
「別に嫌じゃねえよ」
「えっ?」
「その、なんだ、別に好きってだけで、付き合うとかそんな――」
「うれしいですっ!」
「お、おいおい、そんなにくっつくな!」
案の定、皐月はわんわんと泣いた。
俺は、それ以上何も言わず、皐月の頭をポンポンと叩いて慰めてやった。
(さて。これからどうしたものやら)
『告白してきた後輩が、俺と同じものが付いている件』 いとり @tobenaitori
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