レンアイゴッコ
ソア
ハジマリ
幼い少女が二人、走り回って笑っている。一人は明るい茶色のショートヘアー、もう一人は黒髪のショートポニー風。次々と場面が変わり、私に見せつけるように明るい笑顔を振りまく少女達。
でも、笑顔だけじゃ終わらない。私は、この子達の結末を知っている。また、場面が変わった。
黒髪の少女は大粒の涙をポロポロと流し、茶髪の少女はそれを必死に堪えている。二人の両親は、お互いに頭を下げていた。喧嘩ではない。ただ、お別れの時がやってきただけだ。
「離れてても、ずっと一緒だよ 」
黒髪の少女は涙を拭いながらペンダントを取り出し、茶髪の少女に手渡した。中には二人の写真が入っている。
「ありがとう 」
茶髪の少女は、ペンダントを胸にしまい、小指を突き出した。
「約束。もしまた会えたら、その時はもっと…… 」
これは、夢である。私達の、幼い頃の夢。幼馴染との思い出の夢。
やかましい金属音が部屋中に鳴り響く。うるさい。布団から手を伸ばし、音の正体である目覚まし時計のスイッチをやや乱暴に叩いて体を起こす。最悪の目覚めだ。懐かしい夢を心地よく見ていたのに、それを妨害するなんて。そもそもなんで目覚ましなんてかけたんだったか。
「美来、早く起きなさい! 遅刻するわよ! 」
半分ほど眠っていた私の意識を、お母さんの大声によって叩き起された。今日はなんだか大きな音による被害が多い気がする。
「遅刻って、まだ春休みじゃん 」
大きなな欠伸をしながら言うと、お母さんは呆れたようにため息をついた。時計とハンガーにかかった見慣れない制服を交互に指さす。少し考え、直ぐに理解した。
「今日入学式じゃん! 」
「だから遅刻するわよって言ったじゃない! 」
「もっと早く起こしてよぉ! 」
残りの眠気を全て振り払い、すぐに制服へと着替える。必要なものをスクールバッグに詰めて階段を駆け下り、洗面所で顔を洗って歯を磨く。良かった、運良く髪は乱れていない。こんな時のショートヘアって助かる。
「行ってきます! 」
「ちょっと、食パンをくわえて走っても出会いなんてないからね! 」
「私は急いでるんだよ!? 」
茶々を入れてくるお母さんを尻目に、私は家を飛び出した。
走りながらのパンはかなりキツイ。家が多少近いのが唯一の救いか……。目の前の十字路の先に学校がある。ラストスパートと言わんばかりにスピードを上げ、十字路に差し掛かった……ところでちょうど角からでてきた少女に
お互い悲鳴にをあげながら尻もちを着く。思いきり腰を打ってしまい、痛みが襲う。しかし、それは相手も同じ、いや、それ以上の衝撃だっただろう。痛む体にムチを打ち、少女に駆け寄った。
「すみません! 大丈夫です、か……幸? 」
「はい、なんとか……って、え、なんで名前……美来、ちゃん……? 」
互いに言葉が出なくなる。確信があった訳では無い。見た目が昔と全く一緒だった訳でもない。それは恐らく幸もそうだ。まさかこんな所で、こんな形で再開するだなんて夢にも思わなかった。
「幸! 」
感動のあまり、思わず抱きしめてしまった。細い体に手を回し、長い黒髪に触れる。感極まって泣いてしまいそうだ。
「美来ちゃん 」
幸も私の背中に手を回し、ポンポンと優しく叩いてくる。
「ここ、外だよ 」
予想外のコメントに一瞬の思考が停止するが、確かに正論なので抱きしめていた体を解放する。辺りを見ると、なんだか私たちに視線が集まっているようにも思える。
幸は立ち上がって、制服についた砂埃を払う。あれ、よく見たら私と同じ制服だ。そもそもこの辺りに高校は一つしかないし、こんな所で出会うとしたら、つまりそういうことだ。
「早く行こう。せっかくの入学式に遅れちゃうよ 」
笑顔で手を差し伸べられる。久しぶりに向けられたその表情に、思わず見惚れてしまって……。数秒後に我に返り、差し出された手を握る。少し冷たい指先に幸の体温を感じ、体の奥から温まるように思えた。
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