第18話 生まれ変わり・・・
忌まわしい飛行機事故から十日程が経過していたある朝。
既に新しい年が幕を開け、新年を祝う町並みの情景があちらこちらで彩られていた。
大阪の町も進也の勤めていた会社もホルモン屋の周囲の喧騒も、まるで何もなかったかのような日々が戻っていた。
進也が住んでいた部屋の後片付けは秀雄が率先して行い、親方夫婦も手伝った。その間、進也の元妻が顔を見せることは一度もなかったが・・・。
部屋に残されていたリナとの思い出の品も、もはや誰も語れる者も無く、ガラクタ同然となってしまっていた。
片付けが終わって伽藍堂となってしまった進也の部屋に、その後も時折り尋ねて来ては相棒の思い出を余すことなく拾っている秀雄の姿があった。そして帰りには必ずホルモン屋に立ち寄るのである。
「親方、オイラはやっぱりアイツが好きやった。あいつに憧れてたんや。仕事も出来るし、女の受けもええ。どないしたらアイツみたいになれるんか、ずっと追っかけてたんや。せやけど結局わからんかった。なんもわからんまま逝ってしまいよった。」
「シンちゃんもお前さんに憧れとったで。それにきっとシンちゃんは特別なヤツやったんや。せやからあんな若い娘でも惚れよんねん。アイツは特別なヤツやねんで。」
「そや。アイツは特別なヤツや。そやからシンちゃんが死んだって信じられへんねん。あんまりふざけたことせんかったヤツやけど、今度ばっかりはふざけたことしてでも帰って来て欲しいねんけどな。」
「人間の運命なんてわからんもんやな。幸せの絶頂やったやろうにな。」
「リナちゃんも笑顔がステキなええ子やった。まだまだあの子に聞きたいこといっぱいあったのに。あの子の明るくて可愛い笑顔が今でも浮かんでくんねん。絶対に幸せになって欲しい子やった。今でもあの二人のことを思うと涙が止まらん。」
その時だった・・・。
どこからともなく二匹の犬が店に現れた。愛嬌良く、親方と秀雄の足元で尻尾を振ってあいさつをしている。
「ん?どこの犬や。二匹とも首輪もしてへんし。それにしては綺麗な犬やなあ。今どき野良犬もおらんやろうに。」
一匹はやや大き目の中型犬。白い体に茶色い耳とフサフサとした尻尾がどことなく愛嬌を感じる。もう一匹は上品な感じの犬で、白い中型犬よりは少し小さい。種類はわからないが、クリクリとした可愛い目をしている。親方は二匹を膝元に呼んで頭を撫でる。
大きい方の犬は明らかにオスだ。小さい方はどっちかなと思って、親方がひっくり返して陰部を覗こうとすると、大きい方の犬がいきなり吠え出した。明らかに小さい方の犬を守ろうとして威嚇している吠え方だ。
「ヒデちゃん、大きい犬はオスで小さい方がメスやぞ。しかもメスに手を出そうとするとオスが怒りよる。つがいやでこいつら。」
そして二匹の犬は秀雄の隣の椅子に異常な程の関心を示す。
「親方、以前にな、シンちゃんは自分のことを犬の生まれ変わりやって言うてたことあんねんけど、逆にこいつらシンちゃんとリナちゃんの生まれ変わりやないか。ほれ、オイラの隣に座ろうとしよる。」
「ホンマやな。せやけど、どっから来たんやろ。いきなりやな。」
「ほれ見てみ、メスの頭を撫でてるうちはオスも大人しいけど、チューしようとしたら吠えよるで。やっぱ、こいつらシンとリナの生まれ変わりやで。」
秀雄は二匹の様子をしばらく観察しながら、やがて親方に嘆願する。
「なあ親方、こいつらをシンとリナっちゅう名前にして、ここに置いてやれんか?オイラも及ばずながら協力させてもらうし。毎日会いに来るし、散歩もしたるし、ええやろ?お願いや。何やこいつらどんどんシンちゃんとリナちゃんに見えてくる。」
「せやな、ホンマやな。ワシの目ぇにもシンちゃんとリナちゃんに見えてきたわ。よし、ワシが面倒見たる。二人が好きやった肉は売るほどあるんやさかいな。」
親方がそういった途端、二匹の犬は秀雄の隣にある椅子の足元にちょこんと座って二人を見つめた。
「ウオン。」
「アウン。」
穏やかな鳴き声だった。
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