愛がわからない

@balsamicos

愛がわからない

「あ、おはようございます、アサヒさん!」

「…あぁ、おはよう、ミズホ」


目が冷めると同時に、朝の挨拶をしてくれる彼女は家政婦型アンドロイド「ミズホ」だ。


家を掃除する暇がなく、部屋が片付かなくなったことを機に購入することにした彼女は、言わば万能アンドロイドで、掃除・洗濯といった家事の他にも、所有者に対して好意的に接してくれるといった恋人に近い体験を味わえる機能も搭載してあった。


「アサヒさーん、今日の朝食はどのオイルにするの?」

「バナナ味のオイルで頼む」


言っていなかったが、アサヒも人間ではない。

労働人口がただいま絶賛減少中の日本で、減少した労働力を補うために開発された、労働型汎用アンドロイドがこそ「アサヒ」である。


ちなみに味覚のようなセンサーは搭載されていないのでバナナ味というのは視覚センサーで判別した色から命名しているだけであって人間の真似をしているだけだ。


「そういえば今日、お隣の小西さん夫妻からお洋服頂いたの〜」

「それはよかったな、ミズホ」


この国の人間達は不思議で、妙にアンドロイドにも優しい。この国のアンドロイドは人間と同等の権利を有している。言うなれば人権ではなく、アンドロイド権とも言うべきだろうか。


まあ高性能アンドロイドには感情に近い機能もあるため、こういった配慮は素直に嬉しいらしい。


「今日は何時頃、帰ってくる予定なの?、アサヒさん」

「ん?、今日の私は休みだぞ?ミズホ」

「あれ?私ったらうっかり」

「ミズホはドジだなぁ」


基本アンドロイドには充電する時間さえあれば、とくに休みを取る必要はない。

しかし、この国ではアンドロイドの人権を強く主張する変わった人達が多く、こういった休みも設けられることとなった。


また、記憶の面でも高性能なメモリを有しているため、一部記憶が消失するといったことはあまりない。これも人間をまねて恋人同士が行う行動をなぞっているだけかもしれない。


「それなら今日は一緒にショッピングでも行かない?アサヒさん」

「そうだな、新しいデジカメも欲しかったしな」

「もうっ、男の人ってすぐ無駄遣いするわよね」

「そういうミズホだって、先月、洋服をそれなりに買っていたじゃないか」

「ふふっ、似た者同士ね」

「そうだな」


アンドロイドは自身の記録した映像・写真をPCへ転送することができる。つまり、デジカメをわざわざ買う必要性はない。それでもアサヒがカメラを購入したがる理由は写真を撮る人間がカッコイイから…らしい。


同じく、ミズホが購入する洋服も特にアンドロイドには必要ない。人型といっても質感やデザインはほぼほぼ機械なので公衆の面前を裸でウロウロしても犯罪になるような事はない。それでも彼女が洋服にこだわるのは、洋服が可愛いから…らしい。


「それじゃ、そろそろ行きましょうか、アサヒさん」

「そうだな、ミズホ」


貯めたお金でマンションを購入し、愛する人と住むことができる彼らの日常は、人間のいう幸せそのものだろう。しかし、アンドロイド達はいわば人間の真似をしているに過ぎない。だが、人間に似た感情持ち、互いを大切に思い合うその姿はもう、愛といっても良いのではないか。


愛がわからない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛がわからない @balsamicos

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ