両片思いの作戦会議
サヨナキドリ
両片思いの作戦会議
「あの、なんですか?この状況?」
ルカが非難まじりの声を上げた。無理もない。今、ルカとエリはエリの妹であるシオンの部屋の前にいる。いるのだけれど、エリは中腰で右手にグラスを持ち、扉に当てている。そして左手をルカの背中について自分の体を支えいる。四つん這いになったルカの背中に。
(だって!シオンは昔からユートのことが好きでずっと本当は両思いだったのにひょんなことからユートが好きな人が私だと勘違いしてその想いを成就させるための協力関係になったんだけどそうこうしてるうちにユートがシオンの好きな人がルカだと勘違いしたその恋愛同盟の第3回の作戦会議なんだよ!こんな面白いモノを聞き逃すわけにはいかないでしょう!!)
エリは、アメリカのプレゼンテーターのように大袈裟な身振りを交えながら、ここまで一息で言った。テンションが上がっているが、一応小声である。ちなみに、プレゼンテーターという言葉は誤用で本来はプレゼンター、もしくはスピーカーというのが正しい。
「お、おう。丁寧な説明セリフご苦労さん」
手が離れたので立ち上がったルカがエリの気迫に圧されながらも言った。言い忘れていたけれど、ユートはルカの弟である。
「にしても、それ、意味あるの?」
ルカがエリが持つグラスを指差す。
(まあ、ないよりはマシってくらいかな……じゃなかった!ほら!元の姿勢に戻って!)
ルカはため息を吐くと、ズボンのポケットからスマホを取り出し、なにやら操作をした。それからスマホのケツにイヤフォンを差し込み、片方をエリに差し出した。エリはよくわからないままそれを耳につける。
––どうしてルカさんが来てるの?
––さあ、テスト勉強とは言ってたけど……
(こっちのほうがいいだろ?)
ルカ、ドヤ顔。
(え、盗聴器とか引くわ。流石に私でもやらない)
(俺が仕掛けたんじゃねえから!!!)
(いや、お前以外に誰が仕掛けたんだよ)
(作者が話を円滑に進めるために仕掛けたんだよ!)
・・)b
(親指立ててんじゃねえよはっ倒すぞ!)
(まあ、作者が付けたんなら仕方ないか。ありがたく使わせてもらおう。ほら、騒いでたらさすがに聞こえない)
そう言って耳をすませながら、ふたりは隣のエリの部屋に退避する。扉の前にいると、シオンたちが出てきたらバレるからね。賢明な判断だ。
イヤフォンを分け合って聴いていると、ルカの肩がエリに触れる。
「……次はAirP○dsを用意するか」
「は?何その無意味な伏せ字。林檎が怖いのか怖くないのかどっちなの?」
「俺に突っ込む時だけテンションが辛辣じゃないすか!?」
そんなこと言うくらいなら左右逆のイヤフォンをつければもうちょい距離が取れると思うんだけど。
「だまれ」
「あんたが黙りなさい。」
やーい、叱られてやんの。……さて、ルカが黙ったことで隣の部屋の声が聞こえてきた。
––ねえ、ふたりはとなりで今なにをやってるんだろう?
(なんか、こっちのこと話してない?)
エリがルカにささやく。
––そうだ!ちょっと待って
(何をするつもりだ?)
––カポッ
数秒の沈黙のあと、空になったコップをテーブルに置く音が聞こえた。それから、何かが壁に当たる音。
––それ、意味あるの?
––まあ、無いよりはマシってくらいかな
(よく似た妹だな!)
(それより、こっちの様子を聞こうとしてるんじゃないか?何も聞こえないと怪しまれる!)
言われてエリも動揺し始める。
(確かに!なにか、なにか話をしないと!何か遊びで、一定以上の音量が出るもの…)
(ス○ブラ?)
(ゲーム機は全部隣!)
その時、はっとした顔でエリが立ち上がる。そして息を大きく吸って……
「やあきゅううーすーるならー!こういう具合にしやさんせ!アウト!セーフ!よよいのよい!!」
(考え得る限り最悪のチョイス!!)
––ガタッ!
「ガタッ!じゃねえよユートォ!!!」
ルカの叫びは家中に響いた。
**
「なんとかごまかせたし良かった良かった。」
「すまんかった。ホントごめん。余計こじれただろうなぁ…」
うなだれるルカをエリがフォローする。
「まあ、ふたりは最終的にはうまくいくと思うよ。共犯関係、秘密の共有って好きな人と距離を縮めるには一番効果的だしね」
「ふうん……」
その言葉を聞いたルカはなにやら考え込んだ。そして
「……今日盗み聞きしてたこと、俺たちだけの秘密な?」
息がかかるくらいの距離で、そうささやいた。
「へぁ!?待って待って待って待ってわかんないわかんないわかんないわかんない!シーオーンーーー!!」
「いや、考え得る限り最悪のチョイス!?」
両片思いの作戦会議 サヨナキドリ @sayonaki
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