アカデミカルパレード地獄へのいざない

ちびまるフォイ

ハエとり棒

「アカデミカルテーマパークへようこそ!

 ここでは最新技術をアトラクションに乗りながら楽しめます!」


新しくできたテーマパークはほかと少し風変わり。


「それでは、スプラッシュ・アカデミック、はっしーーん!」


「うおおおお!?」


アトラクションが動くと激しく左右に揺さぶられる。

その間にも座席の後ろからは最新技術についてのアナウンスが流れ、

眼の前をすぎる風景には技術解説の画面が目まぐるしく展開する。


アトラクションが終わる頃には身体は恐怖で疲れ、

頭は知恵熱で疲れていた。


「いかがでしたか?」


「な……なんでアトラクションと技術の紹介を一緒にしたんですか……」


「恐怖体験は感動よりも深く心に刻み込まれます。

 それと勉強を合わせることで、より深く学べるんですよ」


「すさまじいショック療法……」


「でも、満足感がありませんか?」


「……たしかに」


最新技術や最先端の研究内容を知ることは未来を知ることに近い。

知識欲も満たされて最高に充実した気分だった。


パーク内では頭にきく食べ物が食べ歩きできるように売っていたり、

アトラクションを経験して思いついたアイデアを持ち寄るコーナー。


マスコットの「モッキー」というモルモットと握手できたり

パレードという出張講座なども定期的に行われていた。


最初こそガリ勉しか来ないようなマニア向け施設かと思っていたが、

誰にでもわかりやすく、楽しく、深い満足感が得られるパークの魔法にすっかり魅了されていた。


『 アカデミカルテーマパークはまもなく閉園の時間となりました。

  どなた様も退場ゲートからお帰りください 』


「あっという間だったなぁ」


テレビでは伝えられず、ネットでも知りえない最新研究。

それらを貪るように見ていた結果時間を忘れていた。


退場ゲートにいくと、並んだ人は順に頭に装置を取り付けられていた。


「……これ、なにをやっているんです?」


「うちでは"魔法を解く"と言っています。

 まぁ、簡単に言えば記憶消去です」


「え」


「このパーク内は世界でもまだ未公開の技術や特許所得前の最新技術です。

 外に持ち出されてしまっては悪用されかねませんから」


「……なるほど」


装置を取り付けて数秒後にはパーク内で知り得た情報の一切がふっとび、

心には満たされた知識欲からくる満足感だけが残った。


「これで魔法解除完了です。またお越しください」

「ええ、それはもう」


完全に記憶は消去されていた。




でも、忍ばせていたスマホの動画はきっちり残っていた。


「ふふふ、撮れてる撮れてる」


動画データを公開するとまたたく間に人が食いつき大人気となった。

最新技術は多くの人の手によって改良・改悪されて広まった。


より社会が便利になったことで俺のもとには感謝が多く寄せられた。


『あなたがこの技術を公開したおかげでこんなに便利になりました!』


園内に出ても満足感が得られるなんて、あのパークはまさに最高だ。


ふたたびパークを訪れると退場ゲートにゴツい機材が並んでいた。


「あの、これは?」


「スーパー記憶データ消去くん、ですよ。

 実は最近うちのパークの最新研究を持ち出した人がいましてね」


「なんですって! そんなひどいことを!!」


俺は声に感情を乗せて訴えた。


「そうなんです。そこで記憶消去だけでなく

 所持している端末データをふっとばす装置を開発したんです」


「それはすごい……」


「なんせ、うちのキャストは世界に誇る最高最新の研究者たちですから」


今回も入場ゲートを通り園内のアトラクションを楽しんだ。

アトラクションで刻み込まれる最新の学問はいつも日替わりで、

どんなに訪れても秋が来ることはなく、訪れるほどに満足度が上がっていく。


『 アカデミカルテーマパークはまもなく閉園の時間となりました。

  どなた様も退場ゲートからお帰りください 』


「っと、もうそんな時間か」


退場ゲートには目を光らせたマスコットのモッキーが待ち構えている。


こっそり忍ばせていたスマホを取り出すと、

パークのトイレの窓枠にそっと置いてから退場ゲートへと向かった。


「それでは記憶を消去しますね。おや? スマホは?」


「パーク内に持ち込んだらデータ吹っ飛ぶんでしょう?

 それだったら、いい機会だし捨てちゃって買い換えようかと」


魔法を解かれた後に家につくと、すでに最新技術が公開されていた。


「よしよし、計画通りだ」


パーク外で待機させていた「受け取り役」が俺のスマホを回収し

退場ゲートを経由せずにうまく公開してくれた。


世界はますます技術革新を遂げて、より便利になった。

気分はまるでねずみ小僧。


次にパークを訪れると、今度は園内にたくさんの機械が置いてあった。


「あの、これはいったいなんですか?」


「記録端末センサーです。なにか記録している端末があれば

 即座に見つけてくれる機械ですよ」


「ずいぶん物騒ですね」


「はい……退場ゲートをいくら強化しても、それを逃れて

 うちの技術を勝手に公開する人がいて困っているんですよ」


「でも、それって悪いことなんですか?

 みんなに技術が行き渡ったほうが社会のためじゃないですかね」


「ひとつの方程式の発見で核爆弾が作られたり

 ネットの普及で近所のお店が潰れたりするのはいやでしょう。

 うちはあくまでも知識欲を満たすためだけにしたいんです」


「そうなんですね」


「でも、あなたは年間パスポートでよく来てくれますし

 本当に私どもキャストも本当に嬉しく思っています」


「ええ、俺は勉強大好きですから!!」


話しながらもセンサーに引っかからないかだけが不安に感じていた。


でもどうやらセンサーは一部の端末のみに反応するようで、

眼球に仕込んだコンタクト型カメラレンズには反応しない。


「やっぱり技術は広めたほうがずっといいに決まってる」


このコンタクトも、最初のアイデアや技術はこのパークが発端だった。

それを持ち出したことで商品化されてこうして手元にある。


これならもう特定されることはない。


『 アカデミカルテーマパークはまもなく閉園の時間となりました。

  どなた様も退場ゲートからお帰りください 』


今度はゆうゆうと退場ゲートを通り、記憶を消去された。

家に帰ってからコンタクトの記録を公開してまた感謝された。


承認欲求に知識欲まで満たされるこの瞬間がなによりも最高だった。


あっちのテーマパークがどんな最新研究をしていようが、

あたまでっかちの研究者に悪知恵の働く悪人を捕まえることなどできない。


「さて、今度は見たい人からお金でも取ってみようかな?」


パークで楽しむだけでお金がもらえるようになれば最高だ。


次にパークを訪れると、新しいアトラクションができていた。


「これは行くしか無いだろう!」


新しいものほど公開するときの価値がある。

いったいどんな最新技術と研究が体験できるのか楽しみだ。


「ようこそ、こちらのアトラクションにお並びですか?」


「はい」


「このアトラクションは当パークでも最高度の恐怖があります。

 なので、パークを一定以上来場されているツウしか体験できません」


「それならもうバッチリですよ! 俺ほどツウな人はいませんから!」


しっかりとコンタクトカメラの録画モードを確認する。


「…………あ、お客様は大丈夫な人ですね。さあどうぞ」


アトラクションはフリーフォール型で最高恐怖というだけはあり怖そうだ。


「ドキドキしますね。ココでは何が学べるんでしょう」


「最新のカメラ技術です」

「まじですか!!」


カメラに関する研究はとくに需要が高い。

この技術を持ち出せれば、ますます巧妙にかつ確実に高画質で持ち帰られる。

まさに盗撮役のためのアトラクション。


「3,2,1,スタート!」


アトラクションは一気に空へと打ち上がり、そのまま一気に落ちる。

その間にも眼の前には最新技術や研究がサブリミナルのごとく流れて心に刻まれる。


アトラクションが止まると満足感が残った。


「いやぁ、怖かったです。でも思ったほどじゃなかったですね」


「そうですか?」


「パーク内にあるスプラッシュのほうが怖かったです。

 最高恐怖というのはちょっとおおげさすぎましたね」


「いえいえ、何言っているんですか。

 アトラクションは終わっていませんよ?」


「え?」


ふたたびアトラクションが動き出す。

今度は上にではなく横に、パークの外に向けてゆっくり動き出した。




「逮捕されるまでがこのアトラクションなんですよ」



外で待ち構える警察を見て最大級の恐怖が迫った。

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