いつか出逢ったあなた 23rd
ヒカリ
第1話 「音、星高の佐竹君をふったって本当?」
〇朝霧好美
「
あたしがそう問いかけると、
「だって、カッコばかりなんだもん。」
だるそうに答えた。
カッコばっかり…
カッコばかりの男って、最高じゃない。
プライド高いから、褒めてりゃ丸くおさまるし。
見た目がいいなら、連れて歩くにはもってこいよ。
あたし、
お互い親や兄弟がバンドマンって共通点もある。
いわば、有名人とはいつでもお知り合いになれちゃう環境だけど…
あたし達は、一般人と結婚する!!を目標に、今日まで普通に女子高生をしてきた。
…でも。
実は、あたしは音には秘密にしてるけど…
最近、その身内が所属してるビートランドっていう音楽事務所に入り浸っている。
業界人を、なんとなーく偏見で固めてた気がしたあたしは。
ある日…
おじいちゃんに『見学に行かせて』って頼み込んで、ビートランドのパスをもらった。
今まで全く興味を示さなかったあたしがそんな事を言ったのが嬉しかったのか、おじいちゃんはすぐにパスを用意してくれた。
見学に行きたかった理由は、まあ…
ぶっちゃけ、おねだり。
家ではダメでも、人前なら『いいよ』って言ってくれるかも。と踏んで、あたしはまず、下の兄でふる
「何。最近マメに来てるけど。」
開口一番、
「おねだりに来たの。」
あたしも、
「あははは。あんたら兄妹って、漫才師みたいだよね。」
「おねだりって、おまえ…僕はまだ学生なんだって。」
「来年デビューでしょ?絶対売れるって。」
「じゃあ、すでにプロの
「
「じゃ、ここにいる義姉に…」
「血を分けた兄の方がいいよねえ。」
「…何が欲しいんだよ。」
「コルネッツのクマ。」
あたしは、おねだりポーズで訴える。
「…まだ集めてんの?クマ。」
あたしは小さい頃からクマ関係(シビアはのぞく)の物を集めてる。
見た目が大きな女だし、無口?だから…
全然似合わないって言われるんだけど…
あたしは、かわいいものが大好き。
「あれ?コルネッツのクマって、この間義父さんが買ってこなかったっけ。」
「あれは、イギリスのやつなの。アメリカのが欲しいんだ。」
あたしの目は、キラキラ。
「アメリカのって…僕にアメリカまで行けって?」
「通販でいい。」
「…カタログ見せて。」
「あ、アメリカのなら、頼んでやろうか。」
今まで、ずっと部屋のすみっこでギター弾いてた
「え?」
あたしと
「
「あ、そっか。通販より安心かも。
「…いいかな…?」
あたしが遠慮がちに
「いいさ。支払いは
……
ときめいてしまった。
あんなに毛嫌いしてた…サラブレッドに!!
* * *
〇
「ちくしょ〜…俺の何がいけなかったんだよ…」
めったにこんな所には出入りしないけど、
面倒ではあったが…まあ、
今、我が校の生徒が出会いを求めてやって来るという、噂のDに来てみるのも悪くないかな…と。
「なあ、
クラブDは、今日も学生のたまり場。
クラブと言うからには、アルコールもガンガン出してる店と思われがちだが、数年前から、ここは学生向けの店になった。
そんな店で飲む飲み物は、一見アルコールに見える洒落た感じの物だが…
制服姿じゃ、それもサマにならない。
とか言いながら。
俺が手にしてるのは、トロピカルフレッシュサイダー。
この店で一番派手な飲み物なのに、一番人気がないらしい。
俺は見た瞬間に、これに決めたのに。
「おまえはいい奴だよ。だいたい、おまえをふった女って、そんなにいい女なのか?」
サイダーを飲みながら問いかけると。
「えっ、
周りの悪友達が俺を囲んだ。
「…有名人か?」
「有名だねー。」
「どんな風に?」
「まず、父親がF'sのドラマーで、母親がSHE'S-HE'Sのベーシスト。」
「へえ…すげえな。」
音楽には疎いが、どちらのバンドも知っている。
なぜなら、三年前に片想いしていた女子が、F'sのファンだった。
そして、去年片想いしてた子が…SHE'S-HE'Sのファンだった。
「で、兄貴がDEEBEEのギタリストだよ。」
えーっ!!
心の中で叫んでしまった。
半年前まで片想いだった子が、追っかけしてるバンドじゃないか!!
…何となく、敵のように思えてきたぞ…
「へ・へえ、で、本人は何か音楽を?」
「いや、業界には興味ないらしい。でも、いい男とばかり付き合ってるって噂だなあ。」
「そうそう。
「本当かどうか知らないけど、
クラスメイトのMが小声でそう言った途端…俺たちの目は、
「…
「なんだよ…」
「
「……」
「…キスは、すぐにしたけどさ…」
キスはすぐにした!?
「その次は?」
「…公園で、胸触ったら…こんな所で何すんのよって…叱られた。」
「えーっ!!で?どこで次に?」
「…無理だよ。あいつ…オシャレなホテルとかさ…そんなの言い始めて。俺、バイトも辞めたから金ないし…」
「社会人と付き合ってたから、贅沢に慣れちまってたのかもな…
…ホテル…
ホテルでなら、できるって事か?
それなら…俺は好都合だ。
「…噂をすれば…
クラスメイトのKがそう言うと、
「俺は帰る!!」
カバンを持って、裏にある寂しい出入り口に走って行った。
「あーあ…
「仕方ないよ。入れ込んでたもんな。」
「社会人と付き合う前から好きだったからなあ。」
「やっと片想いが実ったって言ってたのに…」
「…
母から『似合わない』と嫌われている銀縁メガネ。
俺はそれをかけ直すと。
「許せんな。」
入り口を見る。
「おお…
「そうだ!!
自分で言うのもなんだが、星高ではNo.1の呼び名がついている。
気が付いたら周りが囃し立てて、生徒会長にもなってしまった。
確かに俺は、頭も顔も運動神経もいい。
王寺グループの一人息子で、行く末は安泰。
…ただ一つ、苦手な事があるのを除いては…
俺は、完璧な男だ。
* * *
〇
「浅香、音さん?」
コノとDに来たものの…今日は星高の制服がやたら目につく。
ここは椅子がなくて、高くて丸いテーブルを囲むように、みんなが飲み物を持って集まる。
あたしとコノは二人、窓際の明るいテーブルで
あたしの許嫁。
見た目はいい男なんだけど、職業が絵描きで、恰好も独特。
なんだか両親に上手く丸め込まれて、あたしは許嫁の話を成立させてしまった。
…好きになれるかなあ…
でも、確かに学生結婚にはワクワクする。
でもあの男…
指輪とか買ってくれるのか。
「ここ、一緒にいい?」
「あー、ごめんね。今日は女同士で語ってるの。」
コーラ片手の男二人組。
あたしの名前だけ呼ぶってどうよ。
コノの事も、ちゃんと呼べ。
「ねえ、今の右側、ちょっといい男だったよ?」
「えー、コノああいうの好み?もっと濃い顔が好きだったじゃない。」
「たまには違うのも試したくなるじゃない。」
「ほんっと…コノってこっそり上手くやるわよね…」
あたしは派手に見られがち。
だから、誰と付き合ってもすぐに噂になるし、『ヤラせてくれる女』なんて噂されちゃってる。
まあ、気に入ったら寝る。
だから、ヤラせてくれる女って言うのは…まあ言い方おかしいけど、間違いでもない。
だけどコノはあたしより男の数多いはず。
あたしは、その日限りなんて無理だけど。
コノは全然後腐れなく、一日だけデートしてバイバイ、とか。
平気らしい。
…惚れっぽいしな。
「ここ、いい?」
「は?」
声の方を向くと、銀縁のメガネに…なんだか、げっ。と言いたくなるような、カラフルな飲み物を手にした…星高の制服。
「浅香、音さんだよね。」
「……」
あたし、コノと顔を見合わせる。
て言うか、あたしとコノ、女が二人で居るのに…一人で来るってどうよ。
「あたし達、もう帰るから。」
「えっ?今来たばかりだろ?」
「でも、今日はもう帰るから。」
何か言いたそうな銀縁メガネを残して、あたしとコノは外に出る。
「なんかさあ、すごいジュース持ってたね。」
コノがクスクス笑う。
「ほんと。おかげでメガネしか記憶に残ってない。」
「あはは。言えてる。」
「ね、うち来ない?」
「あー、いいねえ。行く行く。」
コノは楽だ。
同じぐらいの身長、スタイルも変わんないと思う。
たぶん、それぞれ自分の方がいいと思ってるだろうけど。
それに、あたしよりずっとサバサバしてて、見た目はあたしより女っぽいのに…男前だ。
早くコノにもいい人が見つかるといいな…。
* * *
〇王寺善隆
「王寺でもダメだったか…」
その言葉に、少しプライドを傷付けられた。
こう言ってはなんだが、星高では俺の誘いに乗らない女子生徒はいない。
…あえて誘わないけれども。
一人を選ぶなんてできない。
みんな可愛いし、みんなが大好きだ。
俺の事を慕って、手紙をくれたり弁当を作ってくれたり…
そんなアイドル的存在に、特定の彼女なんていてはいけない。
「…まあ、これは予想の範囲内だ。」
メガネをかけ直して言う。
「とりあえず…話すきっかけを作らなきゃな。」
「おお…王寺が本気になった。」
「こりゃマジで佐竹の敵が討てるかも!!」
「…ところで、もう一人の女は?」
できるだけ情報が欲しくて、誰にともなく問いかける。
「ああ、朝霧好美?」
「朝霧…」
その苗字には聞き覚えがあった。
なぜなら…
「もしかして、父親がF'sで、兄がDEEBEE?」
「正解。」
…なんてこった。
オマケの女まで、有名人の娘とは…
つい、こっちにも憎しみが湧く。
彼女たちに罪はないが、俺が片想いをしていたあの子たちが好きだったバンドには…どうしても、沸々と言いようのない憎しみが湧いてしまうのだ。
そして俺は翌日から、桜花の校門に張り付いた。
学校から出てくる時、取り巻きを突き放すのに苦労したが…
俺が誠心誠意を示すと、放課後だけは一人にしてくれるようになった。
張り込んで三日目。
ようやく、浅香 音が一人で校門から出てきた!!
しばらく様子を見て、表通りに出た所で…さりげなく近寄って声をかける。
「浅香、音さん。」
すると浅香 音は…
「えーと…執事君?」
「……」
執事…君?
「あー…名前、知ってくれてるんだ?」
ちょ…ちょっと、ドキッとしてしまった。
今までの女の子にないタイプだ。
「学校で噂んなってた。」
「どんな噂?」
「王寺君は、みんなのものじゃなきゃダメなんだって。」
「なんだそれ…一緒に歩いていい?」
「え?」
「いや、彼氏とかいるなら、悪いから。」
とりあえず、気遣っている様子を見せる。
女子には優しく、そして気を遣いなさい、と母に育てられた。
「彼氏はいるけど、いちいちそういうの気にしない人だから。」
「あー…やっぱ彼氏いるか…」
佐竹と別れたばかりなのに、なんて女だ!!
「いないと思う?」
「だよね…で、その彼氏とはいつから?」
「え?」
どうしてそんな事を聞く?って顔だが、俺はニッコリ笑ったまま。
「あー…最近よ。」
「へえ…浅香さんて、初めての彼氏っていつ出来た?」
「…変な事聞くね。うーん…いつだろ。中学一年の時は、もういた気がする。」
そんなに早くから、男を惑わしてたのか!!
「彼氏を選ぶ基準って何?」
「えー?」
眉間にしわ。
でも俺は笑顔。
「基準って…別に、タイミングとかフィーリングじゃないかな。」
「ふうん…佐竹と付き合ったのは、何キッカケ?」
「あ、佐竹君と知り合い?」
「生徒会で一緒なんだ。」
「へえ…佐竹君も生徒会入ってたんだ。」
「ああ。頼りにしてる。」
「ふうん…キッカケって…佐竹君から告白されて、まあその頃はフリーだったからいいかなって。」
「佐竹の事…好きだった?」
「まあ、見た目は好みだったわね。」
「そっか…佐竹みたいな見た目が好きなのか…」
「別に佐竹君がベストなわけじゃないわよ。あなただって、その似合わない銀縁メガネを外したら、印象変わるだろうし。」
思わず、母の言葉と重なる。
「…似合わないかな。」
メガネを外す。
確かに俺は、メガネがない方がいい男だ。
そんなの分かってる。
「…うん。ない方が優しく見える。」
「冷たく見えてた?」
「んー…でもさ…」
「ん?」
「もしかして、わざと冷たく見せてる?」
「……」
…なんだ?この女…
俺が…
俺の鎧が…
こいつには分かるって…?
「…ごめん…浅香さん。」
俺はうつむいて小さく謝る。
「何が?」
顔を上げて、浅香 音を見つめて言った。
「…彼氏がいるって分かってるのに、止められない。君の事、好きになった。」
メガネなしの俺に言われた浅香 音。
どうだ。
…でも、俺の方が少し…
やられてるかも…。
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