第2話 「ねえねえ、浅香さん。Dで、星高の王寺君と居たって本当?」
「ねえねえ、
違うクラスの女子達に話しかけられて、頭の中で繰り返す。
星高のオウジ?
「あ、あれじゃない?」
コノが髪の毛を指に巻きながら言った。
「ほら、帰る少し前に、何か派手な飲み物持ってテーブルに来た男。」
「…ああ、銀縁のメガネかけてた奴?」
あたしが空を見つめながら言うと。
「奴って…!!
握りこぶしで言われてしまった。
一番人気と言われても…
「へー、あの人一番人気なの?」
コノが楽しそうに身を乗り出す。
「見た目だけなら、No.2の
「
女子達は、コノの前で人差し指を立てて。
「今時のいい男は、顔だけじゃダメなのよ。」
って。
「そんなの、分かってるわよ。」
コノが、唇を尖らせて。
あたしは、それを見て少し笑ってしまった。
コノは、惚れっぽい。
だから、まずは顔から入る。
それから、ギャップのある男にもかなり弱い。
「
「…
「知らないの?リゾートホテルや高級マンションって言ったら、
知るか。そんなの。
あたしは苦笑いしながら、みんなの会話を聞く。
「
「へえ。だから何?」
「だから何って…
「落とすって。」
笑ってしまった。
そんな駆け引きは、もう要らない。
だって、あたしは学生結婚に向かってまっしぐらなんだもの。
そりゃあ、御曹司と言われると…少しグラグラ来るけど。
……恰好がダサくても。
……自転車しか乗ってなくても。
「あたし、その
窓の外に目を向けてそう言うと。
「絶対ね?絶対なのね?」
みんなは、念を押して。
「
…あたしは、アイドル並みの彼の人気に、少し同情すらしてしまった。
「
コノが違うクラスの男子と帰るって言うから。
あたしは、一人でぶらぶらと表通りを寄り道しながらの下校。
最近、
「はい?」
音楽屋の前で声をかけられて、振り向くと…
「えーと…執事君?」
半笑いで、ふざけて言ってみた。
噂の
「あー…」
「名前、知ってくれてるんだ?」
はにかんだ笑顔。
…なんだ。
笑うと可愛いな。
「学校で噂んなってた。」
「どんな噂?」
「
「なんだそれ……一緒に歩いていい?」
「え?」
「いや、彼氏とかいるなら、悪いから。」
ふうん。
気遣いできる奴。
なるほど。
御曹司に持ってる偏見が、ちょっと変わったなあ。
「彼氏はいるけど、いちいちそういうの気にしない人だから。」
「あー…やっぱ彼氏いるか…」
「いないと思う?」
「だよね。」
隣を歩きながら、
いつから彼氏って存在がいたのか。
彼氏を作る時の基準って何なのか。
前に、
こんなの聞いて、どうするんだろ。
「
「まあ、見た目は好みだったわね。」
「そっか。
「別に
あたしが
「…似合わないかな。」
「うん。ない方が優しく見える。」
「冷たく見えてた?」
「んー…でもさ…」
「ん?」
「もしかして、わざと冷たく見せてる?」
「……」
あたしの言葉に
それから、少しだけうつむいて。
「ごめん…
小さく謝った。
「何が?」
「…彼氏がいるって分かってるのに、止められない。君の事、好きになった。」
メガネを外したままの顔で、まっすぐにあたしを見て。
ちょっと…キュンとするような声でそう言った。
「やあ。」
「……」
目を丸くしてるあたしの後で。
女子生徒たちが、悲鳴とも雄叫びともとれる声で、騒いでる。
放課後。
帰ろうとして校門を出ると、
「待ってたんだ…一緒に帰っていいかな…」
「えっ。あー…それはー…」
背中に聞こえる声を思うと、嫌がらせとか必須だよなー。
面倒だなー。
そりゃ、あたしが
キュンとはしたけど…好きって気持ちには届いてないし。
…ん?
でも、それって
「分かった。いいよ。」
とりあえずは、お試し期間と言うか。
別に
あたしが隣に並んで歩きはじめると。
「いいのー?
「あ…君は…」
「音の幼馴染、
ニッコリ。
「あ…あ、よろしく…」
なんだろ。
もしかしたら、普段はこんな感じで全然イケてないのかも?
「いいのー?
げっ。
そうだった。
月水金は
あのチャリで。
今日は水曜日!!
「そうだったー…」
額に手を当てて考えてると。
「あ…彼氏が迎えに?」
「うん。」
「そっか…」
「彼氏に会ってみたい。」
とんでもない事を言った。
「いやっ…それは…ちょっと…」
「えー、どうして?
コノの言葉に目を細める。
あんた、
目でそう訴えると。
なんなら、あたしが
みたいな笑顔のコノ。
ちくしょー…
そうこうしてると…
「
キコキコと少し変な音のする自転車と共に、
「と…あ、コノちゃんの彼氏?」
…あんた、今日も薄汚れたTシャツ着てくれてるじゃないのよ…!!
「うふ。そう見える?」
コノが
「はじめまして。
「…
オウジヨシタカ。
フルネーム、初めて知った。
「星高の制服だね。」
「はい。星高の三年です。」
えっ、年上だったんだ。
「
「へえ~すごいなあ。」
「
「僕?僕は絵描きなんだよ。」
「絵…描き?」
「うん。」
「それって…」
「売れない画家…ってやつですか?」
ズバリ、失礼な事を言った。
「うーん。残念ながら、まだ一枚も売れてはないなあ。」
図星かよ!!
って…あたし、
「どんな絵を描いてるんですか?」
「色々だよ。風景も描くし、人も描く。」
「で…」
「この寒空に、彼女を自転車で迎えに来た…と。」
「寒いかなあ?二人乗りだとくっつくから温かいよ。」
天然なのか、
「なんなら、うちのホテルにあなたの絵を飾るように言ってあげてもいいですよ。」
「えー、ホテルの息子さん?すごいねえ。でも、僕の絵は独特だから、なかなか気に入ってもらうには難しいかも。」
「もしかして…抽象画ですか?」
「うん。」
チュウショウガ。
なんだ、それ。
「それは…ますます成功するには難しいですね。いつまで画家を続けるつもりですか?」
「いつまでって、一生だよ。僕はもうそれを職業にしてるわけだから。」
「でも一枚も売れてないんでしょ?」
「うーん。やっぱり金額設定が高かったかなあ…先生に言われるがままにつけちゃったんだけど。」
「一枚、おいくらですか?」
「これぐらいのサイズのが、300万。」
それからゆっくり頭の中に金額が入って来た。
…300万…
「300万!?」
「うん。来月は個展開くから、一枚でも売れるといいなって思ってる。」
ニコニコの
さ…300万…
「売れたら、
「あ…あたしのために?」
「荷台にクッションつけるから。」
ガクッ。
「……」
…ダメだ…
お金に見えてきた。
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