12. また四話構成になっちゃう。目指している文章量に対してプロットがデカすぎる
教室の一同は、ユキエが急に大声を上げると注目し、それがソコツネさんに関するものだと理解して無言でどよめいた。
彼女を
ユキエは正面から一同に
「パシパシパシパシうるさいよ、誰がやってんの!?」
彼女が怒ったのは七割が騒音に
『ソコツネさん』と言う同級生と、そこに
ソコツネさんの席の前方の女子が二名、ククと笑い声を押し殺すのがユキエの目に入る。
「面白い? 人に輪ゴム打って打って、今何歳?」
そう言ってユキエがソコツネさんの席に寄り、輪ゴムの山を
「は、オマエ何?」
「何怒ってんの、気持ち悪」
「見て笑ってたんでしょ、ずっと。誰、それともアンタら?」
「はあ? んなわけないでしょ」
「じゃあ誰?」
輪ゴムを振り回して周囲の者に問うと、
「知らねーよ。こっち見んなブス」
その
一昨年まではわからなかった。
初めての部活で、気に食わないことがあれば声を上げた。その度に二種のうちの後者が増えていき、ある人数を超えると
その彼女の見立てだと、今後者はとっくにその数を超えている。
「これだけ居て一人も見てなかったの!?」
叫んでも答える者は無く、また数が増えた。
もうだめだ、ユキエは急速に
後は何が起きてもおかしくない。一昨年ユキエは怒り狂い続けたが連中には歯が立たず、一人の時は泣き続けた。
そして、終わってしまう。
アズマハルカは学校から消え、飛び降りた噂と跡だけが残った。
ミハル。
ユキエは
だが、同時に暗い思いが
――でも、ミハルはあの時は。
「みんな、テスト中は静かにしないと」
幼馴染は既に立ち上がっていた。
幼馴染はギギと音がしそうにぎこちなく首を回して、ユキエを見る。
「授業中にフザケるのはよくないけど、大声はみんなの邪魔になっちゃうからね」
ユキエの心の中を、
ミハルはユキエが返事をする間を作らせずクラスの面々にも呼びかける。
「トダさんまで怒るとさ、ほら、プリント増やす人だし」
それで集団の攻撃性が少しは
「つか私、
「そうそう! マキがやってないって
初めにユキエが突っかかった二名の女子が
ミハルもまたそういう人々の為に
「うーん、もうすぐ先生来ちゃうかもしれないし、他のクラスにも聞こえるかも……それだと……」
ミハルは少し声を震わせながら、自分の前の席の女子に話しかけた。
「ね、マナちゃん」
呼ばれた彼女は気さくに笑って答える。
「そうそう、謹慎になっちゃうから」
ふっ。
教室に小さな笑い声が起きた。
それはフジモリマナが
これでこの場は収まる。
ユキエを睨む者はもういない。ミハルがフジモリと目を合わせ、ほっと顔を綻ばせるのを見て、ユキエは自分の席に帰った。
ソコツネさんは最後まで
◆
まずいまずいまずい。
まずいよー。
ボクが頭を掻きむしると、勢いづいた腕が個室を仕切る板に当たりバンとトイレ中に響いた。
痛みも忘れてスマホの画面を見直す。
ソコツネさん㊙情報@sokotsunemaruhi
バカのヤマダとチクリ屋のモロズミはヤリモクでソコツネさんに近づいて
㊙情報
当然ボクの名前も入っている。『ソコツネさんに関った人間は人生全損する』――全損する者を
ユキのことだからいつか起きるとは思っていたけど……。
お昼にお
どうしたらユキを守れるか。
とりあえずうーみんさんに知り合いが
ユキ達は今日も図書室にいるけど、クラスタがちょっかい掛けてくるかもしれないし、もう帰った方がいいかな。
そう考えながらスマホを
teilor@HfuTsmZ2HGAiHTD
ワンドロ新作できた~😋
教室用の絵のことだとして、これから貼られるのだろうか。
先生の協力は得られてないけど、今teilorから情報を引き出せれば……。
ボクは南校舎二階のトイレを出て同階の四組の教室に向かった。
「あっ……」
教室に着くと出るところのイトウさんが気まずそうに目を反らしてきたので、わかりやすい人だなと思った。
「どうしたの?」
「ごめん、私……辛かったら、話を聞くぐらいは……」
と、伏し目がちに言う姿を見ればもう十分だ。
「気にしないで……」
「ごめんね、これでも友達だと思ってるから」
イトウさんは最後には一粒の涙を流して去っていった。
こんな状況なのに
教室に入るとまずゴミさんが目に飛び込んだ。
「あっ」
掲示板の前に立っていた彼女は、ボクを見るなり目をかっと見開き青ざめる。
「どうして……図書室にいたんじゃ?」
ボクの質問に答えず、ゴミさんは固まっていた。
しばらくしてからもう一度、あの、と声を掛ける、すると。
「う~~~~!!」
と、いきなり彼女は叫び、掲示板に貼られていた画用紙を
「ちょ、ちょ、何!? どうしたの!?」
「来ないで!」
駆け寄って止めようとすると、ゴミさんは大声を上げた。
陽光から外れて薄暗い教室に
「見ない方がい、いいから!!」
そう言われても紙の欠片は床に落ち、ユキっぽい髪型の
「忘れ物で、戻ったらこれが、イカれてる、こんなことする奴ら!」
ゴミさんはポツポツと喋って、どんどん顔が赤くなっていく。
ボクは泣き出す前に背中を
「大丈夫、大丈夫。ユキが見ないよう片付けないとね……」
「う、うん」
二人で紙片を集めながら考える。
イトウさんとゴミさん、どっちがteilorの可能性が高いか。
いや、
いや、どちらにせよteilorに命令か
いや、二人とも何にも関係ないかも。
いや――。
誰がクラスタで、誰が味方か。いや――味方なんて……。
そうだ、アルガ先生、先生なら。
◇
ストーブが効き過ぎた図書室から出たユキエは、冷気を浴びると
わかっている、何か
ミハルは二限から心ここに有らずで、ちゃんと話せてない。いや、それ以上に言い知れようのない感情と
――ミハルは確かに今も自分の為に動いてくれている、でも。
でも、考えなしの自分でもさすがに幼馴染とは落ち着いて喋りたい。
深く息を吐いて戻ろうとすると、目の前のトイレから女子生徒が一人、出てくる。
「やあ」
こちらに手を上げた、背が高くマスクで金色のソバカスを隠している女。
フジモリマナ。
そう言えば、ミハルがトイレに行くと言って出てからもう
「あんた、何なの?」
「え?」
「ミハルにちょっかい掛けて、何が楽しいの?」
「いやーあの子から来るんだけど。まあ楽しくやってるよ」
クスクス笑い、フジモリはふらりと、ユキエへの方に向かい歩き出す。
ユキエは
「ちょっと、まだ話が」
「マナやることあるんだよね~」
止めるのも聞かずフジモリは図書室横の小さなホール――ラーニングセンターと呼ばれる――に入ってカーペットの床を上履きのまま侵入した。
腰を落としてうろうろ歩き回りながら、彼女は何かを探してるらしい。
「……何してんの?」
「妖怪」
ユキエは揶揄われているのかと
「妖怪がいるんだ、この辺」
「ふざけないでよ! そんなものいるわけ無いでしょ」
「いや、いるから」
力の
ユキエにとってフジモリマナは、テニス部の頃の
「いる。ヤマダ達は気付いてないだけ」
それが今はどうだ。腰を上げてこちらを見る眼が
ミハルもこの異変に
「見せてあげる」
フジモリは突然駆け出す。
ラーニングセンターを出て、廊下を北へ。
ガサゴソと中を
「
と、言いかけてフジモリは立ち、教室をざっと見回してからまた隣の
「人を
「じゃあお母さんとかがうっかり手出して事故になってるんじゃないの?」
「平気、滅多にいないしね。百年経ったのもつい最近だし」
「すごい詳しいけど、どこで聞いたのそんな話」
「聞いたんじゃなくて。そういうハナシを考えたの、マナが」
「は!?」
茶々を入れてもフジモリの自信は
彼女は廊下をまた北、二つの研究室はスルーして二学年の教室が並ぶ北校舎に至る。
トイレの対面に作られた水道の前でフジモリは
「ところで、今のハナシ怖いと思う?」
「全然。細かいところが何も無いんだから」
「そうでしょ!」
我が意を得たりと頷き、フジモリは水道の蛇口にたくさん掛かっている輪ゴムを、一つ摘まむ。
「だからお前達は気付けない。だからいつも手遅れになるんだ」
そう言って彼女はユキエの右手をそっと取り上げる。まるで自然な動作に思え、ユキエが
ユキエの手首に輪ゴムをはめながら、フジモリは微笑んでこう聞く。
「
ヒュル……。
腕を風が撫でたような感覚。
そう思ってユキエが手首を見ると、輪ゴムが十程も
ガララと背後から音。
振り向くと戸の開いた研究室からアメ色の何かが飛んでくる。
ヒュルルルルルルルルルルルル……。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます