第2話A「二人の日常」

 


 綾side

「ハァッ!」

 今日も今日とて私は怪異破壊に勤しむ。今回は依頼による怪異退治。なんでも「勝手に動く電車」らしい。終電が終わった後、一つの電車が猛スピードで動いてるのが監視カメラ・目視の両方で確認されている。しかし、実際に駅の車両の数を調べると、一つも減ってないらしい。そこまで聞くと、カメラに写る幽霊か何かのように思えるが、運悪くその電車に轢かれた(その電車は音もなく走る上に、踏切のサイレンは鳴らないし、閉じないという状況になっているとか)動物や人が複数確認されているので実体がある。こんな訳がわからないも上に害意を明確に感じるものが怪異でないはずがない。そう思って私は依頼を受けると共に、数日間ソイツ見つけるために、深夜のパトロールをしていた。しかし、安全の為人払いしてもらったことに気づいたのか、なかなか見つからず、たまたま人払いに漏れがあった今夜やっと見つかった、というわけだ。電車の癖に妙に賢い。

『セット!』

『トランスジェニック!』

「Die Verwandlung!」

 衝撃波と共に私の身体が変化、赤い怪物となる。

「とりあえず、お前を止める!話はそこからだ!」

『sword』

 右腕に剣を生成、ヤツの車体の横にぶっ刺す。

「おおっと、危ない危ない」

 かなり速いので、気を抜くと振り落とされそうになるが

『wire』

 左腕に鉤爪付きワイヤーを形成して、車体の上に乗る。

「せいやっ!」

 剣をぶっ刺し、電車の中へ侵入する。

 剣とワイヤーを消し、あたりを見回す。

「とりあえず、運転室に行こうか」

 こいつが何であれ、電車の形をしているなら、運転室で止めることができるはずだ。

 運転室近くまで来たので蹴りでもってドアをこじ開けようとするーーーが。

「んん?」

 ドアが壊れなかった。

「頑丈すぎやしないか?まあいいか、ならこれを使ってみよう」

 帯の描かれた注射器をドライバーにさす。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『メギンギョルズ!』

 私の腰に帯が巻きつく。力が何倍にも膨れ上がる感覚がする。

 メギンギョルズ。北欧の神、トールが身につけたとされる帯。力を増幅する効果を持つ。

『セット!』

『ブレイク!』

『メギンギョルズ・エンド!』

 メギンギョルズで増幅した力を込めた蹴りをドアに叩き込む。

「いっけえええええ!」

 すると、豪快な音を立てながら、ドアが吹っ飛んだ。

「これでよし!」

 ドアがなくなったので運転室に入る。

「さてさて、ブレーキはとーーーあれ?」

 そこには、ブレーキが無かった。いや、が無かったと言った方が正しい。

「ええ・・・これどーしよ」

 予想外の事態なので少し混乱する。しかし、それだけだ。

「ま、止められないなら、力尽くで壊すだけだね!」

 メギンギョルズの力で持って、電車の座席を引っこ抜き、床に突き刺す。座席は床を貫通し、地面に刺さる。が、負荷に耐えられず、すぐに折れた。

「だよねえ・・・」

 予想通りといえば予想通りだが少し困る。まあ床に穴が空いたのでよしとしよう。

「じゃあ車輪をもぎ取るかー」

 弓が描かれた注射器を取り出す。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『フェイルノート!』

 右腕が弓になる。床に開けた穴から車輪を狙い、矢を放つ。狙い違わず前段車輪に命中、車輪を破壊する。破壊したのは半分ほどだが、それでもバランスを保てなくなり停止する。私は車体の外に出て鎖が描かれた注射器を取り出す。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『グレイプニル!』

 私の背中から鎖が生える

「さあ、これで終わりだ・・・貴様を破壊する!」

『セット!』

『ブレイク!』

『グレイプニル・エンド!』

 背中の鎖が更に増え、伸びる。伸びた鎖が電車の車体を覆い隠すように車体に絡みつく。しばらくすると、車体が完全に鎖で覆われた。

「一片の欠片も残さず、破壊する」

 鎖は車体を押し潰すためにその形を球状へと変えていく。電車の車体が圧縮される音が聞こえる。そして、しばらくすると、鎖の球は大玉ころがし用の玉くらいに縮んでいた。

「じゃあ、これでさよならだ」

 鎖を千切り、球をそこに置く。

『sword』

 剣を生成する。

『セット!』

『ブレイク!』

『ソード・エンド!」

 剣に力を込めて、球体を完全に破壊する。後には、鎖だった粒子と、無人電車だった粒子だけが残されていた。

「おっと」

 空の注射器を取り出し、無人電車の粒子を吸収する。物質系怪異の構成材質は、たとえ原子レベルに分解しても、よくない影響を周囲に与えるから、回収する必要がある。その手段が、この空の、今は電車の材質で満たされた注射器である。この注射器に吸収されると、その物質は「消失」する。つまり完全に無くなる。これが私の「怪異を完全に破壊する力」。怪異を滅ぼすという私の憎しみが結晶したもの。(ちなみに、前回の怪異はいわゆる妖怪・概念系怪異なので、この注射器を使う必要はない)

「さて、これで依頼は完了かな?」

 今は夜だし、連絡してから再度明日の朝連絡して、経過観察後報酬を貰おう。

「ま、カメラで戦闘の場面は撮ったし大丈夫でしょ」

 うーんと伸びながら、自宅へ歩いていく。ついでに、依頼者へ依頼完了のメールを送っておく。

「早く寝たい・・・」

 こうしていつも(怪異破壊)の日常が過ぎていった。

 side out


 紫side

 僕は今日も怪異収集に勤しむ。今回は依頼による怪異退治。あいつはネット上に依頼フォーラムを作ってそこに書かれた依頼を受けるようにしている。綾は妹がいるから家になるべく人を立ち入らせたくないようだ。けれど僕は違う。僕は独りだ。

 家に帰っても帰りを待ってくれる人なんて誰もいない。だから僕は自宅を事務所にして、現実でもネット上でも依頼を受け付けている。今回は事務所での依頼だ。なんでも「学校に存在しない先生」らしい。依頼人はある中学校の警備員。そいつは真夜中になると、現れる。外見は頭が竹刀らしきものである以外はジャージを着た大人。まあ当然ながら頭の代わりに竹刀の生えた人間なんているわけもないから明らかに人外である。そして、その先生とやらは、職員には手を出さないが、職員以外ーーー生徒や部外者が学校に入ってるのを見つけると、殺しに来るそうだ。そして、朝になると、殺した者の死体とともに綺麗さっぱり消えるらしい。最近多発している行方不明事件や失踪事件はどうもこいつが原因のようだ。職員には手を出さないとなると、生活指導でもやってるのだろうか。まあ、何にせよ、訳がわから無くて害意を明確に感じるから怪異だろう。というわけで今僕は件の中学校にいる。警備員さんの許可を得て、校内を徘徊してる途中だ。・・・早速見つかったようだ。

「君は何故こんな時間に学校にいる?」

「そっちこそ」

「私は教師だ。そしてルールを守らない子は・・・矯正してやろう!」

 教師らしき実体が鈍器のような物を持って殴りにかかってきた。警備員曰く、「死体は全員殴打されて殺されたように見える」らしいから鈍器で殴り殺しに来るのだろう。いや竹刀使わないのかよ。にしても何だろなあこれ、体罰する教師の思念みたいなのが凝り固まって出来た怪異だろうか?ま、どうでもいいか。ソイツが怪異なら回収するだけのこと。ドライバーを取り出す。

「んん?何をしようというのかね?」

 答えずに

『セット!』

『トランスジェニック!』

「Evolution」

 僕の身体が青い化物へと変化する。その衝撃波で実体が吹っ飛ぶ。

「お前を収集する」

「何を言ってるんだ君は?・・・まあいい矯正してやろう!」

 実体がこちらに向かってくる。相手が鈍器ならこっちも鈍器だ。槌の描かれた注射器をドライバーに刺す。

『セット!』

『トランスジェニック!』

『ミョルニル!』

 腕が巨大な槌へと変化する。

 ミョルニル。北欧の神トールが振るったとされる槌。まあ十全に扱うには籠手がいるらしいが、僕の場合は振り回すだけだからあまり関係ない。

「せいのっ、と」

「!?」

 振り回した槌が当たり、実体の鈍器を破壊する。

「教師である私に歯向かうとは・・・許さん、許さんぞおおおお!」

「知らないよ」

 実体が鈍器を再び取り出して襲いかかってくる。だから竹刀は?とりあえずカウンターの要領で実体の胴体に槌をクリーンヒットさせた。実体が呻きながら吹っ飛ぶ。

「ぐおおおおおお!」

 コイツ、力はあるけどそれだけだ。なんていうか、技術が無い。それでも力があるから一般人なら余裕で殺せるだろう。

「そろそろ終わりにさせてもらうよ」

「教師である私を害するとは!生徒の風上にも置けない!退学だ!退学だ!退学だ!退・・・」

「うるさい」

『セット!』

『ブレイク!』

『ミョルニル・エンド!』

 巨大化した槌で実体を叩き潰す。実体はグチャグチャの肉塊にーーーと思ったらそうでもなく、普通に生きてた。まあ怪異が叩き潰しただけで死ぬはずもない。校舎を壊さないように注意しながらしたしね。けれど収集するのにはこれで充分。

「お前を収容する」

 匣を取り出し蓋を開ける。

「何!?ぐおおおおおお!」

 実体が吸収される。もがいてるようだが

「貴様!貴様!貴様あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」

 すぐに全身が吸収され、影も形も見えなくなった。匣の蓋を閉める。これで収容完了。この匣は、怪異ならなんでも吸収、封印する。内部では時間が止まってるから怪異が封印を破る可能性はない。ただ、ある程度弱らせないと匣の吸引力に怪異が勝つことがよくあるから、怪異をボコらなきゃいけないのが難点ではある。これが僕の「怪異を収集する力」。怪異の存在で人生を狂わされた僕の怪異に対する報復手段。

「さて、これで依頼は終了した」

 肉体を人間に戻し、とりあえず警備員室に向かう。

「依頼は完了しました」

「本当ですか!ありがとうございます!」

「では、報酬については事前に言った通り、経過観察後、頂きに参ります」

「わかりました。いやはや、解決して頂けるとは・・・本当に助かります!これで安心して警備が出来ます!」

「仕事ですから。それでは。また何かあったらご連絡ください」

「はい!」

 そう言って僕は夜の校舎を後にする。依頼を終えた後なので達成感に包まれながら帰っていく。そこで綾に出会う。どうやら彼女も一仕事終わらせたみたいだ。

「やあ」

「ん?紫じゃない。何してんの?」

「一仕事終えた帰りさ。君は?」

「私も一仕事終えた帰りよ。疲れたわ・・・」

「どんなやつだったんだい?」

「無人電車」

「へえ。こっちは学校の殺しに来る先生だったよ」

「ふーん」

 お互いそんな口をききながら自宅へと帰ってく。

「じゃ、私はこれで」

「じゃあね。また会う時もこの前みたいに協力できることを祈るよ」

「さあね。怪異次第じゃない?」

「それもそうだ」

 そして、完全に別れる。綾は疲れたと言っていたが僕も疲れた。早く寝よう・・・

 side out

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