第53話

ユリアは、創太と共に森へと入っていった。目的は森の中にある魔法陣の破壊。そしてユリアはその眼で敵を見つめている。と言っても見つめた瞬間に灰へと帰っていくのだが。



ユリアは魔法という物に関しては天才と呼ばれて当たり前の能力を備えている者。全魔術に適正があり、無詠唱で魔法を放てるその姿は、見る人から「化け物」と罵られたこともあったという。



だが、この能力があるからこそ、今創太の役に立っている事を幸せに思いながら、魔法を構築していく。



創太からもらったスキル。その中の一つ「神術」を使い、ある一つの魔法を構築する。その名も




「灼熱眼――(バーガトリー・アイ)―-」





「灼熱眼」の能力は一つ、目につく物を認識して、灰になるまで燃やす。この一つの能力を持った魔眼を疑似的に再現する魔法。これは「神術」でしか発動できない様な魔法だが、それを発動できるユリアも相当のセンスの持ち主と言える。そしてこれだけでは飽き足らず。ユリアはもう片目に「神術」を構築する。





「青眼―――(ブルー・アイ)―-」





「青眼」の能力は一つ。相手の情報を読み取ることが出来る。敵対しているか、自分より強いか、どんなスキルを持っているかが一瞬で分かる。所謂「解析」系の魔法を疑似的に義眼にした、センスある魔法。これをユリアは同時に使っているのだ。


同時に使えるとなると、それだけのセンスはアルをも凌駕する。この世でそんな芸当が出来るのはおそらく創太とユリアの2人だけだろう。




そしてこれで目につく物を一瞬で認識して一瞬で灰へと返す。それを繰り返しながら森の奥へと進むさまはまるで死神。だが両目の色がまるで生物ではない幻想感を繰り出している。その可愛さも相まって、人々はこう呼ぶことだろう。「人形の死神」と。




それだけユリアという人物は幻想的で、でもどこか「死」を連想させてしまう。そんな者へとなりながら、それでも森の奥を進んでいく。すると出会った。出会ってしまった。死神が死ぬかもしれない現場へと。その男の元へと




「んん゛?あなたは」



(人?まさか…)




ここでユリアは間違えた選択をしてしまった。ここで人だろうと一切の容赦なく魔眼を発動させその男を殺すべきだったのだ。だが、ユリアにそんな非情な判断は出来ず、だが天性のセンスで拘束系の魔法を無詠唱で構築しようと思ったが。





「魔法?んん゛?だがしかぁ~し!させませんよぉ~!」





その男が黒い宝珠を掲げたと思うと、中から瘴気のような黒い魔力が溢れだし、ユリアへと絡みつき始める。そして、





(う、動けないっ……)





その宝珠の名は「魔神の瘴気」。瘴気に触れている者のステータスを1になるまで吸い尽くし、そのステータス分を対になっている宝珠へと送るという物、普通ならその宝珠は0、1秒足らずで吸い尽くせるのだが、ユリアは何とか4秒耐えた。逆に4秒しか耐える事が出来なかった。



魔力が吸い尽くされるさなか、残った最後の意識を念話へと向ける。そして





(助…けて……創…太)




それを最後に、ユリアは意識を落とした。






そして男は倒れたユリアに近づき、ゆっくりとその華奢な体へと触れようとする。が、その男は知らない。それをしたことで、人を越えた化け物が怒り、狂い。その憤怒の業火に焼かれ、その力が、憎しみがその男――ローブを被った男へと向けられていることに。それに気付くのは、あと数秒後だという事も……。

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